第13話:フィヨルド、鋼鉄の吹雪

 統一暦1924年、クラグガナにある帝国軍北方軍集団の野戦基地の建物にて。


 そこの会議室ではルーデンドルフやレルゲン、帝国軍北方軍集団司令官のハンリヒ・ツー・シュライゼ大将を交えアルフレットとターニャは今後の方針報告をしていた。


「以上をもちまして、冬季攻勢においてのデメリットの報告を終えます」


 報告を終えたターニャは席に座ると向かいの席に座り、火を点けた葉巻を口に銜えたシュライゼが手で銜えた葉巻を取る。


「デメリットは分かった。だが、我が軍集団はむこう三ヶ月は攻勢は可能だ」


 するとターニャの左隣に座るアルフレットが反論する。


「しかし、ですねシュライゼ大将。先の戦闘で協商は共和国または連合王国の支援を受けている可能があります。しかもノルデンは険しい森林が広がっていますので通常の攻勢戦法では間違いなく北方軍集団は大きく消耗します」


 アルフレットからの反論にシュライゼは傲慢な態度をする。


「君達の意見は分かるが、今、攻勢をしなければ戦線の押し上げは出来ん!時間との勝負なのだ!」


 シュライゼの言い分にアルフレットとターニャは呆れた表情をする。


「お言葉ですが、シュライゼ大将。時間との勝負であれば、なおさら慎重に計画を練らないと無駄な戦死を増やすだけです」

「私もアルフレット中将の意見に賛同します。現時点でも補給問題が解決していません。どうか、作戦の見直しを・・・」

「もういい!まったく!これだから若者は臆病だとやゆされるのだ」


 シュライゼの聞き入れない態度にアルフレットとターニャは溜め息を吐く。


「失礼を承知で申しますが、仮に私とアルフレットが臆病者なら貴方は愚者ぐしゃですね」


 挑発的な笑顔で出されたコーヒーの入ったコップにミルクをドバドバと入れるターニャ。


 それを聞いたシュライゼは頭に血が上り、右の拳をテーブルに叩き付ける。


「貴様‼︎そこまで言うなら西方に帰れ!臆病者なぞ無用だ‼︎」


 するとアルフレットが小さく反論する。


「では、即時、作戦の見直しを」

「くどい‼︎」


 もう無駄だと判断したターニャはコーヒーを飲み干し、アルフレットも同じで吸っていたタバコを灰皿で消し席を立つ。


「では、失礼します。行くぞ大佐」


 アルフレットは皆に敬礼をし、ターニャも席を立ち、敬礼をしてアルフレットと共に会議室を後にする。


 場所は変わり壁に立て掛けられた戦時戦略地図のある部屋でアルフレットとターニャはルーデンドルフとレルゲンに意見具申していた。


「どうなさるのですか?攻勢作戦など無謀。下手をすれば北方軍集団は崩壊します」


 そう言いながら立ちながら新たなコップに入れられたコーヒーを飲むターニャに椅子に座り葉巻を吸うルーデンドルフは言う。


「仕方ない大佐。シュライゼは勝戦一派の一人で我々、参謀の戦略方針が気に入らないのだ」


 ルーデンドルフは葉巻を一口吸う。


「仮にだ。北方軍集団の攻勢作戦を成功させるとすれば、どうする?」


 ルーデンドルフからの問いに彼の右側に座るアルフレットが右手を上げながら立つ。


「ルーデンドルフ閣下、申し上げてよろしいでしょうか?」

「いいぞ。シュナイダー中将」

「ありがとうございます。では、」


 アルフレットは戦時戦略地図の前に立ち説明を始める。


「まず正面からの攻勢を囮とし、敵の注意を引かせます。そして敵の重要拠点に向けて海上から強襲上陸を行います」


 アルフレットは万年筆を持って地図をなぞる。


「もっとも戦略的に重要な上陸地点はここ。協商連合最大の軍港、オース・フィヨルドなら敵の戦闘継続能力を奪い交渉の席に着かせる事が出来ます」


 説明を終え、アルフレットは前を向くとルーデンドルフの隣に立つレルゲンは驚く。


「信じられん!参謀本部が進めている極秘作戦を言い当てるとは!」


 一方のルーデンドルフは逆にアルフレットの洞察力に関心する。


「本当だな。まさに軍神と呼ぶべき才能、いや神より授かりし御業か」


 すると聞いてターニャは飲んでいたコーヒーのコップを近くのテーブルに置き、ルーデンドルフに言う。


「いいえ、ルーデンドルフ大将。中将は現時点の状況を考え、整理した事で導かれた結果です」

「なるほど、流石だな。やはり君達をここに呼んで正解だった」

