2人の時は超デレデレ、複数人の時は超塩対応な財閥令嬢に、今日も俺は悩まされる。

雪椿.ユツキ

第1章 財閥令嬢と同棲開始

第1話 新学年と転校生

 時は少しだけ遡り、高校の新学期による始業式の日の事。

 俺は晴れて高校3年へと進級し、楽しい高校生活も終盤へと近づいてきている所だ。


 最後の高校生活1年。平和な生活を送ろう。そう思っていたのだが………。




「えー、改めまして、新しくここの担任をする事になった時雨ときさめと言う。これから1年間、よろしく」


 開会式を終えて、新しい教室でのHR(ホームルーム)。時雨先生は長い間この高校に務めているベテラン先生だ。新入生以外で知らない生徒は居ないだろう。


 教室には知らない生徒も居れば、知ってる生徒もチラホラ。窓の外には、風に吹かれて宙を舞う桜の花びら。


 まさしく、新学年最初の登校日って感じ。すごくウキウキする。


 しかし、このウキウキ感を楽しむのはここまでだった………。


「まず、転校生を紹介する。同じくクラスの仲間になる生徒だ。入っておいで」


 ガラガラガラ、と扉が開くと、俺のクラスの生徒は一気に視線を向ける。


 廊下から教室に入ってくる1人の女子生徒。薄い灰色の変わった髪色をした可憐な姿に、キリッとした鋭いつり目。クラスメイト達は一斉に気を取られる。


 そんな中、1人だけ普通に見る生徒が居た。それがこの俺だ。


 皆がザワザワとし始める中、俺はどーでもいいみたいな感じで、教卓の横まで移動する彼女を見る。


 そして、可憐な転校生が教卓の横に立つと、黒板を背景にクラスメイト達と対面する。


 横姿では分かりにくかったクール感に、男子生徒よりよ女子生徒の方がめちゃくちゃ心を打たれている様子。


 そんな中でも、俺は彼女に興味を示すどころか外の桜の木を眺めている。


「では、自己紹介をお願い出来るかな?」

「はい、初めまして。今日から1年間だけですが、この学校に転校して来ました。西城マトイと言います。よろしくお願いします」


 西城マトイと名乗った彼女が、軽く一礼して見せると、なぜか自然とクラスメイト達から拍手されている。


「なら、西城さんはそこの席ね」

「はい」


 時雨先生が指定した席は、この教室で唯一空いている俺の隣の空席だ。


 彼女は指定された通り、その空席に向かって歩き始める。隣を通られたクラスメイトは、皆彼女に釘付け。


 そして、バックを机の上に置いて自分の席に座る彼女。そんな彼女は、スッと窓の外をじっと眺める俺を横目で見る。


 その鋭い視線に気がついた俺も、スッと彼女の方を見る。


「……………」

「……………」


 互いに何も喋らず、何見てんだコラみたいな感じだ。


「………ふんっ」


 何も喋ってこない俺に痺れを切らしたのか、彼女はプイッとそっぽを向く。


 そっぽ向くなら見てくんなよ………。

 俺はそう心の中で呟く。


 それから、時雨先生によるお知らせを聞いたり、配布物を配られたりして、約30分のHRが終わりを迎える。


 今日は始業式とHRだけな為、後は帰るだけ。帰りのHRが始まるまで、少し待機する事になる。


 時雨先生が一旦教室から出て行った時、クラスメイト達は一斉に立ち上がり、西城さんの所へと集まりだす。


 一瞬にして取り囲まれた西城さんは、さすがに驚いたのかほんのりと目を見開いているようだ。


「すっげぇ! 本物だぁ!」

「まさか本物のマトイ様が見れるなんて!」

「写真よりも実物の方がやっぱり綺麗だなぁ!」


 様々な言葉が飛び交う。非常にうるさい………。


 だが、皆のテンションが上がるのも仕方ない。なぜならば彼女、西城マトイは日本どころか一部の海外でもクールお嬢様として有名なのだ。

 

 西城財閥と言う、超お金持ちの家系に産まれた1人娘。父親が日本人で、母親がフランス人とハーフな所もあり、美人な母親の容姿に父親のクール感が合体している。


 髪色も、母親が銀髪で父親が黒髪だから、黒と銀が混ざった白寄りの灰色だとか。


 その美貌があるからか、何度かファッション雑誌のモデルとして出ており、『神が産み出した美女』として瞬く間に広がっていった。


 そんな彼女が同じ高校に転校してきたのだ、皆テンション上がるのも仕方ない事ではある。


「さ、西城さん! れ、連絡先………教えてください!」

「ごめんなさい………そう言うのは、厳しく制限されてまして」

「なら! 今度どこか、ご飯でも!」

「すみません、学校が終わったら早めに帰宅しなければならなくて」


 皆必死に西城さんと繋がろうとしているが、呆気なく全て断られている。


 どうせ何言っても断られるだけだから、良い関係を保ちたいなら素直に諦めればいいのに、これがダメならこれはどうだっとか、次から次へと何かを誘う。


 こう言う時って、本当に学ばないんだなぁ。別に悪く言うつもりはないけど。


 一方でただじっと座っているだけの俺は、極力人とは関わらず、1人で居たいタイプなのだ。いわゆる陰キャってやつ。


 孤独だとすごく落ち着くに、周りを全く気にしなくてもいい。気楽に平和な生活を送れるのだ。素晴らしいとは思わんかね?


 陰キャの素晴らしさはもっと世の中に広がるべきだ。陽キャは暑苦しくて扱いにくい。静かな方が何事にも集中出来る。


 なぜ皆陰キャの素晴らしさを理解しようとしないのだろうか。それこそ理解出来ない。


 とまぁ、心の中でぶつぶつと呟いていると、時雨先生が戻ってきてクラスメイト達は慌てて自分の席に戻った。


 そして、時雨先生の解散の合図と共に、新学年による初のHRは幕を閉じた。

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