第15話 朝起きたら

 ゆっくりと眠りから覚醒し始めた私。瞼を開いてボヤけた視界のピントが合った時、私は思わず目を見開く。


「………っ!? ミズキ………?」


 目の前にはスヤスヤと眠るミズキの顔があった。ミズキは自分の右腕を枕にして、左腕を私の背中に回している。


 正直、私には寝る前の記憶がない。いつどこで寝たのかすらも思い出せないけど、自分でベッドまで来て寝た記憶はない。


 もしかして………ミズキが私をベッドまで運んでくれたのかな………?


 私の脳内で、あらゆるシチュエーションの妄想が浮かび上がる。


 普通に抱っこして運んでくれたのかな………?

 それとも、おんぶかな………?

 もしかして、お………お姫様抱っこってやつかもしれない………っ。


 どのような方法だったとしても、ミズキに抱っこしてもらえただけで、嬉しさと幸せで胸がいっぱい………私、産まれてきて良かった。


「………ミズキの寝顔」


 そして今目の前には、愛するミズキの寝顔がある。


 キリッとしててカッコいいミズキが、今は子供のように可愛いらしい寝顔を見せている。


 あぁ………写真を撮りたいっ。この愛しい寝顔は家宝にするしかない………いや、家宝じゃ物足りない。国宝! 国宝こそ相応しい!


 どうしよう………目を覚ました瞬間、幸せな情報だらけで胸のドキドキが止まらない。まさかこの私が、こんな不意を突かれるなんて………ミズキってばイタズラっ子なんだから♡


「そうだ、今何時だろう?」


 カーテンの隙間から差し込む日差しを見るに、もう朝なのに間違いはない。


 私はスマホを取り出そうとポケットに手を入れる。しかし、スマホが入っていない。


「あれ? もしかしてリビング?」


 昨日リビングでミズキにパズバトと言うゲームを教えてもらってた記憶はあるから、もしかしたらリビングでいつの間にか寝てたのかも。


 もうちょっと………いや、もうずっとこの愛しい寝顔を眺めていたいけど、今日は新学期初めての授業。今の時間が分からない以上、下手に時間を無駄にできない。


 私はミズキを起こさないよう、慎重にベッドから降りてその場を離れた。


 リビングのソファの上に置いてあった私のスマホを手に取って、電源を入れた。すると、画面には『6:04』と大きく時間が表示されていた。


「6時4分………ちょうど良い時間♪ 着替えて朝食作らなきゃ」


 私はスマホを持ったまま、荷物を置いているミズキの部屋へ戻る。


 キャリーバッグの中から制服を取り出して、私はその場で着替えようとシャツを脱ぎ始める。だけど、胸より少し下らへんまでシャツを捲った時、私はピタッと動きを止めた。


「………さすがにここで着替えるのはマズイかな………ミズキになら着替えてる時くらい見られても全然いいけど………恥ずかしいし、脱衣部屋で着替えよ」


 私はキャリーバッグを閉じて、制服を持ち脱衣部屋へと向かった。


☆☆☆


 シャツとショートパンツを脱いで、持ってきた制服に着替える。スカートを履いて、学校指定のボタン付き白シャツの上からブレザーを羽織る。


 首下に赤いリボンを付けて、髪を整える。後は、洗顔と歯磨きをしたら終わりかな。


「あれ? そう言えば昨日………私、歯磨きはどうしたんだろう?」


 一回ミズキに起こされたような記憶が無くもないけど、よっぽど寝ぼけていたのか、全く思い出せないけど、洗面台の蛇口の横に2人分の歯ブラシとコップが置かれている事にふと気がついた。


 青と赤の歯ブラシ、青がミズキので赤が私のかな?


「色で別けられてるから、赤が私の歯ブラシかな? でも、間違ってたらミズキに悪いし、口の中スッキリさせたいけど、朝食食べた後でミズキに聞いておこっと」


 ミズキだって、違う人に使われた自分の歯ブラシで歯磨きするのは嫌だろうしね。


 私は洗顔だけして、脱衣部屋から出て行く事にする。


 リビングの電気を付けて、カウンターの上に置いていたエプロンを身に付け、キッチンの前に立つ。


「うーん、食材には限りがあるから………簡単な物にしようかなぁ………。えっと………あっ! 確かここにアレがあったような」


 私は冷蔵庫の上に視線を向ける。そこには、まだ未開封の5枚入り食パンが1袋あった。


「卵は確か………うん、無かったね。目玉焼きでも乗せようと思ったけど、ジャムとかもないし………普通に今日は焼いて食べるだけかな」


 まぁ、ミズキも自炊しているって聞いてたし、ちょうど食材が尽きそう時だったのかもしれないし、元々ミズキの家にある食材を使わせてもらってる訳だし、文句言えないもんね。


 私は食パンを開封して2枚取り出すと、レンジの中に入れる。上の段と下の段で2枚同時に焼けるから、手短に済んでとても楽。

 私の別荘にあったレンジは1段しか無かったから、焼くものが多い時は手間がかかったのよね………。


 温度と時間を設定し、レンジを起動。焼いている間に、飲み物の準備をしてミズキを起こしに行く。


 食器棚から透明のコップを2つ取り出した後、冷凍庫からコップに氷を入れて、ミズキ用のお水を蛇口から注ぐ。そして自分用の飲み物を………あれ?


「……………あっ!?」


 そこで私は衝撃的な事に気がついてしまった。私にとって最も大切な事を………。


 それは……………

























「牛乳………忘れてたっ!?」

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