第5章:雷の西方戦線
第23話:アーネンエルベの奇跡
アルフレットの結婚式から一週間が経った昼時、帝都にある第1装甲軍と第203魔道連隊の本部として使用する帝国軍大学旧校舎の校長室でソファーに向かい合って軍服姿のアルフレットとターニャはお菓子を食べながらカップに入ったカフェラッテを心地いい気分で飲んでいた。
「それでアル、初夜は楽しかったか?」
ターニャが嫌な笑顔で目の前のソファーに座るアルフレットに問うと彼はクスッと笑う。
「相変わらず嫌な質問をするな、お前。ああ、楽しかったよ。多分だけど三人共、俺の子を妊娠したな」
「おいおい、冗談はよせ。一、二回じゃ子供は簡単には作れないぞアル」
「おっとターニャ、俺の
「ははははははっ!それはそうなだぁ‼」
「それよりターニャ、髪型変えたなぁ」
アルフレットが笑顔でイメチェンをしたターニャの髪型を褒めると彼女は照れる様な笑顔で自身のショートヘアを触る。
「ああ、お前のアドバイスを元にセレブリャコーフの付き添いで散髪したんだ。どうだ、可愛いだろ?」
少し鼻高々な笑顔でそう問うターニャにアルフレットはクスッと笑い頷く。
「ああ、可愛いぞ。とってもな」
「ありがとう、アル。実は私のカットした姿を見たセレブリャコーフは小さい声で“小さな女神が降臨した”って笑顔で言いながら祈るポーズでぶっ倒れたんだよ」
ターニャは笑顔でそう言うとアルフレットは大笑いをする。
「確かに!可愛くなったお前の姿を見てセレブリャコーフがぶっ倒れても無理ねぇな‼」
などと明るく冗談を交えた和やかな会話をしていると突然、校長室の両開き扉が開き、慌てた様子でエーリャが現れる。
「中将!大変です‼先程!参謀本部より緊急の伝令が来ました‼」
エーリャの口から出た緊急の言葉にアルフレットとターニャは手に持っていたカップをテーブルに置き、立ち上がる。
「緊急だと⁉それで伝令の内容は?」
「はい!こちらです‼」
エーリャは素早く持っていた伝令書をアルフレットに渡し、受け取ったアルフレットはすぐに内容を見る。そしてアルフレットは驚愕した表情となる。
「分かった!ミュラー少佐‼すぐに君は他の兵達に伝えろ!いいな‼」
「はっ‼」
エーリャはアルフレットに敬礼をし、急ぎ足で校長室を後にする。そしてターニャはアルフレットに近づき、問う。
「なぁアル!何があった‼」
ターニャからの問いにアルフレットは物凄くヤバそうな表情で答える。
「ああ、帝国が占領している共和国領のアーネンエルベで武装蜂起が起きた‼」
それを聞いたターニャは驚愕する。
「なっ!何だと⁉」
一方のセレブリャコーフはヴァイス、グランツ、ケーニッヒ、ノイマンと共に軍服姿でとある帝都のレストランで食事をしている所に武装蜂起の知らせを届けに来た男性の伝令兵からの報告にセレブリャコーフ達は席から立ち上がり驚愕する。
「分かりました!ありがとうございます!」
「はっ!では私はこれで‼」
セレブリャコーフと伝令兵はお互いに敬礼し、伝令兵は急いで店を出た。そしてセレブリャコーフは真剣な表情で振り向き、ヴァイス達に命令する。
「皆さん!緊急出動です‼急いで基地に戻りますよ‼」
「「「「了解です!中佐殿‼」」」」
そしてセレブリャコーフ達はお金をテーブルの上に置き、急いで店を出るのであった。
■
武装蜂起治安の為に準備を整えた第1装甲軍は鉄道を使い、急いでアーネンエルベへと向かった。
一方のアーネンエルベでは駐留していた帝国守備隊を暴動を起こした多くの共和国国民が襲撃、武器を略奪し帝国兵を何人か捕虜にし乱雑に教会へと放り込んだ。
さらに厄介な事に武装蜂起の情報を入手した共和国軍がビアント率いる共和国軍航空魔道兵一個連隊が到着した。
「よーーーーし!後方から来る増援部隊の到着までアーネンエルベの守りを固めるぞ‼」
ビアントからの命令に他の共和国航空魔道兵達は頷く。
「「「「「了解‼」」」」」
そしてビアント達は武装した共和国民兵達と共に鉄橋を爆発し、帝国軍の補給線を圧迫させるのであった。
それから一時間後、アーネンエルベの郊外にはアルフレット率いる第1装甲軍が到着し武装治安の為の配置をするのであった。
「あーーーーーあ。武装した民兵だけじゃなくて共和国の航空魔道兵まで居るじゃん。こいつは厄介だぞ」
面倒くさそうな表情で軍帽を被り双眼鏡でアーネンエルベの町を見ながら言うアルフレット。するとアルフレットは空中から指揮をするビアントの姿を見付け、アッとする。
すると軍服姿で軍帽を被ったグレディンがアルフレットの後ろから近づき、ビシッとした姿勢で敬礼をする。
「中将!攻撃の準備が整いました‼」
報告を聞いたアルフレットは双眼鏡を目から離し、町を見ながら頷き命令を下す。
「分かった。だが、攻撃は中止だ。すぐに砲身を下せ、俺はちょっくら町にいる共和国軍の魔道兵指揮官さんと話しをしに行く」
