第19話 知ってるマトイの姿
「はい、150円ちょうどね。まいど~」
4時間目の授業を終え、お昼休みに突入した。学校に来たパン屋のおばちゃんから、150円の焼きそばパンを1つ購入。
この学校内では、休日と特別日程の日以外は、決まった場所に毎日パンを売りに来るこのパン屋さんのパンがとても人気だ。
授業終わりのチャイムが鳴ると同時に、パンを求めてダッシュで売り場まで行く生徒がとても多い。
もちろん、普通に教室や外とかでお弁当を食べる生徒も居る。
安くて美味しい。長年この高校の生徒から愛され続けているパン屋さんだ。
一方で俺はと言うと、マトイに話を聞いてもらえず、どんよりとしながら焼きそばパンと財布を片手に階段を登る。
「………教室だとマトイが居るから、屋上で食べよ」
今のマトイと一緒に居るのは、とてもじゃないが俺の心が持ちそうにない。
………いや、待てよ? よく考えてみれば………なぜそこまでしてマトイに冷たい態度をとってくるのか聞こうとする?
もしマトイから本当に嫌われたと言うならば………それはそれで俺にとって好都合でもあるんじゃないか? なぜなら、また1人での生活に戻れるからだ。
マトイのお父様からはとてつもないお怒りを受けるかもしれないが、それでまた自由な日常が戻ってくるなら………。
「………悪く、ねぇかも」
元々1人で居る事が大好きな俺なんだ。マトイの事は嫌いじゃないけど好きでもない。ただ、幼い頃はよく一緒に遊んだり、お風呂にも入ったし、ご飯も食べた。いわゆる幼馴染みに近い存在。
馴染みが深い仲ではある。だから、マトイと同棲する事を知った時も、そこまで嫌じゃなかった。
「……………」
俺は何も発する事なく、屋上へと向かう。
☆☆☆
「………ん? 珍しいな。今日は俺だけか」
屋上の扉を開き、辺りを見渡すが生徒の姿が誰1人として見当たらない。
普段なら、少なくとも3~4人。多くて8人ほどの生徒がここでご飯を食べているんだが、珍しく俺以外誰も居ない。
「ラッキー、屋上一人占め」
まさか屋上で1人飯出来るなんてな。今日は運が良いようだ。別の意味では悪いかもしれないが。
屋上に設置されているベンチに座り、財布をポケットへ入れ、さっき買ったラップで包まれた焼きそばパンを開封。
口を開いて焼きそばパンの先端にかぶりつこうとしたその時だった。ガチャッと扉の開く音が聞こえた。
なんだ、せっかく屋上一人占めだと思ってたのに………やはりそんなうまい話はないか。
ふと扉の方に視線を向ける。そして、俺はピタッと動きを止めた。
「………ミズキ」
「………マトイ?」
そう、屋上に来たのはマトイだったのだ。
マトイはクルッと俺に背中を向けると、再び扉を開く。何やらキョロキョロと確認をしているようだ。その後、そっと扉を閉めると俺の方に向かって駆け足で近寄って来る。
「ミズキ~♡ はぁ~………ミズキ成分が補充される………幸せ♡」
俺の隣に座ってきたマトイは、俺の腕に自分の腕を絡めて抱きついてきた。
昨日の知ってるマトイだ。さっきまでの冷たく凍てつくような雰囲気を全く感じない。なんだ? どう言う事だ?
「お前、さっきまでめちゃくちゃ素っ気なかったのに、急になんだよ」
「………ごめんね、ミズキにあんな態度をとるのは………私だって嫌だよ。もう胸が痛くて痛くて苦しいよぉ」
「じゃあ何で素っ気ない態度をとるんだ? 俺はそれが聞きたくて話かけてたんだぞ」
俺は少し怒り気味な表情を浮かべながらマトイにそう聞く。
そんなに嫌なら普通にしてればいいのに。他の奴にマトイから甘えられてるところを見られるのは、めちゃくちゃ恥ずかしいけど。
「私も理由を話そうとしてた。ミズキに変な誤解をされたくない………けど、あまり大きな声では言えないから、よく聞いてね」
マトイは声量を2分の1くらいまで下げて、話始める………。
「実は………ミズキと許嫁関係と言うか、親密な関係だって事を悟られない為だよ」
「………悟られると、何かあるのか?」
「うん、お父様に言われた事なんだけど………」
マトイは時折チラチラと扉の方に意識を向けながら、俺に事の詳細を説明し始める。
時は遡り、俺と同棲が決まった後のマトイとマトイのお父様による、2人が会話をしている時の事だ………。
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