第18話:帰路とそして・・・

 アルフレット達、第1装甲軍が北方ノルデンから西方・ライン戦線に着任してから二週間が経った日のお昼。


 帝国軍の野戦基地のテントでアルフレットは女性通信兵から参謀本部からの一枚の特令書を受け取っていた。


「なるほどね。分かった曹長、ご苦労だった」


 アルフレットが笑顔で言うと女性曹長はキリッとする。


「はい!では失礼します中将」

「ああ。ありがとう」


 そしてアルフレットと女性曹長はお互いに敬礼をし、女性曹長はテントを出るとアルフレットは再び特令書を見ながらニヤリと笑う。


「なるほどね。んじゃターニャ達との所に朗報を届けに行くか」


 そう言うとアルフレットは軍帽を被りテントを出る。


 そして、しばらく歩き横並びに綺麗に停車しているⅢ号戦車J2型、Ⅳ号戦車D2型、Ⅴ号戦車パンターG2型、Ⅵ号戦車2A型ティーガーⅡの間を通り広い平野に出る。


 そこではターニャ達を含めた第1装甲軍の兵士達がのんびりと過ごしていた。


「おーーーーーい!皆ぁーーーーーーーーっ!いい知らせがあるぞぉーーーーーーーーーーっ‼集合ーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 アルフレットが大声で言うと皆はハッとなり身なりを整え急いでアルフレットの元に集合する。


「全員!気を付け‼敬礼!」


 バルトが号令し皆が敬礼をするとアルフレットも敬礼をする。そしてアルフレットとが敬礼を解くと皆も敬礼を解く。


「皆、休んでいる所をすまない。実は参謀本部から特令が来てな。明日の0630まるろくさんまる時に第1装甲軍は帝都に帰還せよってな。喜べ、緊急の命令が無い限り無期限の有給休暇が過ごせるぞ」


 アルフレットからの朗報に皆は大喜びをする。


「やった!休暇だぁーーっ!久しぶりの帝都だ!」

「よっしぃーーーっ!帝都で美味い料理と酒をたらふく味わうぞ‼」

「うひょーーーーーーっ!無期限の休暇だ‼カジノで遊ぶぞ!」

「ふぅーーーーーっ‼休暇だ!休暇だ!しばらくは戦線から離れられるぞ‼」

「休暇か!久しぶりにお土産を買って家族に会いに行くか!」


 するとアルフレットは右腕を真っ直ぐ出すと皆は制止する。


「皆!喜ぶのは分かるが、明日までは任務なんだぞ。あまり浮かれていると足を掬われるからな。皆!気を緩めるなよ!」


 そうアルフレットが一括すると皆は姿勢をキリッとする。


「「「「「ハッ‼」」」」」

「よし!じゃ解散!皆!いつも通り過ごすように。それとデグレチャフ大佐!俺と一緒に来てくれ」

「はい!シュナイダー中将殿!」


 軍帽を被ったターニャは後に続く様にアルフレットに付いて行く。そしてテントに入り、ターニャは何かを察した様に笑顔になる。


「アル、さてはゼートゥーアから何か私達に皆とは別の特命があるんだろ?」


 ターニャからの指摘に椅子に座ったアルはニヤリと笑う。


「ああ、そうなんだよターニャ。一つは『宣伝プロパガンダ映画の撮影があるから二人は宣伝部に出頭せよ』だと」

「ああ、なるほどね。一つって事はもう一つあるんだな?」

「そうなんだよ。そのもう一つってのが・・・・」


 アルフレットの口から出た、もう一つの特命にターニャは驚愕する。


「おい!おい!噓だろ‼それ本当か⁉」


 アルフレットは目を閉じ両腕を組み頷く。


「ああ、そうなんだよ。まぁ仕方ない。あっちからの参謀本部への和平提案みたいなものだ。俺は受け入れるよ」

「まあ。お前がそう決めたなら私は何も言わんよ。幸運を祈っているよ」


 笑顔でターニャがそう言うとアルフレットは苦笑いをする。


「ありがとよ、ターニャ」

「いいって事よ、アル」


 そして二人は握手をするのであった。



 翌日には第1装甲軍は帝都へと帰還、そしてアルフレットとターニャは帝国軍宣伝省に赴いていた。


 アルフレットは自ら撮影で着る洋服を笑顔で選ぶ一方でターニャは苦虫を嚙み潰す様な表情をしながら三人の第二次大戦時のドイツ軍補助婦隊の勤務服を着た帝国女性に笑顔で囲まれていた。


(くそ!だが、これは仕方ない!ここでは尊厳やプライバシーは意味を・・・あ!)


