息子の彼女
空き缶文学
似ているだけで別人
高校2年になる息子に彼女ができたらしい。
恋愛相談なんかされたことがない……されたって大した助言はできないが、少し寂しい。
妻は、知っていたようだ。
まだ会ったことがない息子の彼女について聞いてみると、
「いい子だよ、大人しいし、礼儀正しくて、可愛い。でも……アンタは、驚くかも」
変なことを言う。
「会えば分かる。もう少ししたら来るよ。正直、困るけど」
それはつまり、俺が息子の彼女に惚れるかもしれないって思ってるんだろうか?
息子の彼女って、俺から見れば子供も子供。
ガキ相手に惚れるようなロリコンじゃない。
それに、お前と息子の為に生きるって決めた。話し合ったじゃないか。
「どうかな。だって紹介されたとき、心臓が止まるかと思った。似過ぎて」
「似過ぎて?」
妻はキッチンに行ってしまう。
いつもハッキリ言うのに、珍しい。
「ただいま」
「おじゃまします」
息子の意識した低い声とは別に、細い可愛らしい声が聞こえた。
見に行くのはなんだかはしゃいでいるみたいで恥ずかしいから、リビングのソファに腰かける。
「おかえりーデート楽しかった?」
玄関に素早く移動する妻を眺めた。
「べ、別に」
素直じゃないな。
今だから俺もある程度素直に話せているが、当時を振り返れば、同じことを言っていたはず。
「はいはい、探してたアクセサリーあった?」
「はい、このペンダント、あと残り1点で買えて良かったです。本当に、ありがとうございます」
控えめで丁寧に話す、例の彼女。
「そりゃ良かった。どうする、このまま夕ご飯食べてく? ご馳走するよ」
「お言葉に甘えたいですが、そろそろ迎えが、来てしまうんです。門限とか厳しくて……」
「そっか、じゃあ今度ランチ一緒にいこっか」
「是非!」
「なんで母さんが……」
「あら、将来のお嫁さんと仲良くしちゃダメだった?」
圧をかけてやるなよ。嫌だろ、普通に。なんて思っていると、妻がリビングにいる俺を覗く。
どうする? という眼差し。せっかくだし挨拶しとくか……将来のお嫁さんって、気が早すぎるだろ。
腰を上げて、玄関に行くと、髪を整えた息子の隣にワンピース姿の彼女。
息子は俺の登場に歓迎的じゃない。
白い肌とか弱い関節、背伸びしたソフトレザーのバッグを手に持つ。
少し丸みのある輪郭と首までの黒髪……曇りのない瞳と目が合った。
「こんにちは」がでない、息が詰まった感じと、一瞬にして過ぎ去った面影を重ねてしまう。
完全に怯んだ。
誰の反応も見る余裕がない、妻が言った通り、似過ぎている――。
「だからって、変な気を起こさないでよ」
妻の忠告が、息子が2階に上がった後の食卓でようやく聞こえた。
「え、あぁー変な気って、冗談悪い。そんなに信用ないか?」
「ずっと上の空」
「驚いただけ、マジで似ていて、ビビった。反対、しなかったんだな」
「あの子の人生に余計な口出しはしない。求められたらアドバイスぐらいはするけど……素直でいい子だし、彼女の親、結構有名な大企業の常務なんだよ」
じゃあ、いいとこの子ってことかな。
「名前は?」
「
ざっくりした説明。
戸鞠……戸鞠、聞いたことがある苗字だ。
「そっか、不思議なもんだな」
「複雑だよ」
妻は再びキッチンに入ってしまう。
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