「分かりました中・・・えぇっ⁉今!何と‼」
アルフレットからの真逆な命令にグレディンが驚くのも無理はない。だが、アルフレットは振り返り真剣な表情で再度、グレディンに命令を下す。
「聞こえなかったのか少将。これは命令だ!攻撃は中止だ。今すぐに攻撃態勢の解除と俺が敵将校と和平交渉をする為に町に向かう事を全軍に伝えるんだ‼」
グレディンはハッとなりがなら慌てながらアルフレットに向かって敬礼をする。
「わっ!分かりました!中将‼直ちに!」
「あぁーーーっそれと少将、悪いがデグレチャフ大佐を俺の元に来る様に伝えてくれ」
「わっ!分かりました中将‼」
グレディンはそう言いとクルッと振り返り、駆け足で第1装甲軍の司令部である野戦テントへと向かった。
一方、第203魔道連隊の戦闘服の脱着室として設置された野戦テント内ではターニャ達は戦闘服へと着替えていた。
仕切りで男子専用室内ではベンチに座り、着替えを終えたグランツがイライラしていた。
「くそ!戦闘員と非戦闘員を見分けて戦闘を行えなんて無理だ‼上層部は一体何を考えているんだ!」
すると彼の後ろに同じく着替えを終え座るヴァイスがそれを聞き、少し怒った表情で振り向きグランツの胸元を掴み、顔を近づける。
「いい加減にしろ!今は命令に従え‼」
ヴァイスの迫力にグランツはウッとする。
「諸君!着替えは終えたか?」
テントの外からターニャが訪ねて来たのでヴァイスは落ち着いて表情となり、グランツの胸元をゆっくりと離し立ち上がる。
「はい!大佐殿!こちらは準備完了です‼」
「うむ。では入るぞ」
そしてテント内へ入ったターニャに向かって皆は敬礼をする。
「諸君、急ですまないが、町への攻撃は中止となった。中将の命令があるまで全員、待機だ」
ターニャからの命令に皆は驚く。
「ええぇ‼大佐、それは本当ですか!」
驚くグランツに対してターニャは頷く。
「ああ、本当だ。いいかね諸君?」
ターニャからの問いかけに皆はビシッとなり答える。
「「「「「はっ!」」」」」
「うむ、では」
「あ、あの大佐、ちょっといいですか?」
グランツからの問いかけに去ろうとするターニャは振り返る。
「ああ?どうしたグランツ少佐?」
「あの・・・髪を切った大佐、凄く可愛いですね」
それを聞いた皆はグランツと共に少し身構えるが、ターニャは笑顔で少し照れる。
「ありがとうグランツ少佐、正直、この髪型、結構気に入っているんだ」
そう答えて去るターニャ。その後のヴァイス達は少しザワザワさせながらターニャのイメチェンに話しが盛り上がるのであった。
■
それからアルフレットは軍帽を被り、軍服姿となり白い旗を付けた細い木の棒を持ったターニャと共に徒歩でアーネンエルベの町に向かっていた。
「アル、間違いはないんだな?」
歩きながらアルフレットの右隣に居るターニャの問いにアルフレットは前を向きながら頷く。
「ああ、間違いはない。スーが秘密電話で教えてもらった共和国軍内で俺の話しが通せる人物だ」
「なるほど。でも、なんで私も一緒なんだ?」
するとアルフレットは笑顔でターニャの方を見ながら答える。
「可愛いお前を連れて行けば緊張が解れるだろぉ。そんだけ」
アルフレットの答えを聞いたターニャは少し呆れた表情でフッと笑うのであった。
一方、見張りをしていた共和国軍魔道兵の一人がアルフレットとターニャが向かって来るのを双眼鏡で確認し、RSC Mle1917を構えて大声で警告する。
「その場に止まれぇーーーっ!何者だ!名と目的を言え‼」
アルフレットとターニャはその場で立ち止まり、アルフレットは両手を上げ、ターニャは白旗を上げる。そしてアルフレットは大声で言う。
「私は!帝国軍第1装甲軍指揮官‼アルフレット・シュナイダー中将と申す!アーネンエルベに到着した共和国軍魔道兵連隊の指揮官と直接‼話をしたい!」
警告した魔道兵はアルフレットからの申し出に驚きながらも無線でビアントと話す。
それから五分後、無線で呼び出されたビアントは徒歩で現れ共和国軍魔道兵とアーネンエルベの武装した民兵がアルフレットとターニャに銃口を向ける中でビアントはアルフレットの元に向かう。
そしてビアントは出会ったアルフレットとターニャに向かって敬礼をする。
「共和国特殊作戦軍第二魔導連隊指揮官のセヴラン・ビアント大佐です」
アルフレットもビアントに向かって敬礼をする。
「お会い出来て光栄です、ビアント大佐。実はここへ来たのにはある理由がありまして、少しお話してもよろしいでしょうか?」
アルフレットからの申し出にビアントは少し疑ったが、後方に見える第1装甲軍のⅡ号自走軽榴弾砲2型ヴェスパとⅣ号自走重榴弾砲2型フンメルの砲身が下りている事を見て、彼の真意を知る為に話し合いを受け入れる。
「分かりました中将。しかし、その前にお二人が所持している拳銃をお預りします」