「ありがとうございます、ルーデンドルフ閣下」


 そう言いながら敬礼をするアルフレット。


 そしてルーデンドルは吸っていた葉巻を隣の机にある灰皿に置き、立ち上がり二人の前に立つ。


「では作戦開始は攻勢開始と同時に行う。またオース・フォルドへの上陸手順はアルフレット、君の好きにして構わん。頼むぞ」

「「ハッ!」」


 アルフレットとターニャはビシッとして敬礼をするのであった。


 そしてルーデンドルフとレルゲンは建物を出て、入り口前に止まっているく黒い車体のベンツ770 W150へ乗り込む。


 すると後を追って来たアルフレットは後部座席の窓から二人に声を掛ける。


「ルーデンドルフ閣下、レルゲン大佐。“彼”の対応はどうしますか?」


 アルフレットの問いにレルゲンが冷たい表情と眼差しで答える。


「“彼”は今後、我らの計画の障害になります。ご丁重に退場させておいて下さい。ただし、荒事は控えて下さい」


 するとアルフレットが顔を覗かせる窓側に腕を組んで座るルーデンドルフも冷たい目線で言う。


「アルフレット、やり方は問わない。“彼”を表舞台から引退させればそれでいい。後片付けは我々でやっておく」

「分かりました。では失礼します」


 そう言うとアルフレットは二人に向かって敬礼をするとベンツ770 W150は走り出すのであった。



 攻勢作戦が開始された昼の軍港、オース・フィヨルド。


 雪が降り積もり穏やかではあるが、肌に刺さる様な冷たい北海の風が吹いていた。


「絶景だな。入り組んだ狭い運河に多くの岬と島々、高い岩壁に守られ設置された砲台で何処からでも狙える」


 眺めながらタバコを一口吸う、協商魔道兵のアンソン・スー大佐。


「いかなる列強の艦隊でもフィヨルドを攻略するのは無理だろう」

「まさに天然の要塞ですね。我々が守備に着くことはなかったのでは?」


 副官のグンナー少佐の問いにスーは軽く溜め息を吐く。


「そうは言っても一応、念には念をしておかないとな」


 フィヨルドが見渡せる高台から下を見ると少し開けた場所で隊列を組んで立つ二十代の若い男性兵士達が指揮官の訓示を聞いていた。


 それを見たスーは不甲斐ない気持ちが沸き起こる。


「もはや我が国は若者に死ねと言っている様な状態とは惨めだな」


 それを聞いたグンナーもスーと同じ気持ちとなる。


「どこも人手不足です。しかも帝国軍の冬季攻勢が始まったそうです」

「上層部も手一杯と言うことか。ならばグンナー少佐、大人の我らが頑張らないとダメだな」


 スーはクルっと後ろを向くと同時にグンナー少佐は笑顔で頷く。


「ええ、そうですね」



 一方、第1装甲軍の海上支援用に海軍で創設された独立第1機動艦隊と独立第3潜水隊群がフィヨルドに向けて北海を北上していた。


 そして第二次大戦中に未完で終戦を迎えたドイツ海軍の航空母艦をアルフレットのアイデアで改修と建造された空母、「グラーフ・ツェッペリン」の作戦会議室に集まった各部隊指揮官がブリーフィングを行っていた。


「現在、陸上では北方軍集団が冬季攻勢を開始中。この隙に我々はフィヨルドへ向けて強襲上陸を行う。作戦名は『嵐の吹雪作戦』だ」


 ホワイトボードの前に立って説明をする軍帽を被った作戦参謀のグレディンは次ぐに作戦会議室の蛍光灯を消し、ホワイトボードに向かって少し離れた場所に置かれた映写機を作動させ、スライドさせながら説明を始める。


「まず第203魔道連隊は湾外の索敵哨戒艇を破壊、そして海軍独立第1艦上航空旅団、コールサイン『ジン』の第3急降下爆撃連隊がフィヨルドの各固定砲台を爆撃、その後は第2戦闘攻撃連隊が敵兵舎や通信及びレーダー塔を破壊し、最後は艦砲射撃で敵守備隊を壊滅させる」


 グレディンは有線式のボタンを海岸の映像からフィヨルド内地の映像に切り替える。


「では次の上陸時の作戦説明を装甲軍副指揮官、アイザック少将に代わる。お願いします」


 するとホワイトボードの左側から軍帽を被ったバルトが現れ、グレディンは彼に使っていた指示棒を受け取る。


「では上陸後の作戦を説明する。第203魔道連隊は上陸部隊を護衛、そして先に戦車大隊が上陸するのと同時に装甲擲弾兵も上陸、お互いをカバーし合いながら敵の鉄道と物資を抑える。なお敵味方関係なく人命救助を優先的に行う。何か質問は?」


