030:交錯し合う
030:交錯し合う
本宮会の井口副会長は、百鬼会110人以上がいるところにいては危険だと兄貴が言ったので、別室を用意して移動してもらう事になった。
その前に本宮会が、今回の事で思っている事をある程度知れたので兄貴は満足している。
どうやら若い衆が勝手にやった事で、本家である本宮会は関係ないのだろうと予想ができるが、そんなわけにもいかないので考えなければいけない。
「兄貴、やっぱり本宮会は関係ありませんでしたね」
「まぁ関係あれへん事はないんやろうけど、そやかて本宮会に罪を問うんは少し筋が違うてくるかもな。それよりも俺が考えとった事が現実味を帯びてきたで」
「え? 兄貴が考えてた事が現実味を帯びてきたって、どういう事なんですか? 何か兄貴は、この抗争に思うところがあるんですか?」
「花菱も思えへんかったか? そらあ栗原組と2代目松竜組は戦後から小競り合いをしてるってのは聞いてるけど、なんぼなんでも手打ちした後に襲う思うか?」
今回の抗争で兄貴は、表面的な事実だけではなく本質を最初から考えていたのである。
どういう事なのかと俺が聞いたところ、兄貴は2つの組織の関係を整理した後に「いくら揉めてたとしても手打ちして直ぐに襲うか?」と言ってきた。
確かに言われてみれば俺も理解できる。
せめて手を出すにしても手打ちをしてから何年間かの間を開けてやるだろう。しかし今回は手打ちした後の帰り道で襲われているのだ。
つまりは襲撃したメンバーの後ろに、誰かいて絵を描いてるのでは無いかと四舎連盟の岡田たちと同じ結論に至ったのである。
「そういう事ですか!! 誰かが栗原組の若い奴を誑かして襲撃させたって事っすね!!」
「その可能性があるって話や。もちろん若い衆があほで手打ちの意味を理解してへんかったっちゅう線ものうはあれへんけど………それにしては手際が良かった」
「確かに言われてみれば、帰宅中の無防備なところを的確に狙うやんてアホがやれる事じゃない………そうなって来ると兄貴が言ったように、裏で絵を描いてる奴がいる説が濃厚になってきましたね!!」
兄貴の説明を聞いてみて、栗原組の後ろに誰かいた事が現実味増してきて興奮している。
何に興奮しているのかというと、こんな事を1人で思いついているような兄貴に興奮しているのだ。
とてもじゃないが俺なんかでは、何百年考えても至る事ができないくらいの頭脳派だろう。それに喧嘩してるところは見た事はないが、決して弱いわけじゃないという事を踏まえると最強なのでは無いかと思う。
「オヤジ、ちょっと良いですか? 大阪に残ってる奴らから連絡がありまして………」
「ん? 大鈴か……大阪から連絡? まだフェリーが出発して間もないんだぞ? 何があったんだよ」
「それは実は奈良県で小競り合いの処理している時に、俠泉会の人間と揉め事を起こしまして………手を出して良いかという連絡みたいです」
「なんだ、そんな事かよ。俠泉会は圧倒的に百鬼会の敵なんだから気にせず、ボコボコにしてやれよ」
「了解しました。それじゃあ伝えておきますんで、失礼しました!!」
フェリーが出発して、まだ数十分しか経っていないのに大阪にいる奴らから連絡が来たらしい。
その内容は奈良県の揉め事を処理している時、俠泉会の人間たちと喧嘩になったが、組織の事を考えて深追いはしなかったらしいのである。
そんな事を聞かされて俺は、俠泉会は何があっても百鬼会の敵なんだから潰して良いと許可を出す。
「なんや、大阪でなんかあったんか?」
「はい。奈良で俠泉会の人間たちと、ぶつかったらしく返しをして良いかという事でした」
「そういう事か。向こうだって北見の事で、手一杯やねんから構うてる暇あれへんはずなんやけどな」
「それも気になるところなんですが、俺が気になったところは………どうして奈良にいるんですかね?」
何かあったのかと兄貴は聞いてきたので、俠泉会と揉め事になったという話をした。
今は北見の事で手一杯のはずなのに、揉め事を起こせるなんて余裕があるなと兄貴はいう。そこも気になるところではあるのだが、俺が最も気になっている事は奈良県に何で俠泉会がいたのかだ。
奈良県には俠泉会系の組織なんて無いので、明らかに俠泉会がいるのはおかしいのである。
「花菱。自分はやっぱ頭ええな!! 腕っぷしもあって頭もええと来たもんや。俺たちなんかよりも出世するかも分かれへんな」
「そんな事ありませんよ!! 兄貴と比べたら、俺なんて有象無象ですよ!!」
兄貴も良いところに目をつけていると褒めてくれて、だんだんと俺もヤクザになってきたんだなと思った。
とにかくアイツらに任せられるので、今は徳島の件に集中しようとパンパンッと頬を叩く。
そのまま2時間船に揺られると、徳島県の小松島港に到着するのである。
「よしっ!! お前ら若い衆は、安いホテルを用意してあるから移動しろ。幹部連中は旅館に移動して、これからの事について話し合うぞ」
徳島に到着したところで、若い衆は安いホテルに幹部連中は高い旅館に移動する。
港に到着するなり徳島県警が待機していたので、そこまで大きな動きができない。だからこそ予約している旅館に移動して話し合いが行なわれる。
県警と府警は互いに協力して、百鬼会と本宮会の抗争を防ごうと行動している。
そんな警察の動きも警戒しながら山﨑のオジキは、今回の騒動の張本人である2代目松竜組の〈新谷 雅也〉若頭が旅館を訪れた。
「わざわざオヤジの為に、徳島まで足を運んでいただき感謝します。張本人であるオヤジは、まだ病院にて入院中やけん、今回はうちが名代を務めさしていただきますけん、よろしゅうお願いします」
「そんな畏まらなくても良いわ。それで新谷組長の容態は、どんな状況なんだ?」
「はい。ごっつい危険な状況で、まだ意識も戻らんのです。それに撃たれ倒れた時に頭をぶつけたらしいんけんど、手術をしとうても脳が腫れとるとかで………意識が戻る確率も半々らしいんですわ」
何とも言えないような状況なのだろう。
これで死んだりでもしたら、登吉会長は本格的に徳島県は血の海になりかねない。
そして本格的に神戸の本宮会とも抗争になり、日本を大きく巻き込んでの大抗争になるかもしれない。
「こうなったら、裏で絵ぇ描いてる人間が巧妙に手ぇ回してるんやと分かるな………こんな事をして得する人間なんて、俺たちを嫌うてる人間しかおれへん」
「やっぱり裏で絵を描いてる奴がいるんですね。それにしたって、どこの誰だか分からない人間の筋書き通り動かされてるって思ったら………とてもじゃ無いですけどイラッとしてきますね」
「そういわんといてや。術中にハマってる人間が、何言うたところで負け惜しみに過ぎへん………こっから挽回していく必要があるな」
どうやら兄貴は裏で絵を描いている人間の存在を、確信したらしくやられたなと実感したらしい。
それを聞いて俺も悔しいと思いながら、ここから挽回していく必要があると兄貴は言った。
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