第十二話 羽の分かれ道

「追ってみよう……!」

 ユーデを連れて、私は羽を追って歩き続けた。羽はずっと先まで落ちている。ある程度進んだところで、私は気がついてしまった。思わず息を呑む。


「(きっとこの先の体育館倉庫に続いてる……!)」


 ユーデは気がついていないようで、「どこに続いているんだろうねぇ」と呑気にきょろきょろ見回している。さて、どうしたものか。このままユーデと天使を会わせるわけにはいかない。私は窓の外を見て、ユーデの名前を呼んだ。


「ユーデ、外見て外」

「え? 何かいた?」

「何か横切った……」


 彼が視線を逸らしたその隙に、私は自分の羽を少しだけ広げて羽をもぎ取った。痛い。とても痛い。でもこれも、天使を守るためだ。


 その羽を、分かれ道の羽がない方に素早く散らす。その羽が点々と続くように、天使の力で位置も調整する。


「なにもいないよ?」

「見間違いかな……」


「そうかも……って、泣いてるの、リア」


 振り向いたユーデは私の顔を見てギョッと目を見開いた。羽を捥いだ時の痛みで生理的な涙が出ていたらしい。ゆっくりと近づいて、ユーデはその大きな手を私の頭に置いた。

「怖くないよ。オレいるし」

「ああ、うん。ありがとう」


 大変心外だが、お化けの類が怖くて半泣きであると思われたみたいだ。まあいい。これも天使を守るためだ。受け入れて全てを許しましょう。彼が頼りになる友人であることは確かなのだから。私は素早く切り替えて、分かれ道を指差した。


「ユーデ。羽が別れて続いてるみたい」

「そうだね」


 ユーデが頷く。そうそう。両方とも気になるよね、と目で訴えてみた。

「私はこっち行くから、ユーデはそっち見てきてくれないかな?」

「ええ、大丈夫? ……怖くないの?」

 ついていくけど、とユーデは珍しくこちらを心配してくれているようだった。しかし、一緒に来られた方がこちらは困る。だから彼とは別行動を取らなければならなかった。私はとびっきりの笑顔を向ける。


「もう怖くなくなった。急に」

「そっか。急にね」


 多少強引だが、彼はわかってくれたようで、ユーデは私がばら撒いた羽を追ってくれることになった。その隙に体育館倉庫への道を急ぐ。ばら撒いた羽はそこまで多くないので、あまり時間に余裕はない。


「ここ……」


 羽はやはり、体育館倉庫の中に続いていた。一度深呼吸して、私は一歩一歩進めていく。階級はどうだろう、何故下界に派遣されているのか、聞きたいことは多い。


 中から何かの声が聞こえた。心臓がうるさい。いるのは同胞のはずなのに、ひどく緊張していた。


「…………」


 ああ、この先に、天使がいる。

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