「分かった大佐。それとありがとう」
アルフレットは笑顔で言うとターニャと共に腰のホルスターにあるワルサーP38A2とワルサーPPK-A2を取り出し、ビアントに預けた。
そしてビアントの案内で町にある教会へ向かい、そこで共和国軍魔道兵に見張られた状態でアルフレットとターニャはビアントと向き合う様にお互いに椅子に座り、ビアントはアルフレットから帝国が進める戦争終結プランとアーネンエルベの即時、返還を聞いた。
「なるほど。それが今の帝国が進めている終戦計画なんだなぁ?」
腕を組んで問うビアントに対してアルフレットは笑顔で頷く。
「ええ、そうです。私の提案でしてね。これは両国にとっても得な話です」
そう説明するアルフレットであったが、その話を聞いていた共和国軍魔道兵達は険しい表情でビアントに助言する。
「大佐!やつらは帝国兵です‼全てが嘘かもしれませんぞ‼」
「うむ。確かに。しかし・・・」
悩むビアントの姿を見たターニャはアルフレットがなぜ自分を連れて来たのか理解した。
そしてターニャは悲し気な表情で目をウルンッとさせながらビアントに話し掛ける。
「ビアント大佐、敵である私達の言葉を疑う気持ちは分かります。ですが敵同士でも願いは平和、ただ一つです。どうかお願いです!一度でいいんです!我々を信じて下さい」
彼女のそんな無垢な姿にビアントの心は動き、決意を固める。
「分かりました中将、貴方達のお言葉全てを信じます」
それを聞いた共和国軍魔道兵達は驚愕する。
「大佐!本気ですか⁉」
「こんな事が知られた軍法会議ですぞ‼」
「最悪、国家反逆で絞首刑になりますぞ!」
彼らの必死の説得でもビアントは跳ね除け、決意を変えなかった。
「分かっている。だが、これは私だけの問題だ。君達は関係ない」
「しかし・・・」
「まだ不満でも?」
ビアントのキリッとした表情に共和国軍魔道兵達は何も言わなかった。そしてアルフレットとターニャ、ビアントは共に笑顔で立ち上がる。
「アルフレット中将、武装蜂起した民兵達の説得は任せて下さい」
「ありがとうございます、ビアント大佐。ではこちらは直ぐに大使と連絡を取りますので」
「はい。よろしくお願いします」
アルフレットとビアントは笑顔で熱い握手をする。
そしてアルフレットとターニャが町を出て、自軍に戻る途中でターニャは歩きながらアルフレットに向かってニヤッしながら問い掛ける。
「なぁーーっアル。私を連れてったのはこの為、なんだろ?」
アルフレットも笑顔で歩きながら右側に居るターニャに向かって答える。
「ああ、そうさターニャ。迷っている人間に向かって子供の無垢な姿を見れば誰だって心を開くものさ」
「ハハハハッ確かにそうだなぁ」
まさにアルフレットの絶妙な知略、彼の十中に嵌った事はビアント達は知るようしもなかった。
それからアルフレットの呼び出しでアーネンエルベに来た帝国大使を交えた話し合いの結果、民兵の武装は解除、そして捕虜になっていた帝国軍人達は解放された。
そしてビアントが代行代理で大使が持って来た和平条約にサインし、戦時下でありながらアーネンエルベは共和国に正式に返還さ、その際に第1装甲軍はビアントの指揮する共和国軍魔道兵達と共に復興作業が行われた。
後に戦時下に行われたアーネンエルベの返還を人々は“アーネンエルベの奇跡”と呼ぶ様になった。
あとがき
本作に登場するキャラのAIイラスを投稿しました。是非、見て下さい。
特にターニャの変わりようは驚くと思います。
《アルフレット・シュナイダー》
https://kakuyomu.jp/users/IZMIN/news/16818093087956687210
《ターニャ・フォン・デグレチャフ(if版)》
https://kakuyomu.jp/users/IZMIN/news/16818093087956957563
《バルト・アイザック》
https://kakuyomu.jp/users/IZMIN/news/16818093087956728811
《グレディン・フォン・シュルトマン》
https://kakuyomu.jp/users/IZMIN/news/16818093087956841770
《ミュウラン・ファン・ドゥートビッヒ》
https://kakuyomu.jp/users/IZMIN/news/16818093087957216632
《シェレミー・カールゼン》
https://kakuyomu.jp/users/IZMIN/news/16818093087957322644
《フィナ・アドラー・ゲルマー》
幼女戦記if ~帝国軍第1装甲軍の戦歴~ IZMIN @IZMIN
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