ツイ廃ヒキニートかぐや姫救出大作戦
iTachiの隠れ家
第一話 ツイ廃ヒキニート、盛大に人違いをかます。
僕は
一応表では現役医大生として活躍中。だが、その裏では【帝】という名前で、FPSプロゲーマーとして暗躍している。大会に出ては有名な配信者やプロゲーマーを、最弱武器で蹂躙している。賞金を全てウニセフ寄付金に回す僕は、一部層にはファンが居るものの、正直世界から妬まれている。
そんなある日のことだった。僕が夜に外を散歩していると、微かな視線を感じたのだ。振り返ってみると、誰も居ない。そしてまた歩きだすとまた視線。
絶賛ストーカー被害に会っていると気づいたのはその時だ。
急いで近くのラーメン屋に入ったが、時間も時間で夜十一時だったので客は一人も居なかった。店主一人と、僕だけがその空間に居たが、暫くして不思議な雰囲気を醸し出す女性が入ってきた。
何とその女性、めっちゃ美人。化粧はしておらず、特に何も持っていなかった。
そう、何も持っていなかった。金さえ持っていなかった。そのはずだった。
しかし、食券を出していなかったのにも関わらず彼女の前にはラーメンが置かれた。しかも、僕が頼んだのと一緒のやつ。僕が彼女をまじまじと見ていると、彼女は恥ずかしそうというか、気まずそうに目を逸らした。
僕はさっさと食べ終わり、彼女が食べ終わるのを待った。彼女は一心不乱に食べており、相当腹をすかしているという様子だった。その様子も、尚美しいものだった。
そして僕は、彼女が店を出たタイミングで話しかけた。
「あの、食券出さずにどうやってラーメン食べたんですか?」
彼女はぎょっとして所々発音に詰まりながら僕に言った。
「ど、どうして、分かったの?普通は、わ、分からないはずなのに...」
そして、その後に、彼女は小さすぎる声でなにか言って立ち去った。
一般人なら聞こえないくらいの音だが、プロゲーマーの耳を舐めてもらっては困る。僕の耳には、しっかりとこう聞こえたのである。
「帝...」
何で顔バレしてんだ?トゥイッターとか、インスタキログラムも、何ならフェイスディクショナリーだって、全部のSNSで僕の顔は上がっていない。
もし顔バレしているとしたら、一大事だ。世界の人間が僕を社会的に殺しに来る。急いで後を追わなければ!
幸いにも、彼女はまだ僕が追ってきていることに気が付いていない。僕は一気に接近し、後ろから彼女の腕を捕まえた。彼女は素っ頓狂な声を上げ、助けを求める声を上げたが、僕だと分かるとすぐに小さな声で言った。
「帝...」
間違っていはいないため僕は少し彼女を睨みながら言った。
「そうです。僕が帝です。どうして分かったんですか?」
彼女は腕をブンブンと振ってなにかのジェスチャーをしたが、僕が首を傾げるとここでの意思疎通を諦めたようで、蚊の飛んでいるような声で、頬を赤らめながら言った。
「家へ、来てもらえませんか」
「はぁ?」
「ダメ...?」
ダメだとは知っておきながら、僕は彼女の顔に負けてホイホイとついて行ってしまった。家族には友達の家に止まらせてもらうと連絡を入れておいたが、なぜあのときの僕は泊まる前提でついて行ったのだろう。
そんな事を考えながら到着した家は、僕の幼馴染の家だった。もしや、隠し子?
「あ、
扉を開けると待っていたのは、太い眉毛と優しい声が特徴の僕の幼馴みである、
僕は神夜と呼ばれたその女性について行き、どういうわけか彼女の部屋に連れ込まれた。彼女の部屋は薄汚れていて、機械類のコードが絡まりまくっていた。そしてパソコンの画面にはトゥイッターの青い鳥がいた。
アカウント名:かぐや姫
ふざけてんのか?こいつ。さっきも僕のこと帝って言ってたし、もしかしたらただの夢見がちな女の子なのか?トゥイッターに生きる内に、自分があたかもかぐや姫であるかのように思い込んで、その辺で会った人を勝手に帝って呼んで家に呼んで、通い婚させようとしてんのかな...?怖っ。
いや待て、考えすぎだ。一番有力なのは、この娘がファンで、僕が帝だって知ってること。そして二番目に有力なのはさっきの怖いやつ、それで三番目はマジでかぐや姫で僕が帝に似ていたから(?)という所か。
「率直に...申し上げます。実は、実は私...か、か、かぐ、かぐや姫、です」
彼女はそう言ったが、今思い返せば三番目の説ような気がする。いや、三番目の説であってくれ。頼むっ!この問で証明できるか!?かぐや姫ッ!
