第14話 就寝

 夜の23時。次の日が平日の場合、俺はこの時間を消灯時間としている。

 明日は高校3年に進級して初めての授業だ。絶対に遅刻する訳には行かない。だから寝る。


「マトイ、そろそろ寝ようか」

「……………」


 パズバトをしていた俺は、対戦がちょうど終わったタイミングで、未だに俺の腕に抱きついくマトイにそう言った。


 しかし、反応がない。

 と言うか、パズバトに集中してて意識してなかったが、1時間前くらいからずっと静かだったな。


「マトイ?」


 俺は隣で寄りかかるマトイに視線を向けると、そこには俺に寄りかかりながら、ゆっくりと呼吸をしてスヤスヤと眠るマトイの姿が映る。


「………なんだ、もう寝てたのか。マトイ、寝る支度するから、起きて?」


 俺はスマホを膝の上に置いて、マトイの肩を揺さぶる。すると、マトイが眠りからゆっくりと覚醒し始めた。


「………んん? なぁに?」

「今から寝る支度するよ」

「………うん」


 マトイは左手で左目を軽く擦る。


 スマホをズボンのポケットに入れて、俺はソファから立ち上がると、マトイも一緒にソファから立ち上がる。


 眠たそうな顔をしながらも、マトイは俺の左手首を軽く握りながら、洗面台のある脱衣部屋へと向かう俺に付いて来る。


「マトイ、歯ブラシは?」

「………ない」

「なら、新しいの出すか。歯磨き粉はこれ使って。コップ………持ってこねぇと」


 マトイ用のコップを取りリビングへ向かおうとする俺だが、マトイが左手首から手を離してくれない。


「マトイ、手を離してくれないと………コップ取りに行けないんだけど………」

「やだ、離さない………付いて行く」

「えぇ………」


 離してくれそうな気配がない為、俺は仕方なくマトイを連れてリビングへと戻り、マトイ用のコップを回収した後、再び脱衣部屋へ戻る。


 洗面台の引き出しから新品の歯ブラシを取り出し開封。その歯ブラシをマトイへ「はいっ」と手渡す。


 レバーを上げて蛇口から水を出し、コップ1杯分水を入れ、歯ブラシの先端を軽く濡らす。

 マトイも俺の真似をするように、全く同じ手順でコップに水を入れ、歯ブラシの先端を軽く濡らす。


 この時だけは、片手にコップもう片手に歯ブラシを持っていたからか、俺の左手首から手を離してくれている。


 コップを置いて歯ブラシの先端に歯磨き粉を出す。歯磨き粉の蓋を開けたままマトイへ手渡す。マトイも同じようにコップを置いて歯磨き粉を受け取り、歯ブラシの先端に歯磨き粉を出す。


「歯磨き粉は、ここに入れて」

「………うん」


 俺の指示した所に歯磨き粉を置いた後、俺とマトイは一緒に歯を磨く。


☆☆☆


 歯磨きうがいを終え、あとはリビングの電気を切るだけだ。


「マトイは俺の部屋のベッドを使って寝な。んじゃ切るぞ」


 リビングの電気を切ろうとした瞬間、マトイが俺の袖を軽く引っ張る。


「待って………ミズキは?」

「俺はソファで寝る」

「ダメ、一緒に寝るの」

「いや………あのベッドを2人で使ったら、だいぶ狭くなるぞ?」


 どうせ俺1人しか使わないからって理由で、ベッドはそこはで大きい物ではなく、少し値段が安めのシングルベットを買って使っている。


 男2人だと厳しいかもしれないが、マトイとなら寝ている間に落ちたりはしないとは思う。だが、だいぶ狭くなるのは確かだ。


「狭くなるなら、私がミズキに密着すればいいだけの話だよ………だから一緒に寝るの」


 マトイの声量と目を擦る仕草からして、もう限界が近くなっているようだ。


 これ以上起こしておくのも悪いし、仕方なくマトイも一緒に寝るとしよう。


 リビングの電気を消すと、マトイと一緒に自室へ入る。まぁ、自室とは言ってもベットや本棚、衣類を入れるタンスがあるくらいだ。今後は自室じゃなくて寝室って呼ぶようにしよう。寝る時と着替える時くらいしか使わないし。


「マトイ、先入って?」


 布団を捲ってマトイを先にベッドへ寝かせる事で、マトイが壁側になり、ベッドから落ちないようにする。マトイの寝相が悪いかどうか分からないから、念のため。


 そして、後から俺がベッドに乗って仰向けで寝転がる。


 すでに限界間近だったマトイは、俺の方に全身を向けながら、極力密着する。俺の腕に自分の腕を絡めてから、マトイはそのまま眠りに入りだす。


 マトイと同じベッドで寝るなんて久しぶりだ。当時はまだ男女の関係なんて全く興味なかったが、今となってはすでに立派な女性の体つきになっている。


 どうしてもマトイを女として意識してしまうせいで、全く寝つける気がしない。

 さっきは普通に眠気があったのに今は眠気が全くない。しかも、マトイの寝息が肩に当たっているから余計に眠れない。


「ヤベェ、これ………睡眠不足確定か………?」


 明日の新学期初日は、睡眠不足からスタートかもしれない。こりゃ参った………。

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