 グレディンかの問いに椅子に座って聞いていた帝国兵士達は無言であった。


 その光景にグレディンは軽く頷く。


「では、最後にシュナイダー中将から訓示」


 するとバルトと同じ方向から軍帽を被り、胸元を開いた将校用のM36オーバーコートを着たアルフレットがホワイトボードの前に立つ。


「この作戦は史上初の陸海空との合同作戦となる。作戦開始時間は一時間後だ。軍港を守る協商軍も決死の抵抗をするだろ。だが、この作戦が成功するば北方戦線は決着する。皆!気合を入れろ‼」


 訓示を聞いた帝国兵士達は一斉に立ち上がり、キリッとした姿勢でアルフレットに向けて敬礼をする。


「「「「「「「「「「はっ‼」」」」」」」」」」


 そしてアルフレット、バルト、グレディンも帝国兵士達に向かって敬礼をするのであった。


 ブリーフィングが終わり、皆が作戦会議室を出る時にアルフレットはターニャに声を掛ける。


「ターニャ、今回は上陸時の援護を頼むぞ。それと例の件、頼むぞ」


 ターニャは自信に満ちた笑顔でサムズアップをする。


「ああ、任せておけアル!人命救助をしながら目的の人物は必ず救助する」

「ああ、頼むぞ!」


 そしてアルフレットとターニャは握手をし、その場を離れる。


 一人、外のデッキに出たアルフレットは暗雲が漂い冷たい風が吹く北海を見ながらタバコを吸っていた。


 すると、そこに資料を手にエーリャが歩いて現れる。


「中将、例の“彼”に対する“解雇”の準備が整ったと先程、連絡がありました」


 エーリャからの報告にアルフレットは吸っていたタバコを床に捨て、靴裏で消す。


「分かった、ミュラー少佐。作戦終了と同時に“彼”の“解雇”を言い渡せ、いいな」

「はい!中将殿」


 敬礼をし、エーリャはクルっと回り、その場を立ち去る。そしてアルフレットは右腕の腕時計を見て自分の持ち場へと向かうのであった。



 一方、暗雲で薄暗いフィヨルドの指令の建物にある通信室でスーはソファーに座り通信兵からの報告を聞いていた。


「どういうことだ!哨戒艇からの通信がないとは?」

「先程から呼ぶ掛けていますが、まった繋がる気配がありません!」

「すぐにレーダーを確信するんだ!もしかしたら・・・」


 スーが最後まで言い終えようとした時に外から風を切り裂く甲高いサイレンが鳴り響く。


 スーとグンナーは急いで建物を出て空を見ると十機の艦上用に改修されたユンカースJu87 C-2 スツーカが砲台目掛けて急降下していた。


 砲台を守備していた協商兵達は持っていた小銃、M1912カービンを上空に向けて射撃する。


 だが、スツーカの前では小銃の6.5mm弾薬は豆鉄砲で撃墜する事は不可能であった。


「ヨーソロー!ヨーソロー!よーーーいっ!投下ぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 完全装備のスツーカの男性パイロットは左にある赤いレバーを前に押すと胴体下部に搭載された200kgキロ爆弾と左右の主翼に搭載された二発の150kgキロを投下する。


 投下した三発の航空用爆弾の攻撃で砲台は爆発し、他の砲台も次々とスツーカによって爆撃される。


「帝国軍の爆撃機だと⁉だが、いくら近い空軍基地でもここまでの距離は・・・」

「大佐!スー大佐‼それよりも迎撃しないと!急いで部隊を上げるんだ‼」


 グンナーは振り返り走り出すが、スーはただ一人、空を見上げていた。


「なぜ砲台を爆撃するんだ?」


 スーが疑問に耽っている一方で砲台の爆撃をしたスツーカ隊が戻ると入れ替わる様に艦上用に改修されたメッサーシュミットBf109T2が軽空母、四隻から飛び立つ。


 そして十機のBf109T2は主翼の左右に合わせて二十発のR4M-A2ロケット弾 オルカンを三つの少し高い高台にある通信及びレーダー塔と鉄道近くに建てられた兵舎を攻撃、壊滅させる。


