第48話 4thダンジョン Ⅰ

 放課後。


 帰宅すると、紫月しづきに声をかけてからいつものようにダンジョンへ。


「ふぅ」


 配信の準備を進めながら少しだけため息がもれる。


 星宮さんに声をかけられたあと、職員室へ行ったわけだけど。

 そこで担任の先生に言われたのは、授業料納入の遅れについての指摘だった。

 

 叱られたわけじゃない。


 先生も僕の両親がすでに亡くなってて、妹とふたり暮らしだってことは知ってる。

 いろいろと生活の相談に乗ってもらってたりするし。

 

 ただ、どんな理由があるにせよ。

 甘えていいってわけじゃなくて。


 授業料の納入が遅くなった責任は僕にある。


 紫月に不自由ない暮らしをしてもらいたいから、生活費は遠慮なく使ってもらってるけど。


 実際、けっこうギリギリだ。


 今は父さんと母さんが残してくれた財産を切り崩して生活できてるけど、高校を卒業したら働かなくちゃいけない。

 

 ふと頭によぎるのは、この前陽子さんに言われた言葉。 


 登録者が増えれば、それだけ収益を得られるチャンスが広がるって。


(たしかにそのとおりだ)

 

 スパチャの解放は今のところ考えてないけど。

 でも、いずれ必要になる時が来るかもしれない。


(紫月のためにもお金はいるよね)




 僕の妹は、小さい頃からずっと体が弱くて。

 まわりのお医者さまに見てもらっても、原因はわからないまま。


 今日はちゃんと起きてたけど。


 年々、眠っている時間が長くなってることに僕は気づいてた。


 とにかく。


(紫月が探してる風景が病を治すヒントになるかもしれないんだ)


 今の僕にできることと言えば。

 紫月のためにいろいろなダンジョンに潜って探索すること。


 それと並行してチャンネル登録者数も増やせたら言うことない。




「今日もやっていこう」


 ぱんぱん!と両頬を叩いて気持ちを注入すると。

 一度、ボディコンソールに目を向ける。


 そこに表示された同接数は1947人。


「えっ?」


 見間違いじゃないよね・・・?


(コラボ配信を見てくれたリスナーさんが来てくれたのかな)


 あの配信。

 最終的に3万人を越える人が見に来てくれたみたいだし。


 改めて、一流ダンチューバー祝言亭しゅうげんてい八咫烏やたがらすワデアの偉大さを痛感する。


 なんかこんな大勢のリスナーさんに待機してもらってると思うと緊張してきたな。


(・・・いや、大丈夫。ふだんどおりの自分で)


 リスナーさんが増えたからといって目的は変わらない。


 やることはこれまでと一緒だ。


 と、その前に。

 ちゃんとスタイルチェンジしておこう。


 ジャァァァン!


 暗殺者アサシンから槍士ランサーへ。


 さすがに2000人近いリスナーさんの前で、配信主が透明で見えないってのも失礼だろうし。

 

 小型ドローンを飛ばしてボディコンソールで映り具合を確認。

 

 問題ない。

 ちゃんと映ってる。


 よし、そろそろはじめようか。

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