 そう心の内で語るターニャはふと脳裏にアルフレットからのアドバイスが浮かび上がる。『お前は容姿が可愛いから、それを武器すれば何かと役に立つぞ』と。


(まったく、アルの奴め。でも確かに自分の容姿を武器にするのはどんな世も最大の武器だよな)


 そう語ったターニャは一瞬で笑顔になり、その急な笑顔に三人の宣伝部の女性兵士は驚く。


「あ!ごめんなさい。でも安心して下さい。改めて私を凄く可愛いして下さいね」


 そんなターニャの無邪気で明るい笑顔に三人の女性兵士は心打たれる。


「はい!お任せ下さいターニャさん!」

「そんな笑顔は我々にはご褒美ですわ!分かりましたわ!」

「ターニャさんの笑顔の為に!気合を入れますよ!」


 そして三人はターニャのおめかしを始める。そして撮影所としている一室に設けられたセットに着替えを終えたアルフレットとターニャが入って来る。


 しかも一室には二人の撮影を見学したいと同行して来たセレブリャコーフも居り、二人の姿、特にターニャの姿に目を輝かせ祈る様に両手を組み尊い笑顔をする。


 アルフレットはエポーレットと飾緒しょくしょ、そして柏・剣付き鉄十字勲章と戦車突撃章、戦車射撃優秀車章、戦功十字章の着けたドイツ帝国の正装を着こなし、腰にはサーベルを提げていた。