 緊急出動したスー率いる三個航空魔道連隊が沖合に向け、編隊を組んで飛ぶ。


「大佐!レーダー及び通信塔が敵、航空機により破壊!後方司令部との通信が出来ません‼」


 グンナーからの報告にスーは少し悔しい表情をする。


「くそ!とにかく邀撃ようげきだ!出来る限り敵機を堕とすぞ‼」


 スーが指示をした瞬間、高速で擦れ違う様にターニャ率いる第203航空魔道連隊が飛んで来る。


 さらに一瞬でターニャの姿を見たスーは驚愕し、その場で静止し振り向く。


「神よ!・・・なぜですか!・・なぜ!・・なぜ!奴がここに!」

「ス!スー大佐!あ、あれを‼」


 グンナーの声にスーはハッとなり前を向くと沖合には帝国海軍独立第1機動艦隊が堂々とフィヨルドへ前進していた。


「伝令!現在!フィヨルドは敵の奇襲に遭い壊滅的打撃を受けている‼我々、守備隊はこれを支援する!よって・・・」


 すると蒸気機関車に引っ張られた貨物列車内で伝令していた協商軍の守備隊達と守備隊員達が砲撃を受けバラバラに吹っ飛ぶ。


 フィヨルドの近くに止まった独立第1機動艦隊に所属するアルフレットのアイデアで建造されたドイツ海軍のM2型級軽巡洋艦、ドイッチュラントII世級重巡洋艦、Z46/2型級駆逐艦、グラーフ・シャルンホルスト級巡洋戦艦、ビスマルクⅡ世級高速戦艦、合わせて二十隻近くがフィヨルドに向けて砲撃していた。


 その光景にスーは言葉を失い、全てを悟る。だが、娘のメアリーからクリスマスプレゼントで貰ったSIG MKMSに刻まれた自分の頭文字イニシャルを見て覚悟を決める。


「グンナー少佐!これは帝国軍の上陸作戦だ‼君は二個連隊を引き連れて上陸を阻止しろ‼残りの連隊は俺に付いて来い!」


 スーの指示にグンナーは頷き二手に分かれる。同じ様にスーが分かれた事を見たターニャも命令をする。


「ヴァイス中佐!お前達は上陸部隊を支援だ!我々は残りの敵魔道兵を迎え撃つ!」


 それを聞いたヴァイスは驚く。


「大佐!一個連隊相手に一個大隊は無謀です‼」

「こちらはこちらで何とかする‼お前達は早く上陸部隊を援護しろ‼上陸部隊が襲撃された作戦は失敗する!」

「りょ!了解です!各大隊‼我に続け!」


 ヴァイス達がターニャ率いる第1航空魔道大隊から離れるとターニャは銃剣を着けたワルサーGew43A2とStG44A2、MP40/Ⅲを構える。


「さてと。第1大隊!迎え撃つぞ‼」


 ターニャの指示にセレブリャコーフを含めた全大隊員も銃剣を着けたワルサーGew43A2とStG44A2、MP40/Ⅲを構える。


「「「「「「「「「「ハッ‼」」」」」」」」」」



 ターニャ率いる一個大隊とスー率いる一個連隊と激しい空中戦を繰り広げていた。


「頭を押さえろ!」

「頭を押さえられるな!」


 航空魔道兵の戦いにおいて先頭を押さえられる事は空中機動を封じる唯一の手段なのである。


 ターニャとスーはそれを理解している為、必死の攻防が行われていた。


 一方のグンナー率いる二個連隊はフィヨルドに向かう帝国軍の大規模のピラボMk.Ⅱ級小型上陸用舟艇、MFP-A2級中型上陸用舟艇、MEP-D2級大型上陸用舟艇、MEP-D3級戦車揚陸艦の部隊からの対空迎撃に苦戦していた。


