025 青紫の商才(5)王真加勢陀(オマカセダ)の像

 青兵衛あおべえは、自分が企画した道の駅を中心とした町づくりを、ボクたちに説明してきた。


青兵衛

「みなさんは運が良いですよ。

 先行者利益を得ることが出来ます。


 土地なんてものは人が住む前から囲い込むことが大事ですからね。


 そして、土地を売ったりはしません。

 使用権というか借りる権利を売るのです。


 そうすれば、町のひとたちに迷惑をかける人がいても出ていってもらえますから。」


黄庵

素晴すばらしいですね。

 わたしは医者なのですが、青兵衛さんの町で開業できたら、多くの患者さんを治せそうです。」


青兵衛

「それでは、前払いとなりますが、土地を契約けいやくしてしまいましょうか?」


 青兵衛は契約書を差し出した。


黄庵

「ええ、タダで借りることが出来るのですか?」


青兵衛

「もちろんですよ。

 お医者さんに居てもらえたら、町のみんなも喜びますからね。

 そうすれば、町としては儲かるので、まあ先行投資ですね。


 契約書をよく読んで頂き、納得されたら、署名と拇印ぼいんをお願いします。


 ああ、ここに名前を書いて、親指の腹に朱肉をつけて、契約書に押し付けてください。」


ルナ

「待って、黄庵先生。

 その書類をボクにも見せて!」


 ボクは、黄庵から契約書を奪い取って、内容を読もうとした。


 しかし、すぐに黄庵に取り返された。


黄庵

「ルナさんは変です。

 おかしいです。

 青兵衛さんにうらみでもあるんですか?


 うたがいすぎです。」


ルナ

「どんなにいいひとが相手で、いいことを言われても、書面に勝るものはないんだ。

 だから、すぐに決断したら駄目だ。

 契約書は1週間かけて読んでも足りないくらいだ。


 それに、ボクたちは3人いるんだから、3人で慎重しんちょうに確認するべきだ。」


黄庵

「いりません。

 青兵衛さん、すみません。

 すぐに、名前を書いて、朱肉を親指に付けますわ。」


紅丸

「黄庵、ちょっと待て。

 町ができる日は1か月以上も先の話だ。


 急ぎすぎじゃないか?」


青兵衛

「そうですね。

 上手い話とは言え、他の競合相手が来るまで日数に余裕が有ります。

 お仲間のおふたりと相談されてからでも構いませんよ。」


ルナ

「黄庵、そうさせてもらおう。」


黄庵

「ルナ様、いいかげんにしてください。」


紅丸

「黄庵、そんな言い方はないだろう。」


黄庵

「でも、ルナ様は青兵衛様に対して、冷静ではありません。」


ルナ

「黄庵。 お願いだから、今日のところは出直しませんか?

 町の説明を聞いたら、昼過ぎになりました。

 今からギルドのある町に戻っても暗くなってしまいます。」


青兵衛

「ええ、そうなさってください。

 わたしは、ここで野宿しますが、みなさんにまで無理はさせられません。」


黄庵

「わたしも、ご一緒します。

 ルナ様は町の宿屋に戻れば良いではありませんか?」


紅丸

「黄庵、いいかげんにしろ。」


ルナ

「ありがとう、紅丸。

 もう良いよ。


 ボクたちだけで帰ろう。


 黄庵、気が変わったら、戻ってきてね。」


 ボクは紅丸と二人で帰ることにした。





 町の入口から森の中の街道まで戻ってきた。


紅丸

「ルナ様、拙者のちからが及ばず申し訳ござらん。」


ルナ

「ううん、ボクについてきてくれて、ありがとう。 紅丸。

 万が一に備えて、ボクたちも木にしるしきざもう。」


 ボクは、バツ印がついた木から3本離れた左右の木に、星☆の印を刻んだ。


ルナ

「もし、真ん中のバツ印の木が消えてなくなっても、2本の木の真ん中が入口だと分かるからね。」


紅丸

「ルナ様は、青兵衛という男を怪しいと思っているのですか?」


ルナ

典型的てんけいてき詐欺師さぎしだと思う。

 笑顔で近づいてくる人間は、こちらをだまそうとしてくるものだ。

 怒った顔で近づいてくる人間は、こちらを威圧いあつして支配下に置こうとしてくる。


 最悪の場合は、あの笑顔とあまい理想の言葉から感じることは、味方のふりをしたてきである可能性が高い。


 紅丸とは共に過ごした日々がそれなりにあるけれど、黄庵とは出会ったばかりだからね。


 ボクに対する信用度が低いんだろうね。」


紅丸

「それを言うなら、青兵衛殿も出会った当日ではありませんか?」


ルナ

「ひとに好かれやすいひとには勝てないよ。

 特にボクはひとに嫌われたり、仲間外れにされたり、いじめられることが多いからね。」


紅丸

「ルナ様、拙者がおります。」


ルナ

「ありがとう、紅丸。

 ねえ、今日は、お弁当を買って帰ってもいいかな。

 料理をする気力がわかないんだ。」


紅丸

「そうなっても、仕方ないでござる。

 弁当を買いましょう。


 ルナ殿の料理のありがたみを知る良い機会になります。」


ルナ

「ありがとう。

 じゃあ、6つ買おうか?


