024:高級焼肉

024:高級焼肉

 俺たちは香取金融を後にして手に入れた金を兄貴に渡す為、誠明会の事務所に再度足を運ぶのである。

 小野と青坂たちを車の中に待機させて、俺は誠明会事務所内にノックをして入る。



「おっ? もう香取金融の事は終わったんか?」


「はい。相当なクズだったんで、金を奪った後に殺しちまいましたよ。今は掃除屋が跡形もなく片付けてます」


「罪のあれへんカタギさんから金を奪うた挙句、追い込んで自殺さすなんてカス以下の人間やさかいな」


「兄貴の言う通りですよ。このまま放置して、また罪のないカタギさんに被害が出るのが怖かったんすよ」


「ほんまに花菱は、心優しい奴やんな。ヤクザに向いてへんのちゃうんか?」


 

 これからのカタギさんの事を考えて香取社長を殺しておいたと兄貴に言うと、さすがだと褒めてくれない。

 そんな事を言われて俺は頭を掻きながら照れる。

 そしたら兄貴は、俺が心優しいからヤクザに向いてないんじゃないかとジョークを言った。それに対して「優しかったら、ヤクザになってません」と返して、俺と兄貴は2人で笑うのである。



「それで回収した金は? 一応カタギさんに返さなあかんからな」


「あっそれならこれです。けっこう溜め込んでたみたいで、今は香取金融の若いやつ捕まえて銀行にも預けてないかを確認してるところです」


「そうか。アイツが取られたって金額は、これだけやさかい………残りは花菱が持ってけ。若い奴に美味いもんでも食べさせたれ」


「良いんすか? それじゃあ遠慮なくもらいます。この後にでも焼肉奢って来ますわ」



 兄貴に香取金融から奪ってきた金を渡すが、兄貴はカタギの友人が取られた分だけを取ると、俺の方に金をスッと持っていってやると言ってくれた。

 この金で美味いもんでも食べさせてやれと言われたので、普段だったら食えないような高級な焼肉屋に連れていってやるかと懐にしまう。

 この金と交換というわけではないかと、俺は前置きを置いてから兄貴の机にファイルを置いた。



「ただただ金を貰うのは気が引けるんで、兄貴にファイルを渡しておきますね」


「ファイル? まさか顧客名簿か!!」


「そうです。誰がナンボ借りたのかとか、どれだけ返しているのかについての書類です」


「さすがは花菱やな、ええとこに着目してんで。普通やったら金をとって終わりやけど、顧客名簿にも目ぇつけるとはなぁ」



 ファイルの中身が顧客名簿だと分かると、焦ってファイルの中身を確認すると、兄貴は立ち上がって俺の肩をポンッと叩いて褒めてくれたのである。

 さすがは兄貴と言ったところで、この顧客名簿の価値をキチンと理解している事に感服だ。



「それじゃあ俺は、若い衆と一緒に高い肉を食いにいくので失礼します!! 兄貴も旗揚げ大変かもしれませんが、何かあったら声かけて下さい」


「おうっ!! その時は頼るから頼む。美味い飯を食べて仲を深めて来んかい!!」



 俺は兄貴に挨拶してから事務所を後にして、小野たちが待っている車に乗り込む。

 そして兄貴から金を貰った事を話して、これから高い焼肉を食いにいくというと想定していたよりも盛り上がって、俺も大笑いするのである。

 そして俺たちは盛り上がったまま、百鬼会が行きつけの高級焼肉屋に足を運んだ。

 俺だけが未成年ではあるが、店主の計らいでビールを提供してくれて全員で乾杯して、早速肉を焼き大宴会がスタートするのである。



「あんなカス野郎は中々、半グレにもいませんよ? オヤジが殺したから被害者が助かりましたね!!」


「そうか? そうとも限らないと思うぞ」


「そういやあオヤジ。あのファイルって何か価値あるんですか? ファイルファイルって探いてましたけど」



 俺がビールを飲み干したところで、色々と俺が凄かった事についての話で盛り上がるが、隅田がファイルを持ってきた意味はあるのかと聞いてきた。

 それを聞いて俺は思わず「はぁ〜」と溜息を吐いた。