「くそ!敵上陸部隊の迎撃能力が高過ぎます!グンナー少佐‼」


 一人の協商魔道兵からの問いにグンナーは険しい表情をする。


「帝国軍の対空技術がここまで高いとは‼」

「グンナー少佐!大変です!スー大佐率いる一個連隊が敵魔道大隊に押されています‼」


 協商魔道兵からの報告にグンナーは驚愕する。


「そんなバカな⁉仕方ない!引き返してスー大佐を援護するぞ‼」

「しかし!上陸部隊は‼」

「今は仕方ない!戻るぞぉーーーっ!」


 グンナーの指示に従い、二個連隊は急いで引き返すが、途中でヴァイス中佐率いる二個大隊と遭遇する。


「各員!向かて来る敵二個連隊を押さえろ!後方の敵連隊と合流させるな‼」

「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」


 ヴァイスからの指示に隊員全員は銃剣を着けたワルサーGew43A2とStG44A2、MP40/Ⅲを構え応戦を始める。


 ヴァイスの部隊とグンナーの部隊は激しい空中戦でグンナーは何とか数十人を引き連れて突破する。


「ヴァイス中佐!何人か抜けられました!」


 グランツからの報告にヴァイスは見向きもしていなかった。


「構うな!今は残った敵魔道兵に集中するんだ‼」


 ヴァイスはそう言うと応戦を続けるのであった。


 包囲網も突破したグンナーは何とか交戦中のスーと合流するが、スーはそれに驚く。


「グンナー少佐!なぜ戻って来た!」

「すみません!大佐‼敵上陸部隊の対空防御が固く、近づく事が出来ず!それにこちらが押されていると聞いて・・っ‼」


 グンナーは首を被弾し爆発、墜落する。


「グンナー少佐ぁーーーーーーーーーーーーっ‼」


 スーは叫びながら降下するが、墜落したグンナーは瞬く間にフィヨルドの冷たい海中へ沈む。


 スーは言葉を失い辺りを見渡すと爆撃と砲撃でフィヨルドは壊滅状態で、しかも海面には同僚の魔道兵達の死体が浮かんでいた。


 だが、スーは再び覚悟を決めSIG MKMSの銃口先に銃剣を着ける。


「まだだ!まだ!終わっていない‼」


 そしてスーは銃を構え、自分より高い高度で静止するターニャに向かって突っ込む。


 スーの気配を感じたターニャは振り向き、溜め息を吐く。


「狂信者的な愛国者が。無視してもいいが、キャリアに汚点が付くしなぁ」


 ターニャも覚悟を決め、改良が施されたエレニウム九五式の出力を上げる。


「主よ!どうか、我と我が祖国を守りたまえ!」

「主よ!どうか、あの悪魔を打ち滅ぼす力を我に与えたえまえ!」


 ターニャも向かって来るスーに向かってワルサーGew43A2を構え、降下する。


 そしてスーは怒りに満ちた表情で向かって来るターニャに向けてSIG MKMSを乱射する。


「汝よ!何故!我が祖国を打ち滅ぼす事を望むかぁーーーーーーーーっ‼」


 スーが叫びながらあらゆる記憶が走馬灯の様に見えた瞬間、防御法術が破れたと同時に腹部を貫かれる。


 スーを突き刺したターニャは口から血を流し苦しむ彼の顔を見てターニャはハッとする。


「お前は確か・・・・」


 少し考えたターニャであったが、スーを思い出す事は出来なかった。


「まあ、いいっか」


 そう言うとターニャはスーが持っていたSIG MKMSを奪い取り、蹴り飛ばす様にスーを堕とす。


「メ・・・メアリー・・・」


 ターニャを見ながら薄れ行く意識の中でスーは家族、特に娘のメアリーを想いながら海中へと没した。


 それを見たターニャはフッと鼻で鳴らすとセレブリャコーフからの報告が入る。


「デグレチャフ大佐!作戦は成功です!上陸部隊が無事にフィヨルドへ入りました!」


 それを聞いたターニャは笑顔になる。


「よし!全隊員へ戦闘停止!これより敵兵及び友軍の救助活動を行うぞ!」


 ターニャからの命令を聞いた皆は返事をし救助活動を始めるのであった。


 一方、参謀本部のとある一室でルーデンドルフ、ゼートゥーア、レルゲンはソファーに座り、一人の通信兵からフィヨルドへの上陸作戦の報告を聞いていた。


「分かった、ご苦労だった。下がってよろしい」

「ハッ!失礼します」


 ゼートゥーアの命で通信兵は敬礼をし、部屋を後にする。


「信じられません!作戦開始から三十分しか経っていないのに!」

「無理もないレルゲン。指揮官は、あのアルフレットだ」


 そう言いながらルーデンドルフは葉巻を取り出し火を点ける。


「だが、しかし陸海空を全ての戦力を使っての強襲上陸とは。まさにタコ殴りだな」


 ゼートゥーアは腕を組んでテーブルに広げられた戦略地図を見ながら言う。


「結果としては新たな戦術の効果と協商連合国の戦争継続能力を奪う事が出来た。これで北方戦線は終結っと言う事だな」


 そう言いながらルーデンドルフは吸っている葉巻を戦略地図に書かれたフィヨルドに押し付けるのであった。



あとがき

夏の季節がもうすぐですね。皆さんはこの夏、どのように過ごしますか?

メル・ギブソンが監督を務めた第二次大戦末期に実在した米軍衛生兵、「デズモンド・T・ドス」が体験した沖縄戦の一つ「前田高地の戦い」を描いた『ハクソー・リッジ』は主人公の良心と残虐な戦闘シーンが上手く合わさった戦争映画です。是非、観て下さい。

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