第七話 地獄のおかず交換

「どれにしよっかな〜」

「迷うねー」

 二人の箸が三人の弁当箱の上を踊り回る。そして私の作ったゆで卵入りコロッケとチーズ入りのミートボールを掴んだ。拠りに拠って危なそうな物を選ばれる。……ああ、終わった。

「ん! めっちゃ美味しいじゃんなにこれ!!」

「……え?」

「ほんとだー。なんだろこれ。ソースみたいなの美味い」


 二人は私のおかずを放り込み美味い美味いとそれを誉めている。……なんとかなったようだ。もし許されない具だったとしても、二人はちょっとお馬鹿さんで気が付かないのかもしれない。

 悪魔がこの程度なのか、二人の舌が鈍感なだけなのか。とりあえず後者ということにしておこう。私はほっと一息ついておにぎりを手に取った。安心して食べるおにぎりはさぞ美味しいことだろう。


 ぱくっ


「……ゔ」

 なんだこれは。……甘い。おにぎりの具が甘い。そんなはずはないのに。私はいま頬張ったおにぎりを恐る恐る確認する。具は黒い。よく目を凝らすと、黒い塊の中に、途中から輪郭をなくしている粒が見えた。これはーー……。


「ひぃっ……」


 具の正体は粒あんだった。初めて食べたがやはり苦手らしい。いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。明らかにおかしい点があるじゃないか。

「何故だ……」


 ああ、神よ。今朝私が握ったシャケのおにぎりはどこにいってしまったのでしょうか。正体がバレずに生き延びたのは助かりましたが、楽しみにしていたんですよ。

 私は涙を流しながら、口に合わないおにぎりを頬張り続けた。ルウベス様、今だけこのおにぎりを食す無礼を御許しください。私は胸に手を置きながら涙を流していた。


「なにやってんのリア」

「音楽祭の練習? 早くない?」


 泣きながら天に祈る私を見て、二人は首を傾げている。知らぬ間におにぎりの具が変わっていたショックは私の心を深い闇に貶めた。

 お馬鹿さんの二人には私の苦しみなど理解できないだろう。私はこの複雑な感情のやり場を失い、はらはらと涙を流し続けた。


「そう。おんがくさいのね、練習」

 しかし都合がいいので、彼が言った音楽祭とやらの練習ということにしておく。

「そうか、音楽祭の代表に選ばれるよう、お互いがんばそうぜ!」

「うん……頑張る」

「泣くほど本気なんだ。オレも応援しとくよ」


 ありがとう二人とも。二人がほんの少し鈍感なお友達でよかった。嬉しさに反してどうして弁当の中身が違うのかの疑問もあるけれど、私は全てを許すことにした。


 あと音楽祭ってなんだろう。代表ってどういう意味だろう。私はよく知らないまま、おにぎりを飲み込んだ。

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