第67話 東京 その1

 翌朝。


 ホテルをあとにすると。

 ターミナル駅から2駅先で下車する。


 改札を出たところで、ホテルに忘れものしてないか最終確認。


(案内票も入ってるし。準備は万全かな)


 探索者クランは、どうやら『霞ケ関かすみがせきダンジョン』の内部にあるようで。


 ダンジョンの中に建物があるってのも、なんか新鮮な感じだよね。


 一度スマホを取り出す。


(7時57分、か)


 約束の時間まであと15分ちょっと。

 

 試験の流れをおさらいしておこうと、カバンから案内票を取り出そうとするも。


(?)


 人混みに紛れながら。

 こちらに手を振って駆け寄る人影が目に入る。


 あれは・・・。


(うん。間違いない)


 僕は頭を下げて挨拶した。


「お久しぶりです。陽子さん」


「優太さまぁぁ~っ! お逢いしたかったですわぁぁっ~~♪」


「え、ちょっ?」


 どんっ!


 ダイブするように飛び込んできた陽子さんに、思いっきり抱きつかれてしまう。


「んんぅ~~♪ 久しぶりに優太さまの成分を摂取できましたわぁぁ~。はぁぁぁ♡ たまりませんわぁ~♡」


 夏休みとはいえ。

 大人はふつうに仕事があるわけで。


 通勤時間なんだろう。

 改札前はスーツ姿のサラリーマンやOLでごった返していた。


 が。


 そんな人たちのことなど、まるで目に入ってないように。

 陽子さんはお構いなし。


「あ、あのぉ・・・陽子さん?」


 高価な香水の匂い。

 久しぶりに嗅いだ気がする。


 てか、やっぱ苦しいっ・・・。


 さすがに大勢の人たちの前で、いつまでも抱きつかれてるのは恥ずかしかったから。

 いったん離れてほしいと伝えると。


「ハッ!? 大変失礼いたしましたわぁっ!? 優太さまのお顔を拝見しましたら、いても立ってもいられなくなってしまい・・・。申し訳ございませんわっ」


 ひと息ついてもらうと。

 ようやく冷静さが戻ってきたみたい。


 ひとまずホッとする。


 


 今日の陽子さんは紺のブレザーにチェックのスカートと。

 清涼感ある学校の夏服を着てて。


 改めて僕は挨拶する。


「こんな朝早くに。わざわざお越しいただきましてありがとうございます」


「とんでもございませんわ~。せっかく優太さまが東京にいらしたのですからっ。ご挨拶に伺うのは当然ですの♪ それに今日はクランの試験を受けられるっていう特別な日でもございますし」


 実は試験の申し込みを終えた段階で。

 陽子さんには東京へ行くことをラインで報告してたんだよね。


 そういうことならぜひお逢いしたいって。


 まだ夏休みに入ってないにもかかわらず。

 登校前にこうしてわざわざ会いに来てくれたってわけだ。


「本当に久しぶりの再会ですわ~♪」


「そうですね」


 あのコラボ配信から。

 僕を取り巻く環境はガラッと変わって。


(あのとき。陽子さんが誘ってくれなかったら、今の恵まれた状況はなかったと思うし)


 ほんと感謝しかない。


「わたくし。この間ずぅ~っと。優太さまとお逢いすることだけを考えておりましたの。ですから、こうして願いが叶った今。とても幸せですわ♡」


「僕も陽子さんとまたお会いできて嬉しいです」


 コラボ配信のあと。


 陽子さんとはまめにラインでやり取りしてて。

 何度かダンジョンで会いましょうって話になったんだけど。


 お互いのタイミングがなかなか合わなくて。

 

(結局、一回も会えなかったな)


 僕の方はというと。

 攻略のエリアを都内から関東近郊に移してたし。


 陽子さんも陽子さんで。

 

 親父さんにきちんと管理されて、思うようにダンジョンに潜れてないみたい。


 だからこそ。

 こうやってふたりで再会できたのが嬉しかった。


「優太さま。本日のライセンス試験。上手くいくことを心より祈っておりますわ!」


「ありがとうございます。期待にお応えできるようがんばりたいと思います」


「応援しておりますわ♪」


 それにしても。

 清楚な夏服は、いかにも上流のお嬢様学校の制服って感じで。


(ぜんぜん違うよなぁ)


 少なくともうちの田舎ではぜったい見かけない。


 美人な陽子さんが着こなすと。

 インフレが起こって大変なことに。


 こうして面と向かって話してるだけでも。

 実はかなり緊張してたり・・・。


「えっと、それじゃさっそくですけど。行きましょうか?」


「はぁーい♡」

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