027 青紫の商才(7)紫の花は美しかった

 【金愛同身かねあいどうしん】という新しい言葉を聞いた夜。


悪霊

「うそをつくな。

 馬鹿ばかをだます方が多くの金額を早く稼げるはずだ。」


青兵衛

「その代わり、あとが続かないでしょう。

 次々と新しいひとをだまし続けることは無理です。


 悪事千里あくじせんりを走る。


 悪いことは出来ないのですよ。


 わたしの商売は、私の手を離れてもお金を稼ぎ続けてくれます。」


悪霊

けむに巻いて誤魔化ごまかそうというのか?」


青兵衛

「どう言えば分かるのでしょうか?


 将棋で言うと、あなたの商売は歩兵です。

 わたしの商売は飛車ひしゃが成った龍王りゅうおうです。


 強さが違いすぎるのですよ。」


悪霊

「そうだったのかあ。

 来世では俺も実践じっせんしてやるう。」


ルナ

来世らいせなんて無いよ。


 三点収束さんてんしゅうそく光点呪文こうきゅうじゅもん 【テグトス】」


 悪霊は断末魔の声も残さずに消滅した。


ルナ

「本当はもっと苦しめてからにしたかったけれど、時間がないんでね。


 青兵衛さん、ありがとう。

 少し待ってね。」


 ボクは、黄庵の元に近づいた。


ルナ

「体力回復呪文 【トゥベルサ】


 かないな。


 穴が開いた水瓶みずがめみたいな状態だ。


 それなら、

 万能治療呪文ばんのうちりょうじゅもん 【スリーカー】」


 黄庵の身体を優しい白い光が包み込んだ。


ルナ

「うん、治ったかな? どうかなあ?


 確かめるための一番良い方法は、これだな。


 友情確認ゆうじょうかくにん訪問呪文ほうもんじゅもん 【レバーラ】」


 紅姫の名前が、白く表示している。

 黄花の名前も、白く表示している。


ルナ

「うん、これで、ひと安心だね。


 青兵衛さんのおかげで間に合うことが出来ました。

 お礼を言いたいので、ボクたちに付いてきてくれますか?」


青兵衛

「え、ええ、かまいません。

 こんな夜中にお邪魔じゃましても良いのですか?」


ルナ

「ボクの仲間の紅丸と黄庵の命を助けてくださったのですからね。

 恩人に対して、ひと晩の寝床ねどこと食事くらいは提供させてくださいね。


 いいよね。 紅丸。」


紅丸

「もちろんでござる。」


ルナ

「紅丸 刀を貸してくれるかな?」


紅丸

「どうぞ、ルナ様。」


ルナ

能力向上呪文のうりょくこうじょうじゅもん 【トゥート】」


 妖刀斬 紅丸に、ルナの魔力が注ぎ込まれた。


ルナ (小声)

「紅丸、持ちこたえてくれて、ありがとう。

 お疲れさまでした。」


妖刀斬 紅丸 (小声)

「もったいないお言葉。」


 黄庵が目を覚ました。


黄庵

「あの野郎。

 美青年だと思って、好意的に接してたら、薬を盛りやがった。


 一発いっぱつずつ、殴る蹴るしてやらなきゃ気が済まないわ。」


ルナ

「黄庵、目が覚めて良かったよ。」


黄庵

「つ、月夜さん。

 あの、ごめんなさい。」


ルナ

「わかってくれたら、いいんだよ。

 おかえりなさい。 黄庵。」


 ルナは優しい笑顔で、黄庵を抱きしめた。


ルナ

「じゃあ、青兵衛さん。

 付いてきてくださいね。」


青兵衛

「は、はい。」


 ルナたちは、道の駅 建設予定地を通って、周囲を見渡した。


ルナ

「周囲に人の気配は無いよね。

 ねえ、紅丸。」


紅丸

「大丈夫です。

 ネズミ一匹いません。」


ルナ

「それでは、ご一緒に!」


ルナ、紅丸、黄庵

「「「ママ、ただいま。」」」


 何もない空き地に、扉が現れた。


 ボクは、扉を開けた。


ルナ

「青兵衛さん、どうぞ。

 お入りください。」


青兵衛

「こ、この明るさは、いったい何本のろうそくを使っておられるのですか?

 い、いいえ、昼間のような明るさはいったい。


 しかも、ろうそくが一本も無いなんて。」


ルナ

「黄庵、何しているの?

