第75話 再会

 先に声を上げたのはレキハさんの方だった。


「あっ~~! もしかして、国崎っ!?」


 クラスの中で。

 僕のことを認知してる女子なんかひとりしかいない。

 

 うそっ。

 まさか・・・。


「――星宮さん?」


「やっぱそうじゃんっ! 国崎でしょっ?」


 どうやら当たりだったみたい。

 

 神鹿しんろく壬雲みずのえぐもレキハさん――もとい星宮らむねさんは、席から立ち上がって唖然とした表情を浮かべてる。


 たぶん。

 僕も似たような顔をしてるに違いない。


 すぐに星宮さんが手をぶんぶん振って近寄ってきた。


「ウチの推しが国崎だったなんてっ! すごすぎだよっ!?」


「こっちもかなり驚きです」


「いやでもさ! なんとなく、そうなんじゃないかなぁーとは思ってたんだよね~。この前、キレキレが苗字を暴露してたでしょ?」


「キレキレ?」


「ほら、偽名使ってる変な男に絡まれてたじゃん! マイクだか、マリモだか、ウソついててさ。ちょっとだけあの配信は見てたんだよー。妹ちゃんについて、しつこくいろいろ聞いてきたでしょ?」


「マヒト総長さんのことですか?」


「名前忘れちゃったけど、たぶんそいつ! もう関わらない方がいいよっ? キレキレって最悪な噂しか聞かないし」


 あの一件以来。

 総長さんとは会ってなくて。


 星宮さんによれば、総長さんは過去けっこう有名なダンチューバーだったみたい。


「けどさ。そうじゃないかって思っても、実際聞けないじゃんっ? ウチ、がっこじゃダンチューバー好きなことも隠してたし」


 たしかに。

 星宮さんの口からそんな話聞いたことなかったな。


「はぁ~~。やっぱそうだったんだー。なんかモヤってたものが取れたって感じ。実はね。さっき会った時からずーっと確認したいって思ってたんだよね~。でもでもっ! エデンさんって国崎だったりします?とかさ。さすがに聞くの無理くない!?」


 星宮さんはだいぶ興奮気味だ。

 気持ちはすごくわかる。


 ただ、あまりにも驚くことが重なりすぎて。

 

 僕の方はというと。

 呆気にとられ、言葉が続かないって感じだった。


「あっ」


 そこでふと。

 星宮さんがユイさんの視線に気づく。


「ご、ごめんなさいっ! つい盛り上がっちゃって・・・」


「いや、べつにいいんだ。それよりも面白い偶然だね。ふたりともお互いの素性に気づいてなかったんだ?」


「はい。ぜんぜん気づきませんでした」


「ウチも」


「ダンジョンに入ると、スタイルの影響で容姿や恰好ががらっと変わるから。知り合いでも、お互い気づかないって話はよく聞くからね。仕方ないさ。かくいうあたしも。ダンジョンの外に出たら、まったく気づかれないんだよ」


「ええっ!? ユイ先輩でもそうなんですか!?」


「そもそも、あたしのこと知ってる人なんて少ないだろうけどね」


「そんなことないですって! だって、チャンネル登録者数500万人越えのちょー人気ダンチューバーですよっ?」


「ふふ、ありがとう。けどそれも過去の話さ。今はクランの仕事に専念してて、ここ1年くらいはまったく配信してないからね。いや、あたしの話はいいんだ」


 ユイさんは、講義台に置かれたタブレットに改めて視線を向ける。


「ふたりの本名は――星宮らむねさんと、国崎優太くんだね。ここ数年、クランの試験にたずさわってきたけど。同じタイミングでクラスメイトが受験することになったって話も、まったく聞いたことがないよ」


 そうだよね。


 こんな偶然。

 めったに起こらないはず。


「でも、知り合いというのならちょうどいい。試験の性格上、受験者はその日はじめて会う者同士ってのが基本だから。どうしても緊張して実力が発揮できないってことがあるんだけど。きみたちの場合、その心配はなさそうだ」


「はぁーい♪ 国崎とはめっちゃ仲いいし! なんならニコイチなんでまっーたく問題なしですっ☆ だよね?」


「えっ? あ、はい・・・」


 ちょっとびっくりかも。

 

(星宮さん、そんな風に思ってくれてたんだ)


 クラスのみんなも。

 この言葉を聞いたらきっと驚く。


 クラスで一番人気者の星宮さんが、カースト底辺の僕と仲良しだなんて。

 

 でも。

 そう言ってもらえて、素直に嬉しかった。


「そういうことなら安心だね。うん。じゃあ、このあとの流れについて簡単に説明しておこう。ふたりとも案内票はすでに目を通してると思うからざっくりと。このあとまずは、クラン規定の講習を受けてもらうことになる」


「テストとかあるんでしょうか?」


「いい質問だ、国崎くん。結論から言うと・・・テストはない。ライセンス試験を受ける前に、知っておいてほしいことをひととおり説明させてもらうだけだから。そう気負う必要はないよ」


「どんな内容なんですー?」


「たとえばだけど。ダンジョンが現れてから今日までの歩みとか、探索者クランの成り立ちとか。あと、ダンジョン内での戦闘や遺物キューブの使い方なんていう、ふたりともすでにわかっている話も一応させてもらう。知ってる内容は聞き流してもらってかまわない。もちろん、わからないことがあれば、その都度どんどん質問してくれ」


 と、ここまで話すユイさんの表情は穏やかで。

 鬼試験官っていう印象はまるでない。


 笑顔を交えながら話すそのさまは。

 優しい先輩そのもの。


(たぶん、悪い噂が勝手にまわっちゃったんだろうな)


 陽子さんによれば、そういう噂はよくまわってしまうって話だし。


 実際にユイさんと話してみると。

 めちゃくちゃ人格者だってのがわかる。



 キンコーン、カンコーン。



 ちょうどここで。

 ふたたびチャイムが鳴った。


「時間になったみたいだね。そろそろはじめたいと思うけど。ふたりとも準備はいいかな?」


「はいー大丈夫でーす♪」


「よろしくお願いします」


 僕らが頷くの確認すると。

 ユイさんは教材を配りはじめて。


 講習がスタートした。

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