第68話 東京 その2


 駅の構内を歩きながら。

 陽子さんと今日の試験について話す。


「たしか二部制なんですわよね?」


「はい。午前と午後にわかれてるみたいです。といっても、午前は講習を受けるだけっぽいんで。試験自体は午後に行われるようですね」


「知りませんでしたわ。午前は試験じゃなくて講習なんですわね」


 その講習についても。

 詳しくなにを受講するかは聞かされてない。


 また、本番の試験もけっこう謎に包まれてて。

 申込後に届いた案内票にも、内容に関する記述は一切なかった。


 紫月に聞いても。

 情報はほとんど出回ってないって言うし。

 

 受験者全員に守秘義務が課せられてるから。


(それで情報が漏れないのかも)


 僕自身も。

 申し込みと同時に宣誓書を事前にクランへ送ってたりする。


 今度は逆に、気になってたことを陽子さんに訊ねてみることに。


「何人くらい受けに来るものなんでしょうか?」


 ライセンス試験は、年4回ほど行われてるようで。

 ある程度の人がやって来ることが予想できた。


 僕の場合、たまたま7月の試験に間に合ったからよかったけど。

 もっと前から予約してた人もいるに違いない。


「そうですわね。わたくしも事務所のマネージャーからお話を聞いただけなので、詳しくはわかりませんけど。おそらくかなり少ないのではないかしら?」


「えっ。そうなんですか?」


「実は、いちじよじに所属するダンチューバーの方々全員。ライセンスは所持しておりませんの。そもそも深層階へ到達できる方はほとんどおりませんし」


 深層階――厳密に言えば、地下29階なんだけど。

 そこへの到達がライセンス試験を受ける上での受験資格のひとつに設定されてて。

 

 思いのほかそのハードルが高いみたいだ。


「今は浅層階を周回する配信が主流ですので。昔に比べて試験を受けられる方自体ぐんと減ってるのかもしれませんわ」


「なるほど」


「それに。ここ最近のライセンス試験は、難易度が格段に上がったっていうお話ですわ。それも影響してるのかもしれませんわね」


「難しくなったんです? どうしてなんでしょう?」


「これも事務所の方の受け売りですけど。試験官がとても厳しい方に変わられたみたいなんですの」


 ひそかに今のライセンスは。

 存在しないアンノウンって揶揄されてるらしく。


「そういう噂は意外とまわってしまいますわ。でしたら、今回は受けるのはやめようと。そんな風にリスクを回避する探索者さんが増えたとも考えられますわね」


 どうやら。

 かなり狭き門にこれから挑もうとしてるみたい。


 ただ、事前に知ってるのと知ってないのとでは大きく違う。


「有益な情報ありがとうございます。ちょっとだけ気持ちが楽になりました」


「実際に会場へ行ってみないことにはわかりませんけどね。ですが、優太さまなら、どんな試験だろうとかならず突破できるとわたくしは信じておりますわ♪」


「はい。がんばりたいと思います」

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