 早く中に入ってよ。


 そして、扉を閉めて鍵をかけてくれますか?」


黄庵

「は、はい。

 ル、ルナさん。


 まことに、まことに申し訳ありませんでした。」


 黄庵は、頭を床にくっつけて、土下座してルナにあやまった。


ルナ

「そう言うのはいいから、お風呂に入ってきなよ。」


黄庵

「ありがとうございます。」


ルナ

「紅丸も大汗かいたよね。

 黄庵といっしょに入ってきてよ。


 青兵衛さん。

 驚くだろうけれど、ふたりは女性なんだ。


 だから、青兵衛さんは二人のあとで、お風呂に案内するよ。


 待っている間にお茶を入れるよ。」


青兵衛

「ありがとうございます。」


 お茶を飲んだ後で、青兵衛が家の中を見たいと言うので、案内した。


ルナ

「ボクたちは家の外と中では名乗る名前を変えているんだ。


 ボクの外での名前はルナというんだ。」


青兵衛

「するな ですか?

 禁止されているみたいな名前ですね。」


ルナ 月夜

「す は、いらないよ。

 ルナ だよ。


 栄語えいごなんだ。


 光元国語ひかりもとこくごでは、月の夜と書いて、月夜つきよだよ。


 ルナって呼んでね。

 月夜でも良いよ。」


青兵衛

「では、月夜殿。」


月夜

「月夜で良いよ。

 青兵衛さんは、ふたりの命の恩人だからね。」


青兵衛

「では、私のことも青兵衛と呼び捨てでお願いします。」


月夜

「わかったよ。

 青兵衛。


 ここが、ボクの部屋。」


青兵衛

「月夜って書いてありますね。」


月夜

「ここが紅姫べにひめの部屋。

 向こうが、黄花おうかの部屋。」


青兵衛

「その向かいの部屋は、げっ?

 もしかして、青紫あおむらさきですか?」


月夜

「そうだよ。

 いつか出会うボクの最後の仲間だよ。」


青兵衛

「そ、それで、青紫殿は何処いずこにおられるのですか?」


月夜

「さあ? でも、神様が出会わせてくれるよ。

 だから、楽しみに待っていればいいのさ。」





 紅姫と黄花が風呂から出てきた。


月夜

「黄花?

 青兵衛さんに、お風呂の使い方を教えてあげてね。


 青兵衛さんがお風呂から出たら、黄花と青兵衛さんには夜ご飯を食べてもらうよ。


 青兵衛さん、急かすようで悪いけれど、夜ご飯が遅いと健康に悪いそうなんだ。

 だから、夜ご飯のためと思って、できるだけ早く出てきてね。」


青兵衛

「ありがとうございます。」


 黄花に案内されて、青兵衛は風呂に入った。


青兵衛

「この家には、驚かされるわね。


 青紫の棚にある石鹼液せっけんえきを使ってもいいわよね。」





青兵衛

「いい湯でした。

 ありがとうございました。」


月夜

「じゃあ、黄花のとなりに座ってくださいね。


 お弁当を温めてきます。


 黄花の分は、青兵衛さんの次に温めるから、少し待っててね。」


 チンという音に、青兵衛さんは少し驚いたようだったが、平静さをたもっていた。


月夜

「青兵衛さん、先に食べてくださいね。


 黄花は、少し待っててね。」


 もう一度、チンという音が鳴って、黄花の元にも夜ご飯が運ばれたのだった。





 黄花と青兵衛さんの夜ご飯が終わった。


黄花

「あの、月夜さん、青兵衛さんは、その明日の朝には・・・」


月夜

「うん、お帰り頂くよ。

 ボクは、男性には嫌われるからね。


 いまは、良い関係に見えても、破滅するまで時間の問題だからね。」


青兵衛

「月夜?

 質問ですが、青紫の表札が掛かった部屋は、青紫殿が使用できるのですか?」


月夜

「そうだよ。

 さっきも言ったように会える日を楽しみにしているんだ。」


青兵衛

「じゃあ、わたしが使っても良いのですね。」


月夜

「駄目です。

 青兵衛さんは男性ですよね。

 青紫さんとは関係がないじゃないですか?」


青兵衛

「そうでもないのですよ。

 少し待ってもらえますか?


 失礼しますね。」


 青兵衛は立ち上がって、服を脱ぎだした。


月夜

「あのう、ボクは男性の裸には興味ないですよ。」


青兵衛

「そのまま、お待ちくださいね。」


 青兵衛は、すべての服を脱いで、両手を前に広げた。


青兵衛

「月夜。 よくご覧ください。

 わたしの本当の名前は、青紫あおむらさきと言います。


 この通り、女性ですよ。」


 細く長い手足、大きな胸に美しい桜の花、そして、おへその下は、きれいな縦線たてせんが1つあるだけだった。


月夜

「え、ええーー!

 青兵衛って、青紫だったの。


 びっくりしたー。

 とっても美しいよ。」


 ボクは鼻血はなぢを出して倒れてしまった。


 となりにいた紅姫が抱きかかえてくれたおかげで、ボクは頭を打たずに済んだのだった。

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