プロローグ

アトランティス

”あれから3日”






 「死せる過去」




途切れなくそのまま続ける。




「過去存在した文明達は、今日こんにちの文明の礎として利用されてきた。そして、世界は指針を過去に求め続けている」




あたりは今までずっと真っ暗だった。


ただ、今日は久しく月明かりの眩しい夜空があり、灯りがなくとも容易くものを見ることが出来た。




「現在、あまりに多くの人々が過去に従ってしまっている。この事実は、新たにやってくる宇宙時代において、まったく危険であると言い切れよう」




短く持ったタバコは手を焼きはじめる頃で、その煙に咳き込む者が1名いたが、アーラは低くしゃがみこんだ姿勢のまま、ソーニャ達の方へちらちらと目をやりつつ更に続ける。




「地球の民よ、過去とはすでに死に絶えたものであり、過去に従う者はみな死に、過去と同じ運命を辿るのだ」




掠れた文字に目を凝らす。


アーラが次を読もうとすると、咳き込んでいた男はとうとう情けなく啜り泣き始め、手を振るわせながら、残った指で目玉を抉るように涙を拭い取る。


潰れた左目からは何も流れてはいなかったが、右と同じように拭う仕草を見せた。


その様子を見たソーニャは、べたりと座り込む男を静かにさせようと、肩をぐっと押すように蹴りを入れる。


そうすると、男はソーニャの意思を理解したようで、唇を口内へと力強くしまいこみ、鼻から大きく3回ほど深呼吸をすると、ようやく落ち着きを取り戻した。


それでも涙は拭い続けるようだったが。


そして、アーラは手に持ったレコードジャケットと目の距離を少し離すと、最後の一文を読み上げた。




「死んだものがこの世を”過ぎ去った”と言われるのは偶然ではない。”過ぎ去った”ものこそが”過去”なのだ」




詩はここで終わり。


今日あった事柄を書き記すなら、ここまでで十分だろう。








"THE DEAD PAST" Manifesto, by Sun Ra from the music album "Atlantis"

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