【完結】港町事件簿 第三巻:絆

湊 マチ

第1話 迫りくる影

門司港の町工場「桜田製作所」は、創業から50年を迎える老舗の工場だ。社長の桜田一郎は、朝から汗水を流して働く社員たちと共に工場の作業を見守っていた。工場の雰囲気は活気に満ちていたが、一郎の表情にはどこか影が差していた。


一郎の心の声: 「このままでは、うちの工場も危ないかもしれない。帝都自動車からの圧力が日に日に強まっている。」


桜田製作所は、帝都自動車と20年来の取引があり、主要な部品を供給している。しかし、最近になって帝都自動車からの要求が厳しくなり、工場の経営を圧迫していた。


その日の午後、帝都自動車の調達課長、佐々木智之が突然工場を訪れた。佐々木は冷ややかな表情を浮かべながら、一郎に話しかけた。


佐々木: 「桜田さん、お久しぶりです。お忙しいところ申し訳ありませんが、ちょっとお話があります。」


一郎: 「佐々木課長、お越しいただきありがとうございます。どうぞお掛けください。」


佐々木は一郎の勧めに応じて椅子に座り、書類を取り出した。


佐々木: 「先日提出いただいた見積もりですが、これではコストが高すぎます。我々としては、さらにコストダウンを図っていただく必要があります。」


一郎の心の声: 「またか…。これ以上のコストダウンは無理だ。」


一郎: 「佐々木課長、既に限界まで削減しています。これ以上のコストダウンは品質に影響を与える可能性があります。」


佐々木は冷淡な笑みを浮かべ、さらに圧力をかけた。


佐々木: 「桜田さん、それでは困ります。我々も競争が激化している中、コスト削減は避けられないのです。もう一度見直していただけますか?」


一郎の心の声: 「どうする…。このままでは従業員の生活も危うくなる。」


その時、工場の一角で働く若手社員、田中明が一郎に声をかけた。


田中: 「社長、少しお時間よろしいでしょうか?」


一郎: 「ああ、田中、どうした?」


田中: 「先ほどの生産ラインでトラブルがありましたが、無事に解決しました。ただ、今後のコスト削減についても話し合いたいことがあります。」


一郎は田中の真摯な態度に感謝しつつ、佐々木に向き直った。


一郎: 「佐々木課長、もう一度社内で検討しますが、無理を承知でお願いしたいことがあります。どうかご理解をいただけませんでしょうか。」


佐々木は一瞬の間を置いてから、淡々と答えた。


佐々木: 「分かりました。あと一週間だけ猶予を差し上げます。それまでに新しい見積もりを出してください。それができなければ、他の業者に切り替えざるを得ません。」


一郎の心の声: 「猶予が一週間か…。何とかしなければ。」


佐々木が去った後、一郎は工場の現場に戻り、田中とともに対策を練り始めた。


一郎: 「田中、ありがとう。君のおかげで少しは心の支えができた。だが、これからが本当の勝負だ。」


田中: 「社長、僕たち社員も力を合わせて頑張ります。この工場を守るために、できることを全力でやりましょう。」


一郎の心の声: 「田中の言葉に救われる思いだ。この工場を、社員たちの生活を守るために、何としてもこの難局を乗り越えなければ。」


一郎は決意を新たにし、翌日信用金庫に融資条件の変更を依頼するため、具体的な計画を立て始めた。


一郎の心の声: 「信用金庫に助けを求めるのは一種の賭けだが、これ以外に選択肢はない。うまくいけば、工場を再建できるかもしれない。」


一郎はデスクに座り、必要な書類と計画を整理し始めた。彼の頭の中には、工場の未来と社員たちの生活が常にあった。彼は心の中で誓った。


一郎の心の声: 「この工場を、そしてここで働く全ての人々を守るために、絶対に諦めない。どんな困難が待ち受けていようと、必ず乗り越えてみせる。」

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