第18話 冷たい理由を聞く為に

 ピッ………ガシャンゴトンッ!


 上靴に履き替えた後、学校内にある自動販売機でいろはすの天然水を買う。取り出し口からペットボトルを回収し、2階へ続く階段を登り始める。


 2階へ登り曲がり角を曲がった瞬間、目の前にはたくさんの視線を浴びながら、壁に寄りかかってスマホを見つめるマトイが居た。


「マトイ………」

「………っ!」


 ボソッとマトイの名前を呟くと、マトイはパッとスマホから俺へ視線を向けた。

 凍てつくような鋭い眼差しを向けられ、思わず息を飲む。


 今朝のマトイとは全く雰囲気が違う。昨日のHR中の素っ気ないマトイとずいぶん似ている。


「な、なんだよ………ずいぶんと雰囲気違うじゃねぇか………」

「………はて、何の事だか」


 声のトーンも少し下がっている。あの女の子らしさで溢れていたマトイは一体どこに行ったのやら。


「マトイ、これ………よかったら飲む?」


 俺はマトイにさっき買ったいろはすを差し出すが、差し出された瞬間、マトイはクルッと俺に背中を向けて歩き出した。


「結構です」


 それだけ言い残し、マトイは俺と同じ3年1組の教室へと入って行った。


 思って反応と真逆………なんか突然嫌われだした?  

 そう言えば、今朝マトイが家を出る時、どこか元気がなさそうな表情をしていたな。何か関係があるのかもしれない。


「こりゃあ、ちょっくら聞いてみねぇとだな。後、なんか妙に傷つく」


 もし何かマトイからして嫌な事をしてしまってたり、言葉を言ってしまっていたなら、しっかりと謝らないと………さもなければ、マトイのお父様からとてつもない怒りを買う可能性がある………。


 俺の脳内で映像が映し出される………。


『瑞希君………? マトイから許嫁解除の話をされたんだが………どこか素っ気なくてねぇ。君………私の可愛い娘に何をした………?????』


 笑っているのにおびただしい殺気を放つマトイのお父様の姿が………考えるだけで全身がガタガタと震えまくる………っ。


 これは………早急に対処をしなければならない一大事かもしれない。


 俺は3年1組の教室に足を踏み入れると、マトイの席の周りには、すでにクラスメイト達が集まっていた。


「西城さんっ、連絡先だけでも………!」

「西城さんのご趣味って何ですか?!」

「西城さん! さっきの告白、どうして断ったんですか?」


「うわぁ………人気者は辛いなぁ」


 朝っぱしからあんなに話をかけられているところを見るに、俺は極々普通の一般人として産まれて良かったなっと、改めて思う。


「すみません。予習に集中したいので、1人にさせてくれませんか?」


 マトイがそう言い放つと、周りのクラスメイトは一斉に黙り込む。

 そして、クラスメイト達は徐々にマトイから離れて行く。自分の席に戻る者や、2~3人で集まる者と様々だが、全員どこか申し訳なさそうだ。


 これが人気者の発言力………さすがだ。


 俺は自分の席へ向かうと、肩にかけていたバックを机の横のフックに引っ掻ける。

 そして、マトイにだけ聞こえるくらい声量で、マトイに声をかける。


「マトイ、少しだけ話を聞いてくれな………」

「私は今予習の途中です。話かけないでください」


 キリッとした鋭い眼差しを向けられる。それでも俺は、両手を合わせて必死にお願いを続ける………。


「頼む! 本当に少しだけなんだ! その話をしたらもう邪魔とかしないから………!」

「今あなたが話かけてきている地点で邪魔なのです」

「うっ………」


 心臓にグサッとその言葉が刺さる。


 違う………俺の知ってるマトイじゃない………!

 一体、何で急にこんな冷たくなる………俺が何をしたって言うんだ………昨日もっと甘えさせてあげた方が良かったのか? そ、それとも………朝マトイが登校する時、引き留めて『一緒行こう。マトイと一緒じゃなきゃ、俺は死んでしまう』的な事を言って欲しかったのか??


 分からない………分からない………どうしたらいいんだ………!


 俺は頭を抱えて、グオォォォ………グオォォォと苦しそうな声で唸る。

 そんな俺を、マトイは視線だけ向けてじっと見つめていた。


 それ以降も、何とかマトイに話を聞いて貰おうと必死に声をかけ続けた。


 1時間目の授業が始まる10分前休憩の時。


「マトイ………お願いだ、話を聞いてくれ! すぐに終わるからさ………!」

「鬱陶しいです。あと、気安く下の名前で呼ばないでください」


 2時間目の理科による移動距離の途中。


「マトイ………じゃなくて西城さん、お話を………」

「……………」

「もう無視されてるっ!?」


 4時間目の隣の席の人と英語で質問し合ってみようの時。


「西城さん………お願いします話を聞いてくだ………」

「Je t'aime, je t'aime tellement, je ne peux m'empêcher de vouloir être ta femme le plus tôt possible」

「………えっ? 何て言ったの??」

「正直ウザイです。いつになったら黙ってくれるんですかあなたは。と言ったんです」

「しょぼーん」


 そして気がつけば………すでにお昼休みを迎えていた………。

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