「超能力って使えたりするんですか?ほら、あの物語でもあなたは成長速度が異常で、その従者?たちも、矢を跳ね返したりしてたじゃないですか」
僕が冗談交じりにそう言うと、彼女は手の上で光の玉を出現させた。ここで僕は眠気からか、よく分からない反応をしてしまった。
それで彼女は僕が物足りないと感じてしまったのだろう。指をパチンと鳴らして、何もない所から一つの物体を取り出した。スマホだ。
スマホの電源がつくと同時に、それが僕のスマホだということに気づいた。パスワードを何故か突破され、Ahoo!履歴を開かれそうになったので急いで取り返し、彼女に信じると言って僕は先程の位置に戻った。
「で、僕は帝に似てたんですか?そんなに顎は尖っていないと思いますけど...」
僕の言葉に、彼女は少し首を傾けた。通じないか...そして、小さな声で言った。
「あなたは、帝ではないのですか?不老不死の薬を渡したのですよ?」
うっわ、ちょっとめんどくさいことになるぞ。僕はお腹に力を入れて、彼女に本当のことを伝えた。
「あの〜実は、帝さんはあなたに薬をもらった後にそれ燃やしちゃってるんです。あなたがいねければ生きている意味など無いと言って」
その瞬間、神夜の周囲に、台風でも起こったかのような風が吹き、部屋中のものをすべて吹き飛ばした。急いでかぐや姫を慰めようとしたが、その時すでにお寿司。神夜はとんでもないヒス構文を発信し始めた。
「そうだよね、所詮私なんだもん、すぐに誰かを置いていって消える私だから、こんな私なんて誰にも愛されるべきじゃなかったんだ、そうだよ(確信)。きっとそうだ。帝の言葉なんて体の良い嘘に決まってる。私を思ってそんな事したんだ。あんなに私を気にかけてくれた帝を見捨てた私に生きる価値なんて無いんだ」
そして何かを思いついたように言った。
「そうだ、死のう」
おい待て京都行こうみたいなノリで死なれたら困る。僕も困るし、葵もだ。
彼女は窓を開けてサッシに足をかけた。ヤバい、ほんとに僕が冤罪で懲役食らう。
「まま、待て!待つんだ。それ以上行くな!ステイ、ステイだ!待て、ステ...アアッ!待てィ!」
渾身の叫びが静閑な住宅街に響き渡った所で、神夜は足を止めた。そしてゆっくりこっちを振り向いて泣きながら言った。
「やっぱり、帝...」
そして彼女は何故か僕に抱きついてきた。普通ならこの後のイチャラブ展開が期待できるのだが、なんともタイミングの悪い時に、葵が部屋の扉を開けて入ってきたのだ。
彼女からすれば散らかった部屋、そしてなく女の子に抱きつかれる僕、そしてなぜか開いた窓。完全に僕が彼女に暴力をふるったかのような構図になっている。
「そうかそうか、つまり君はそんなやつだったんだな」
葵は吐き捨てるようにそう言って扉を勢いよく閉めて部屋を出た。静寂に包まれた部屋の中で、僕は彼女の腕をゆっくりと外し、部屋を出て葵の後を追った。
「待ってくれ葵!今のは...」
僕の声を聞いた葵が振り返った。彼女の目は赤く、そして頬には大粒の涙が流れていた。彼女は少し鼻をすすった後、両手で涙を拭って言った。
「私だって...」
そこから先は何も聞こえなかった。というより、彼女が聞こえないようにしたのだろう。僕は急いで彼女に誠心誠意謝罪したが、彼女には一切聞き入れられず、僕は帰ることも出来ぬままとりあえず彼女にかぐや姫のことを聞いた。
「あの女の子って、かぐや姫ってことは知ってるのか?」
彼女はハッとした顔で僕の方を向いて言った。それから、息がかかりそうな至近距離まで近寄ってきて言った。
「じゃあ、煌くんがあの子の言ってる、帝なの?」
「あ、ああ、いや、勘違いなんだろうけど。僕のせいでちょっと複雑なことになってるんだ。彼女にはもう説明してあるんだが、少し、話しても良いか?」
そうして僕は彼女にここまでの経緯をすべて話した。もちろん、僕がプロゲーマー【帝】であるということも。彼女は黙って聞いてくれていたが、話が終わった瞬間に彼女はウズウズして、それから弾けたように言った。
「やっとみつけた。煌くんがそうだったのね!ならもう構わない。いま全部言うね。私はあなたのことは前から好きだったの。でも、帝っていうプロゲーマーの、なんというか、その、ミステリアスで、ダークヒーロー的な部分に惹かれていって煌くんとどっちが良いか迷ってたんだけど...一緒ならもう最高ね!それで、お願いなんだけど、私をあなたのペットにして欲しいの!」
お、これは脈アリ確定だな?僕からしてもこんなに良い子をペットに出来るなんて...は?どういうことだ?意味分っかんねえ事になってきたぞ?ペット?ペットってなんだ?
そう思っていると、彼女はおもむろに首輪とリード、それから何故かムチを取り出して、僕にもたせた。若干興奮気味の彼女を見ながら、僕は何も出来ずに突っ立っていた。すると、彼女は若干ヤヴァい目をしながら僕に更にすり寄ってきた。彼女の匂いで満たされる。
「ねえ、私と、お外、散歩しない♥」
「え?ああ、い...」
「ちょっと待ってください!帝は私のものです!」
神夜が部屋から飛び出てきて僕らに叫んだ。ここで僕はやっと気づいたのだ。
ああ。僕は今二人の狂人から好かれているんだな。と。
二人共見た目は良いから一見幸せそうだが、ペットになりたい人と、なんか自己完結で妥協しちゃった人なんだな、これが。僕の人生、終わった。
僕はとりあえず喧嘩になりそうな二人を引き離し、そして先に寝るから布団を貸してくれととんでもない願いを出したが、彼女たちはあっさりとそれを承諾し、僕は何故か挟まれて寝ることになった。これが当時の僕が引きずり出した最適解だった。
翌朝目が覚めると、二人共僕の腕に関節技をかけていて、少しでも動けば完全にキマってしまう寸前だった。急いで彼女らが動く前に腕を引っこ抜き、二人の顔をまじまじと見た。こういう感じで見ると寝顔は良いんだけどな...ってか、昨日は眠気と暗闇で良く分からなかったけど神夜って思ったよりも子供っぽい顔してるんだな。もっとお姉さん寄りかと思ってた。
う~む。どうすべきか。少しくらいのお触りなら、許されるのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎり、僕は彼女たちのπに目を落とした。
ふむふむ、まあ、葵は無問題だとして、神夜は無いな。よし、止めておこう。神夜が悲しむ。
僕はそんな事を思いながら二人に置き手紙だけをして家に帰った。
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