第33話 3rdダンジョン Ⅴ

 準備があるってことで、いったんドローンカメラの範囲から外れると。

 ワデアさんが訊ねてくる。


「それではエデンさま。これからいかがいたしますの?」


「ひとまず中層階を目指そうかなって思います」


「ち、中層階ですのっ?」


「はい。そこから深層階へ降りちゃいましょう。『赤羽ダンジョン』は、地下25階まであるみたいなんで。少しだけ急ぎめで進めるとベストですね」


「え、え、えっ・・・?」


 あれ。

 なんかワデアさんの反応がよくない。


 なにか変なこと言っちゃったかな。


「マズかったでしょうか?」


「い、いえ・・・。エデンさまはいつもそのようにして進んでおりますの?」


「普段はだいたい30分くらいで中層階に到達してますかね」


「ハイっ!?」


「深層階まで降りられるダンジョンだと、最下層までだいたい1時間を目標にしてます」


「たったの1時間!?」


「門限があるんで。たまに遅くなっちゃうこともあるんですけど。そのときは紫月しづきに謝ったりして」


 ん?

 なんだろう。


 なぜか首をぶんぶんと横に振るワデアさん。


「エデンさまっ! すごすぎますわ!」


「?」


「ふつうそんな早く到達できませんことよ!? というよりも! そもそも中層階に到達できるダンチューバーすらほとんどおりませんわっ!」


「え、そうなんですか?」


「当り前ですわっ! そこに至るまでさまざまな困難が待ち受けてますのよっ? エネミーはわんさかおりますし、遺物キューブだって拾えるかは運ですわよね? たとえば、ものすっご~く運がよくて。順調にレッドキューブを揃えながら降りられたとしても。たった30分で中層階に到達なんてぜったい無理ですわぁっ! ハァハァ・・・」


 ワデアさんは顔を赤くさせながら迫ってくる。

 だいぶ興奮してるみたい。


(そうだったんだ。知らなかったな)


 まあでも。

 これまでの僕は、敵に一切見つからずダンジョンを進めてたわけで。

 

 たしかにちょっとズルいかも。


 それに今日はひとりで潜ってるわけじゃない。

 当然、ワデアさんのペースに合わせるべきだ。


(今は暗殺者アサシンのスタイルでもないしね)


 今日はふだんよりもダンジョン攻略には時間がかかるはず。


「ごめんなさい。ワデアさんのことも考えず、先走るようなこと言っちゃって」


「いえ、エデンさまを責めてるわけではないんですのっ。あまりにも当たり前のようにお話されてましたので・・・つい。本当にすごいことですのよ? 1時間で深層階の最下層に到達なんて・・・そんな離れ業できるダンチューバーは、日本全国探してもエデンさま以外いないはずですわっ!」


 ワデアさんの興奮はまだ収まらないみたいだ。

 

 ただ、ここであれこれ話してても。

 あまり意味はないわけで。


「そろそろ出発しましょうか。もし早く進みすぎてるようでしたら、遠慮なく声かけてください」


「ええ、お心遣いありがとうございますわっ。そうしていただけると助かりますの。なるべくエデンさまに置いていかれないよう、精一杯ついてまいりたいと思いますわっ」


 基本的には僕がエネミーを倒すって決めて。

 ワデアさんと一緒に通路を進みはじめる。


 いよいよダンジョン配信開始だ。

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