 すると隅田はマズイ事を聞いたかと、ドキッと言葉を失っているので、俺は顧客名簿の価値について分かりやすく説明するのである。



「良いか? あの顧客名簿っていうのは、どこの誰が何円借りたのか、それと返した額も書いてあるな?」


「はい……あっ!! つまり後どれだけ搾り取れるかが分かるって事ですね!!」


「まぁ簡単に言えば、そういう事だな。あの顧客名簿を別の闇金融に持っていけば高く買い取ってくれる。香取金融から奪った金なんて目じゃないくらいに、多額の金が兄貴のところに入るんだよ」



 顧客名簿の大切さに気がついた若い衆たちは「顧客名簿バンザイっ!!」と言って楽しい飲み会を再開する。

 楽しく飲み始めて1時間が経ったくらいで、個室の扉が開いて山崎のオジキが入ってきた。



「おいっ!! ここは使ってんだよっ!! 他んところに行けや」


「お おいっ!! 失礼だろうが!!」



 山﨑のオヤジを知らない青坂たちは、ただのジジイだと思ったので暴言吐いて出ていけという。

 そんな行為を間近で見ている俺は、完璧に殺されると思って青ざめながら止めるのである。



「花菱よ。若い衆の教育がなってないんじゃないか?」


「すみませんでした!! お前たち、この人は本家の頭補佐をやっている〈山﨑 悠一〉のオジキだ!!」


『お お疲れ様です!!!!』



 山崎のオジキは、ドスの効いた声で若い衆の教育がなってないんじゃ無いかと指摘を受け、俺は全力で頭を下げながらオジキの事を紹介した。

 すると青坂たちも事の重要さに気がついて、顔を青ざめさせながら立ち上がって頭を下げるのである。

 どんな事をされるのかと警戒していたが、オジキは笑いながら「冗談だ」と言って許してくれた。



「座れ座れ!! 用があるのは花菱だけだからな」


「それじゃあオジキ、あっちに席を作らせるんで良いすか?」


「おぉ特上肉も頼むぞ」


「はいっ!!」



 どうやら俺に用があるらしく、2人で話したいからと俺は別の席を用意して移動するのだが、山崎のオジキは若い衆たちに食べ進めるように言って立ち去る。

 席と特上肉を用意して俺とオジキは同じ席に座る。

 俺とオジキの関係性は薄いと思われがちだが、オヤジとオジキは五分の兄弟分で、最近になって同じ若頭補佐で互いの事務所に入り浸るようになった。

 その為、俺はオジキと会っては絡まれるというのを繰り返して親密になっていた。



「それでオジキ、用ってのは何なんですか? わざわざ来てくださるなんて」


「そうだった、そうだった。今日、香取金融ってところを襲ったんだって?」


「はい、そうですけど………何か問題ありました!?」


「いや、それは良いんだけどよ。あの香取金融ってのは市拳組の傘下組織がケツモチらしいんだ」


「市拳組って、元々山泉組の若頭だった奴ですよね」



 香取金融のケツモチが市拳組の傘下組織だった。

 市拳組は分裂騒動の中で、俠泉会に入った人間の1人として因縁がある組織だ。

 そんな因縁がある奴が関係しているとなると、面倒くさそうなのが目に見えているので、俺は詳しい話を聞く前に溜息を吐くのである。



「何かを悟ったみたいだな。その通りだと言っておこうじゃねぇか」


「ですよね。何か報復してくるかもしれないって事ですね? まぁ来たとしても返り討ちにしますけど………」


「どうやら色々と画策してるらしいからな。何かあった時には、ケチョンケチョンしてやれって話だ」


「良いんですか!? 本部の決定とか色々あるような気がするんですけど………」


「本部も俠泉会を見逃すわけにはいかないからな。ぶつかってきたら、徹底的に潰してやれ!!」



 山﨑のオジキから市拳組が、攻めてきた時に潰して良いと許可をもらったのである。

 そんな重い話は終わりにして、俺とオジキでのサシ飲みが日にちが変わるまで行われた。

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