 今日の夜ごはんと、明日の朝ごはん。


 黄庵も、もしかしたら、野宿が嫌で帰ってくるかもしれないからね。」


紅丸

「ルナ様は、本当にお優しい。

 わたしなら、黄庵の分は買いません。」





 ルナと紅丸は弁当を買って、家に帰った。


 夜ご飯を食べて、寝る時間になっても、黄庵は帰ってこなかった。


紅姫

「黄花は今晩は帰らないつもりでしょうか?」


ルナ

「ねえ、紅姫。

 お願いがあるんだ。」


紅姫

「なんなりと。」


ルナ

「今日はボクと一緒に寝てくれないかな。

 それがダメなら、ボクが眠るまで一緒に居て欲しいんだ。」


紅姫

「構いませんよ。

 子守歌を歌ってさしあげます。


 おじょうは良い子だ。

 ねんねしな。」


ルナ

「紅姫、ありがとう。」


 ルナがねむりについたのを見届けた紅姫は、ルナの涙に気付いた。


紅姫

「ルナ様、おかわいそうに。」


 紅姫は涙を口で吸い取ってから、ルナを抱きしめながら眠った。





 道の駅を作る予定地に向かう道に、ひとりの人影ひとかげがあった。


???

悪霊あくりょうを払うことができる数珠じゅずを買うことが出来て良かった。


 でも、ずいぶん高い買い物をしてしまった。

 聖職者せいしょくしゃとは言え、生活するにはお金が必要だから、仕方ないかなあ。


 急ぎ足で歩いたところで、まだ先だな。

 少しは休まないと足がつってしまう。」


 人影は、くついで、足をもんでいた。





妖刀斬ようとうざん 紅丸べにまる

「紅姫、起きるでござる。」


紅姫

「ううん、どうしたの紅丸。

 夜中だよ。 ほら、時計も2時10分だよ。」


妖刀斬 紅丸

「黄花殿に危険がせまっているでござる。」


紅姫

「この妖気ようきは、確かに。

 行こう、紅丸。


 正義の妖刀が味方で良かった。」


妖刀斬 紅丸

「ルナ殿は起こさないのでござるか?」


紅姫

「今日は無理だから、置いて行きましょう。

 大丈夫よね。 紅丸。」


妖刀斬 紅丸

「9割がた大丈夫で御座ろう。」


 紅姫は身支度を整えて、家の外に出た。


紅姫

「ママ、行ってきます。」


 紅姫は、家の扉が消えたことを見届けてから走り出した。


紅姫

「ここからだと、走っても15分は掛かるな。

 黄花、無事でいてくれ。」


妖刀斬 紅丸

「神に祈るしかないでござるな。」





 黄庵の姿の黄花が、ルナたちと別れたあとで、青兵衛と黄庵は食事をしていた。


 食事の後で、青兵衛と黄庵は、町の建設予定地のみずうみに来ていた。


青兵衛

「黄庵殿、汗をかいたでござろう。

 まだ、風呂はないので、タオルを湖の水につけて、身体を拭いてくだされ。」


黄庵

「わたしは、あとにします。

 なんだか、疲れてしまったのか眠くなってきました。」


 黄庵は眠ってしまった。


青兵衛

「ようやく、眠り薬が効いたか。

 医者だからか、なかなか効かないから、薬の量を増やしてしまったぞ。


 黄庵は、なかなかの美青年だな。


 わたしが失った身体の代わりとしては、合格だな。


 夜空の月が最も高い位置に来れば、黄庵の身体を乗っ取ることが出来る。」





 町の入口にある森の小道


???

「ふう、嫌な予感がしたから、急いで戻ったけれど、明日にしても良かったかな。

 とは言え、なぜか、もっと急げと言われている気がするんだよな。


 森の木に付けた目印は、夜で見えなかったが、歩いた距離的には、この辺だろう。」


 人影は、道の駅を中心に作る町の建設予定地のはしに着いた。


???

王真加勢陀オマカセダの像が倒れている。

 反対側もそうだ。


 やはり、悪霊となって、化けて出たか。

 本当にしつこいな。」

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