拝啓 ずっと一緒だった君へ

月村 あかり

拝啓 ずっと一緒だった君へ

君へ


この手紙を君が読んでる頃は私はもうこの町には居ないと思う。

引っ越すって言わなかったこと怒ってる?

怒ってるよね、誰よりも私と一緒に居てくれた君にさよならさえ言わずに消えるんだから。

でも、だからこそ言えなかった。

ずっと一緒にいたから、さよならなんて言ったら泣いてしまいそうだから、言えなかった。

許してね。


君とは物心ついた頃から一緒に居て、多分お互い当たり前の存在だとさえ思ってた。

お互いに他の大事な人を作らなかったのは、お互いがいることで満たされてたからだよね。

自意識過剰かもしれないけどそう思ってる。

少なくとも私はそうだった。


小学校の入学式の帰り道に迷子になって泣いてる私を見つけてくれたのは君だった。

その姿にどれだけ安心したことか。

君は何も言わずに手を繋いで引っ張っていってくれた。

その手の温もり、今も忘れないよ。


中学に上がって君が部活を始めて、なんだか女子が騒ぎ出して。

実は私は気が気じゃなかった。

君が他の可愛い子に取られてしまうんじゃないかって。

でも、そんなこと口が裂けても君に言えるわけなんてないから願ってるしかなかった。

君にとっての特別が私だけでありますようにって。

思いが通じたのか、私と君が同じ気持ちだったのか、そんなこと知る由もないけどとりあえず君が彼女を作らなくて心の底から安心したんだ。

自分勝手だけど、でも君を取られるのは嫌だった。

君の特別は私だけでいいって本気で思ってたんだ。


高校に上がって、私が告白された時のこと覚えてる?

君、焦った顔して「付き合うのかよ」ってきいてきたよね。

普段そんなこと絶対話題に出さないくせに、わざわざ聞いてくるところとか可愛くて仕方なかった。

こんなこと言ったら君は怒るだろうけどね。

その時も、私が思わず笑ったら君は怒ってたよね。

でも、嬉しかったんだ。

君の特別は高校に入っても私なんだなって思うことかもできたから。

言葉にしないのに、君を縛ってるみたいでずるいのは分かってる。

だから言うよ、一緒に居てくれてありがとう。


ここまで読んできてくれたら分かると思うけど、つまり私は君のことが好きだった。

ずっと近すぎて、遠くなりたくなくて言えなかったけど好きだった。

過去形で言ってるけどもちろん今も好きだよ。

そして、さらに言ってしまえば君も私が好きだろう?

外れてたら恥ずかしいから、そっとしておいて欲しい。

でも9割の確率で当たってると思うんだ。

だから尚更さよならは言えなかった。

そこで告白でもされたら、私、引っ越せなくなっちゃうもん。


長くなっちゃったけどここまで読んでくれてありがとう。

もしも、もしもだけど、またどこがで会うことがあってそれまで奇跡的にお互いの気持ちが変わらないままだったら、その時は君の彼女になりたいかもしれない。

これは、引越し前のハイ状態の私の戯言だと思ってね。

それじゃあ元気で、また、どこかで。


私より


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