 そして綺麗に化粧をしたターニャはフリフリの可愛らしい赤と黒を基調としたドレスと帽子を被っていた。


「アル、やっぱりお前は軍服したか」


 笑顔で言うターニャであったが、アルフレットは微妙な笑顔をする。


「いや、俺も本当は普通の服を着たかったが、宣伝部部長から“やっぱり帝国の英雄は立派な礼服でないと”って言われて」

「アハハハハハッそれは可哀想に」

「はい!それでは撮影を開始しますね!」


 三脚に乗ったフィルムカメラを構えた男性カメラマンが笑顔で言うとアルフレットとターニャは真っ直ぐカメラを顔を向ける。


「それじゃ、さっきのセリフをお願いします」


 カメラマンの指示に従いアルフレットとターニャは笑顔になる。


「はじめまして帝国の皆さん!私は鋼鉄の騎士、アルフレット・シュナイダーです」

「はじめまして!私は戦場の妖精、ターニャ・フォン・デグレチャフです」


 セレブリャコーフと三人の宣伝部の女性兵士はターニャの可愛い姿に感銘を受けるのであった。



 それから二日後の昼。参謀本部のとある一室でアルフレット、ターニャ、そしてエーリャがソファーに座っていた。


 するとアルフレットと右に座るターニャは着ている軍服の胸ポケットから懐中時計を取り出し時間を見る。


「今日は呼び出した本人が遅刻するとは珍しいなぁ」


 そう笑顔で言うターニャに対してアルフレットがクスっと笑う。


「仕方ないさターニャ、参謀本部のトップのお二人は多忙なのさ。タバコいいか?」


 笑顔でタバコの箱を手に取って振るアルフレットからの喫煙許可にターニャは軽く首を横に振る。


「ダメでーす。タバコはお子様に有害なのでー」

「はいはい。ターニャがいない所で吸いまーす」


 そう言うとアルフレットはタバコの箱を着ている軍服の内ポケットに入れる。


「あのー、中将。私のような者がここに居て、いいんでしょうか?」


 申し訳ない様な笑顔で問うエーリャに対してアルフレットは笑顔で答える。


「いいんだよ、エーリャ。フィヨルドの攻略成功やあの帳簿の入手成功は全てお前が居たお陰だ。ありがとよ」

「あ!いやーーーーーーっ!そう言われますと素直に照れちゃいます」


 エーリャがそう笑顔で言っているとドアが開きルーデンドルフ、ゼートゥーア、レルゲンが笑顔で入室したのでアルフレット達はキリッとした表情で立ち上がる。


「ああ、座ったままで構わんよ」


 ルーデンドルフが笑顔でそう言うとアルフレット、ターニャ、エーリャは軽く敬礼をし再びソファーに座る。


 そして上座のソファーに座るルーデンドルフがアルフレットに笑顔で言う。


「フィヨルドと西方戦線はご苦労だった。君達、第1装甲軍の活躍で帝国国民は歓喜に沸いている。志願兵も前年以上の人数だ」


 ルーデンドルフからの褒め言葉にアルフレットは素直に照れる。


「ありがとうございます、ルーデンドルフ閣下。それとあの帳簿は有効的に使われていますか?」

「ああ、もちろんだ。この帳簿を手に入れたお陰で保守派ほしゅはは我々との和解を申し出たのは、この前の伝令で知った通りだ」


 笑顔でそう言いながらルーデンドルフは前にあるテーブルに置かれたあの帳簿を持つ。


 エーリャが手に入れた帳簿と言うのが、歴代の参謀長と保守派ほしゅは筆頭が予算の一部を横領していた記録が記された帳簿であった。もし世間に暴露されれば帝国は根元から崩壊する事となる。


「アルフレット中将、この前の伝令でも知っているが、帳簿が我々の手にあると知った保守派ほしゅはは参謀に従う条件として保守派筆頭である陸海空の元帥の肉親との政略結婚となった」


 アルフレット達が座るソファーの左側にあるソファーに座り、両腕を組むレルゲンが少し笑顔で言うとアルフレットがフッと笑う。


「で、その政略結婚の相手として俺が選ばれたと言う事ですか准将?」


 アルフレットからの問いにレルゲンは頷く。


「ああ、そう言う事だ。それとアルフレット中将、お見合いの日取りは明後日だが、大丈夫か?」

「ええ。その日に合わせて予定は調整してありますので」


 するとゼートゥーアが葉巻を一本、取り出し火を点け一服吸い始める。


「それとアルフレット中将とは別にミュラー少佐、君には参謀本部に新たに組織される参謀対外情報部の部長に就任してもらいたい」

「はい。ゼートゥーア閣下、喜んで・・・え⁉私が!新しい!情報部の!部長に‼」


 一回、葉巻を吸ったゼートゥーアはエーリャの驚く姿にクスッと笑う。


「驚くのも無理はない。実は今の情報戦略部は完全に腐敗してまともに機能していなくてな」


 そしてゼートゥーアの説明を引き継ぐ様にルーデンドルフが笑顔で言い始める。


「そこで現在の部を解体し近代的な組織にしたいんだ。その為に誰をトップにするかでミュラー少佐に白羽の矢が立ったわけだ」


 二人からの説明を聞いたエーリャが納得はしているが、胸の内では迷っていた。


 すると隣に座るアルフレットが左手で彼女の右肩に優しくポンッと置く。


 エーリャは彼の方を向くとアルフレットが笑顔で頷くので迷いはなくなり、決意する。


「分かりました。エーリャ・エレナ・ミュラー、謹んで拝命します」


 それから今後の方針や計画を話し合い、解散した。また秘匿性を高める為にエーリャは引き続きアルフレットの専任秘書として自身が参謀対外情報部の部長である事を隠す事にしたのであった。



あとがき

次の話しでアルフレットのお見合いとなります。

現在、別のオリジナル小説を執筆中また完結作品がありますので、そちらも是非、読んで下さい。


・『異世界に転生した考古学者の俺は義娘達を育てる為に勇者をやめた』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662068879516


・『古き神の娘の恋歌』

https://kakuyomu.jp/works/16817330669782741529


・『FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-』

https://kakuyomu.jp/works/16818093079472528905

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