024 青紫の商才(4)商人 青兵衛

 ボクたちは、ギルドを出て、西に向かって歩いた。


紅丸

「ルナ殿に、姉君あねぎみがいらっしゃるとは知りませんでした。」


ルナ

「あれは、半分本当で半分は作り話だよ。」


黄庵

「どういう意味ですか?」


ルナ

「まず、ボクが受け取った報奨金を当てにした依頼だということが気に入らなかった。

 他人の財布を使わせようという根性が気に入らない。


 次に、いま、いっしょに住んでいる家だけれど、神様からもらったものなんだ。

 それでも、タダじゃない。


 そして、ボクにとって、姉君に相当する女性は、紅姫と黄花、そして、まだ見ぬ青紫のことだ。」


紅丸 

「姉君と思ってくださっているなんて、もったいない。

 うれしくて、たまりません。」


黄庵

「紅姫様は分かりますが、わたしはまだ出会ったばかりです。

 そして、青紫さんは出会ってもいないではありませんか?」


ルナ

「紅姫、黄花、青紫の3人は、ボクの仲間で彼女になってくれる可能性のある女性のことなんだ。


 神様がボクに約束してくれた報酬は、3人に出会って幸せになることなんだよ。


 だから、この世界に来て最初にもらった報奨金は使い切ったことになる。」


紅丸

「それは光栄こうえいですが、未来のことは約束できません。

 わたしには、理性を無くした妖刀をすべて砕くという使命があります。」


黄花

「わたしも、お気持ちはうれしいですが、それでも。

 ひとりでも多くの患者を治すという本願ほんがんを優先すると思います。」


ルナ

「それでいいんだよ。

 未来は可能性の話だからね。


 ボクの存在があなたたちにとって、得となるのか損となるのか分からないからね。


 だからね、ギルドマスターに言ったことは、半分本当で半分ウソになるんだよ。」


紅丸

「良く分かりました。

 では、今後の生活費を稼がないといけませんね。」


ルナ

「その通りだよ。

 だから、1か月間も無収入で、もらえる報酬が換金できないような依頼を受ける訳には行かなかったんだ。」


黄花

「それにしても、神様もひどいですね。

 少しくらい残しておいてくれてもいいのに。」


ルナ

「家と1か月分の食材は前払いで神様からもらっているよ。

 だから、はじめに必要な分は残してくれたというか、もらっているんだ。


 いまの生活レベルを維持するために、安定して稼げる事業が必要なんだ。」


紅姫

「わたしの剣の腕と紅丸があれば、ルナ様と黄花を、そして、青紫を食わせるくらいはできます。

 ご心配なさらずに。」


ルナ

「ありがとう。 紅丸。

 頼りにしているよ。」


黄花

「わたしも医者ですからね。

 4人分の生活費くらいは稼いで見せます。」


ルナ

「ありがとう。 黄花。

 頼りにしているよ。」





 ルナたちは、青兵衛との待ち合わせ場所についた。


 長身で美形の青年が近づいてきた。


青兵衛

「わたしは青兵衛と申します。

 ギルドでご紹介いただいたパーティ 【可愛いお茶屋さん】 ですね。」


紅丸

「そうだ。

 パーティ 【可愛いお茶屋さん】 だ。」


 紅丸は男性のような低い声を出している。


青兵衛

「ここまで来てくださって、誠にありがとうございます。


 おお、中央にいらっしゃる姫君は本当に可愛らしい。


 パーティ名が 【可愛いお茶屋さん】 というのも納得です。」


ルナ

「どうも、ありがとう。」


 ルナは不機嫌そうだ。


青兵衛

「現地までの道は分かりにくいので、ご案内します。」


黄庵

「ええ、お願いします。

 紅丸は、ルナさんに付いていてあげてね。」


 青兵衛と黄庵が先に歩いた。


 紅丸とルナは少し離れて歩いた。


紅丸 《小声》

「ルナ様、どうされましたか?

 あんな不愛想な態度を取るだなんて。」


ルナ

「理由は分からないけれど、とにかく気に入らないんだ。」


紅丸

「青兵衛殿も、もしかしたら、男装した女性かもしれませんよ。」


ルナ

「そうだとしても、彼はお断りだね。」


紅丸

「黄庵殿もルナ殿が不機嫌だということに気付いたから、青兵衛殿の相手を引き受けたのでしょうね。

 当然、青兵衛殿もルナ殿の敵意というか嫌悪感に気付いているでしょう。」


ルナ

「それでも、構わないよ。

 紅丸と黄庵のときには感じなかった死臭ししゅうというか、くさりかけた鶏肉とりにくのような吐き気を感じるんだ。


 紅丸はなにか感じないかな?」


紅丸

「拙者は特に感じません。」


ルナ

「そう?

 残念だね。


 紅丸なら、なにか感じるかもと期待したのだけれどね。」


 4人は、しばらくの間、両脇に高い木々が並んでいるというか、森の中に切り開かれた道を歩き続けた。


青兵衛

「ここでござる。

 あの手前から数えて2本目の木に、Xばつじるしきざまれているでしょう。」


黄庵

「ええ、見えます。」


青兵衛

「ここが入口なのです。」


黄庵

「ルナさんーーー。

 紅丸さんーーー。


 ここが入口ですって。」


 黄庵が大きな声で知らせてきた。


紅丸

「ルナ様、走りませんか?

 せめて、急ぎ足になられては?」


ルナ

いやだね。

 少しくらい待ってもらおう。


 ひとを急かすような相手なら、この依頼は断ることにする。


 信頼関係を作ろうとしない横柄な態度だったとギルドに報告すればいい。」


紅丸

「ルナ様、なんだか変ですよ。」


ルナ

「向こうは、こちらの信頼を得る必要があるけれど、こちらは選ぶ立場だからね。

 ひとを見下してくる相手だったら、どのみち、1カ月もいっしょに過ごすことは出来ない。」


紅丸

「分かりました。

 ゆっくりと歩きましょう。」


 しばらくして、青兵衛と黄庵が待つところに追いついた。


青兵衛

「さあ、行きましょうか?

 ここからははなれないでくださいね。


 木々が多いため、迷ってしまうことになりますから。」


黄庵

「ええ、気を付けます。

 さあ、ルナさん。

 青兵衛さんについて行きましょう。」


ルナ

「そうするよ。 黄庵。」


紅丸

「ルナ様。

 足元の木々の根っこで、ころぶかもしれません。

 わたしの手をお取りください。」


ルナ

「ありがとう。 紅丸。」





 しばらく歩くと、広い草原に出た。

 広い森を四角く切り抜いたような場所だった。


 西側の遠くと、南側の遠くで、なにか細長いものが倒れているように見えた。


青兵衛

「どうです。

 広いでしょう。


 道の駅というよりは、大きな町ができそうではありませんか?


 わたしは、ここに人々が幸せに暮らせる町を作りたいのです。」


 青兵衛は熱弁しながら、輝くような笑顔をボクたちに向けてきた。

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