033:残る遺恨
033:残る遺恨
オジキが本宮会に求めた2つ目の事は、兵庫県に百鬼会系列の組織を発足させて欲しいというものだった。
これを認めるという事は、百鬼会が確実に兵庫県に進出して後々に本宮会と抗争になった時に、そこが最前線の基地になりかねないのである。
その為、兵庫県内に百鬼会の事務所を置かせたく無いというのが本宮会の気持ちで、井口副会長は冷や汗ダラダラで会長の有無を固唾を飲んで待っている。
『それを狙うとったね? さすがは天下の百鬼会で、若頭補佐をやっとるだけはあるなぁ………事務所を置きたいにしたかて、どこの街に置くつもりなんですの?』
本宮会長はオジキの要求してきた事に、さすがは百鬼会の若頭補佐だと笑いながら言って、スーッと息を吸ってから真顔になって、どこに事務所を置きたいのかと威圧感丸出しで聞いてくる。
「逆質問になって申し訳ないが、どこなら本宮会長は許可してくれるんですかね?」
『中々に足元を見てくるとちゃうですか。それじゃあ姫路市なんて、どうやろか?』
「ちょ ちょっと待ってくれてや!! 会長、姫路市に他組織が事務所を構えるなんてありえまへん!!」
どこなら逆に許してくれるのかとオジキは会長に聞くと、本宮会長は痛いところを突いてくると笑う。
そして本宮会長が提案した場所は姫路市だった。
オジキやオヤジに兄貴たちの眉がピクッと動く。
それと同時に井口副会長も地面に正座をしていたところから立ち上がって、本宮会長に姫路市を許可するのは無理があると抗議した。
「今回の事は姫路市に百鬼会系組織の事務所を構えるという事で手打ちしよう。ただし、約束を違えた場合は百鬼会総出で本宮会を潰そう」
『あぁ男として約束しよう。これで今回の不義理についてはチャラにしてもらいたい』
オジキは姫路市にて百鬼会事務所を構える事で、今回の不義理については忘れる事に決まった。
「それじゃあ手打ち式に関しては、4日後に《旅館・夏月亭》で行なう事にしよう。しかし仲介人に関しては、どうしたものか」
『ほったらうちの知り合いで、自民党の〈南斎 虎助〉代議士が徳島におる。その南斎に頼もう思とる』
「それは良いですね。その人に頼んで手打ち式としましょう」
これで手打ち式の手筈が整った。
井口副会長は何とも言えない表情をしているが、これで戦後稀に見る地獄のような抗争は始まる前に終わる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
兄貴たちが県警に行っている間、俺が任されたのは百鬼会のお目付役である。せっかく有利に進んでいるにも関わらず、ここで筋違いのような事をしまっては元も子もないからである。
「雅也若頭。復讐した気持ちは分かりますけど、どうか気持ちを教えてもらえますか?」
「本家の若頭補佐たちが、我々の為に徳島まで来てもろうたんやけん我慢するでよ。それにしても和解と言うても、どんな風になるんだろうか」
「兄貴もオヤジもオジキも凄腕の極道ですからね。何の心配もいらないと思いますよ」
2代目松竜組の若頭〈新谷 雅也〉は、苗字からして組長の実子のように思われるが、雅也若頭は組長に迎えられた養子で本名は〈小日向 雅也〉である。
23歳の若さで若頭に任命されるほどのキレ者で、組長が雅也若頭を養子に迎えたのは6歳の時だ。その時から雅也若頭は本当の父親だと思って慕ってきた。
そんな雅也若頭にとって新谷組長は、本当の父親以上の存在で怒りも計り知れないだろう。
しかし雅也若頭は尊敬できる人だ。
本当ならば返しをして、ハジいた人間をブチ殺してやりたいところだろうが、百鬼会の事を考えて若い衆を抑え我慢してくれている。
「頭っ!! 病院から電話が来ました!!」
「なんやと!? 病院からはなんて?」
「オヤジの意識が戻ったみたいです!! 直ぐに病院に来て欲しいとの事で!!」
「分かった!! 直ぐに病院に行くぞ。外に車を回して来い!!」
幸いの事に意識が戻ったらしく、直ぐに病院に来て欲しいと電話がかかってきたみたいだ。
さっきまで落ち着いていた雅也若頭ではあるが、新谷組長が目を覚ましたと聞いて動揺を隠せなくなっているのである。そりゃあオヤジが目を覚ましたのだから当たり前だが、落ち着いている人が組織の為に心配していた姿を見ると人情を感じる。
そんな事を思っていると車が事務所の前に来たので、病院に向かうらしいが俺も着いていって良いかと聞いたところ、問題ないですと言って車に乗り込む。
「新谷組長が目を覚まして良かったですね。これは会長にも伝えなきゃいけないな」
「オヤジの心配をしていただきありがとうがーす。けんど、まだ目ぇ覚ましただけで危ない状況に変わり無いと思います」
「そ そうですよね。無神経な発言してしまって申し訳ありません」
「あっ! いやそういう事で言うたんやないけん、そんなに落ち込まいで下さい!!」
そんな風に車内で喋っていると、病院に到着して病室に行くと目は開いているが、明らかに無事とは言い難い新谷組長がいたのである。
雅也若頭は駆け寄ると涙を流しながら「良かった……本当に良かった」と呟く。
そんな姿を見ると任侠とは、こうであるべきだとなのでは無いかと感じる。
見入っていたが俺はハッとして、同じく付き添いに来ている和馬に「兄貴に電話して伝えろ」という。
「喋らいでええけんな!! オヤジの為に、本家の人たちが大勢で徳島にきてくれたんじょ!!」
「兄貴が動いてくれたのか………」
「そうじょ!! 登吉会長が、激怒したみたいで100人超えの百鬼会組員がおるんじょ!!」
目は覚ましたみたいだが喋るのは、当たり前だが無理である。無理に喋らせれば容態が変わってもおかしくは無いからだが、それでも今の状況を伝えたかった。
すると病室に担当の医師がやってきて「新谷さんの知り合いですか?」と聞いてきて、どうやら組長について話したい事があるらしい。
「意識は戻ったけんど、油断はできん状況です。何よりも頭を打って頭にできた傷の影響で、半身不随になっとる事がわかりました………自力で歩くは無理でしょう」
「は? じょ 冗談やよね? そうやとしてもリハビリをしたら元にもど………」
「いえ!! その希望は絶望的でしょう………」
雅也若頭からしたら絶望的な言葉だった。
このまま車椅子生活になれば、事実上の極道引退だ。
もちろん車椅子になってもヤクザを続けている組長はいないわけじゃないが、新谷組長の性格を考えれば身を引くだろうと予想ができる。
それを聞いて雅也若頭は、ドサッと地面に両膝をついて青ざめた顔をしているのである。
「若頭、とりあえず新谷組長のところに行きましょう」
「………あぁ」
「ちょっと電話かけてくるんで失礼します………おい。雅也若頭から目を離すんじゃねぇぞ」
「は はい!! 了解しました!!」
俺は地べたに座っていても埒が明かないので、とりあえずは新谷組長の病室の椅子に座らせる。
そして今の話を伝える為に電話をかけにいくのだが、このままでは危険だと思って宮木舎弟頭に、目を離さないように言ってから電話をかけに行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます