青の追想2
その後、綺羅と僕は2年ほど路地裏で暮らした。なんだかんだ綺羅とは気があって旧友と再開したかのような錯覚に陥ることもしばしばあった。
◆
「蒼、お前ってやっぱり坊ちゃんだよな」
ある日、綺羅は僕にそう言った。
「なんでそう思うんだよ、別に坊ちゃん要素どこにも無いだろ。見ろよこの汚い身なりを」
僕はどうぞ見てください、と軽く手を広げた
「いやさ?一人称が「僕」のまんまだし、立ち振る舞いも品がある…ように見える。というか汚い身なりってなんだ、そんなふうに思ってたのかよ。服くらい言えばやるし、蒼の髪は綺麗じゃないか」
色々とつっこみたい所はあったが最後の言葉が放たれた瞬間、ぞっとして顔をしかめた。
「綺麗って…そういう事は女の子に言ってやれよ」
「こんな所にいる女は口説きたくない」
綺羅は真顔でそう言い切った。この辺りの治安は悪い、ここで暮らす者は僕を含めてまともな奴がいないのだ。まずは記憶喪失の僕と自称路地裏生まれの綺羅、薬物中毒の痩せた女に借金取りから逃げてる大柄な男、その他数名。
この広い路地裏には一応、1人1人に縄張りがあって互いに関わりを絶っている。あえて境界線を引いているのだ、関わった所でろくな事にならないのは明白だ。2人1組で行動するのなんて僕達くらいだった。
だが実際、そうするしかなかった部分もある。ここで生きていくにあたってどうしても力が必要になる。その力とは情報力と単純な暴力だ。
綺羅は路地裏生まれを自称するだけあって、この周辺の地理・住人の人となり・注意すべき内と外の事柄などを完璧に把握していた。ちなみに「注意すべき内と外の事柄」の“内“は路地裏内、“外“は路地裏の外の事だ。
路地裏内も十分危険だが、実際に住人達が恐れていたのは外の人間だ。彼らは“諸事情“があり、それを外の人間に見つかる訳にはいかない。もしかしたら僕も“諸事情“を持っているのかもしれないが僕が恐れていたのはそこじゃなかった。
もし僕が外の人に出くわしたとして、その人と戦っていいのかが分からないのだ。真っ先に戦うべき相手は賞金稼ぎだ。手元にある財産は全てむしり取られ、路地裏の人間を片っ端から捕まえようとしてくる。
僕が争おうとすれば負けることは無い、だがその事実は僕を恐怖づけた。この路地裏には賞金稼ぎやガラの悪い奴らに紛れてたまに“一般人“が迷い込んでくるのだ。
赤子の手をひねるよう、とはよく言ったもので実際に僕と他の人間とにはそれだけの実力差があった。そこで僕は間違いが起きないように綺羅に情報を貰って戦うことにした。いつの間にかそれが常となり、綺羅と共に行動するようになっていた。
◆
次の日、綺羅は「少し出かけてくる」と言って出かけてしまった。
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