港町事件簿 第三巻:絆

第2話 交渉

朝日が差し込む中、桜田製作所の一日は早くから始まった。機械の音と共に、社員たちの声が工場内に響き渡る。しかし、社長の桜田一郎の顔には深い憂いが浮かんでいた。

一郎の心の声: 「昨日の佐々木課長の言葉が頭から離れない。時間がない。どうすれば、この工場と社員たちを守れるのだろうか。」

一郎はデスクに座り、信用金庫に提出するための書類を見直していた。膨大な数字とにらめっこしながら、彼は工場の未来を懸けた戦いに挑む決意を新たにした。

桜田一郎: 「よし、これで大丈夫だ。信用金庫に行って、何としても融資条件の変更を頼み込もう。」

工場を出ると、一郎は信用金庫に向かった。道すがら、門司港の街並みを眺めながら、彼はこれまでの苦労と努力を思い返していた。

一郎の心の声: 「この街と共に歩んできた50年。何としても、この危機を乗り越えなければならない。」

信用金庫に到着すると、馴染みの支店長である中村が一郎を迎えた。中村は20年来の付き合いがある頼もしい存在だ。

中村支店長: 「桜田さん、お久しぶりです。今日はどうされましたか？」

一郎: 「中村さん、実はお願いがあってきました。帝都自動車から厳しいコスト削減の要求があり、このままでは工場が立ち行かなくなるかもしれないんです。融資条件の変更をお願いしたいのですが。」

一郎の心の声: 「どうか、何か策が見つかりますように。」

中村支店長は一郎の話を真剣に聞き、深く頷いた。

中村支店長: 「なるほど、桜田さんの気持ちはよく分かりました。すぐに対応できるかは分かりませんが、上層部と相談してみましょう。」

一郎: 「ありがとうございます、中村さん。何とかお願いします。」

中村支店長: 「まずは書類を拝見させてください。詳細な計画があれば、説得力も増しますから。」

一郎は用意してきた書類を中村に手渡した。中村はそれをじっくりと読み込む。

一郎の心の声: 「中村さんが動いてくれれば、少しは希望が見えてくるかもしれない。」

中村支店長: 「桜田さん、これは非常に良くまとまっています。具体的な数字と計画が示されているので、上層部にもしっかりと伝えられると思います。少しお時間をください。」

一郎は安堵の表情を浮かべ、中村の言葉に感謝した。

一郎: 「本当にありがとうございます。どうか、よろしくお願いします。」

信用金庫を後にした一郎は、少しだけ心が軽くなった気がした。工場に戻る道すがら、彼は再び街の風景を見渡しながら、次なる対策を考え始めた。

一郎の心の声: 「これで全てが解決するわけではない。だが、一歩前進だ。この危機を乗り越えるために、どんな手段でも使ってやる。」

工場に戻ると、社員たちが忙しく働いている姿が目に入った。一郎は彼らの姿に力をもらい、改めて決意を固めた。

桜田一郎: 「みんな、ありがとう。必ずこの工場を守ってみせる。」

社員たちの声援に応え、一郎は再びデスクに向かった。彼の戦いはまだ始まったばかりだ。