023:世のため人のため

023:世のため人のため

 俺は小野の運転で金貸屋のところに向かう。

 その車内で最近になって加入したばかりの半グレ集団のリーダーたちと、親睦を深める為に会話をする。



「どうだ? 華龍會には慣れたか?」


「はい。半グレやってた時よりも締め付けが、緩くなったので伸び伸びやれています」



 新しく入った半グレ集団のリーダーは《青坂一家:青坂 努》《2代目ハンソングループ:隅田 健一》《アトラス:菅 真紅》《エンジェルナイツ:大鈴 賢将》の4人であり、4人とも武闘派の人間である。



「伸び伸びやってるって薬とかに手を出してるわけじゃ無いだろうな? そんな事したら1発で破門からの追い込みかけて解散させるからな」


「そんな事はしませんよ!! それに半グレやってる時よりも金が入ってきて、そんな風に薬に手を出すような人間はいなくなりましたよ」



 4人の中でもリーダー的な人間が生まれて、それはエンジェルナイツの大鈴である。

 確かに見た目は悪いし薬やら売春やらで、金を稼いでいるが華龍會に加入して、薬物売買からは足を洗った。



「って言うか、率直な疑問なんだけどよ。年下の人間に威張られるのって、半グレやってた奴からしたら嫌なんじゃないのか?」


「何言ってんすか。俺たちは、今更になって年下だからって文句垂れるようなガキじゃないっすよ」


「そうでっせ。犯罪に手ぇ染めるしか脳のあれへん俺たちを、オヤジは拾うてくれたんですから感謝こそあれど、年下やさかいって文句は垂れまへんよ!!」


「2人の言う通りですわ!! 俺たちが半グレのままだったら、どっかで殺されたり死んどったりしてもおかしゅうはあらせんで、拾ってくれて感謝です」


「そうかそうか、お前たちの気持ちは良く分かった。お前たちなら百鬼会の日本統一にも大いに貢献してくれるだろうな」



 4人とも俺の事を尊敬してくれているみたいで、何だか恥ずかしいが嬉しく思うのである。

 そんな話をしているうちに、例の金貸屋があるビルの前まで到着する。それは明らかに百鬼会のシマ内で、ここで闇金をやるなんて話にならない。



「完全に百鬼会のシマ内で舐めた真似してるな。小野、ここが俠泉会の傘下組織がケツモチしてるって裏取れてるんだよな?」


「はい。そこまで座布団は高く無いですが、俠泉会の傘下であるのは確認できてます」


「それじゃあ早速だけど、ご挨拶に行くとするか。こっちの布陣は、完璧な武闘派ばっかりだしな」



 今日のメンバーは明らかに武闘派ばかりを集めているので、喧嘩になったところでそんじょそこらの奴らには負けないメンバーたちである。

 俺たちは6人でゾロゾロとビルの階段を登って、3回のテナントの扉に《香取金融》と書かれているのを確認して、俺は扉を蹴り開ける。



「どうもっ!! 失礼しますよぉ。動かないで貰っても良いか? 間違って殺したら申し訳ないからな」


「自分ら誰や!! カタギに手ぇ出すんか!!」


「カタギって言ってる時点で、俺たちが誰なのか知ってるじゃねぇか………っていうか、どの口でカタギなんて言ってんだ? 散々カタギの皆さんから金をむしり取っては、自殺にまで追い組む奴がカタギか?」



 俺たちが入ってきて驚きビクッとした。

 そしてさらには自分たちの事をカタギなんて言い出したので、思わず俺は笑ってしまった。

 善良な国民から金を根こそぎ奪って、自殺にまで追い込むような人間たちがカタギなわけがねぇと怒鳴る。



「ちなみに言っておくと、返さないなんて言ってないからな………ほれっ最初に借りた元金の60万に、色をつけて100万だ。これで十分だろ?」



 俺は兄貴から受け取っていた金の100万を手打ち金として渡したのである。

 それを社長の香取は手に取って机に、バンッと叩きつけて、ギロッと俺の事を睨んだ。



「なんや、この端金は? アイツからは、この金以上を吸い取れるんやで。それ、こんな端金で許してくれへんなんて通る思てんのか?」


「お前、オヤジさんに向かって!!」


「まぁ小野、落ち着けって………んー、それじゃあ許してもらうには、どうしたら良いんだ?」


「自分らのトップが土下座をして、俺のとこに1億持ってきたら許したるで」


「おまっ……本気で言ってんのか?」



 香取社長が要求してきたのは、1億円にプラスしてオヤジの土下座での謝罪だった。

 その場にいた俺以外の奴らは怒る者や顔が青ざめている者と2択だったが、俺に限っては面白すぎて「あっはっはっはっ!!」と笑ってしまった。

 一通り笑い終わったところで、腰からピストルを抜いて香取社長の肩を撃ち抜いた。

 すると香取社長は椅子から落ちて地面を転がり回って痛がっているのである。そして社長が撃たれたと分かって若い衆たちが事務所から逃げていく。



「はぁ……隅田、青坂っ!! 逃げたやつ捕まえろ」


『はいっ!!!!』


「カタギの前でチャカなんて使うなよ」


『うっす!!!!』



 隅田と青坂に逃げた若い奴らを捕まえてくるように言って走らせるのである。

 そして微妙な空気感で、香取社長の荒い息遣いだけが事務所内に響いている。



「俺はさ、つまらないジョークが嫌いなんだ。そのジョークのオチは何?」


「お 俺にチャカなんて向けて、ただで済む思てんのか!!」


「それはこっちのセリフだわ。とにかくテメェは、この状況の収集を、どうやってつけるんだ?」



 なにやら香取の態度がデカいから、もう1発撃ち込んだ方が良いのだろうか。

 だが香取は身震いで、歯がカチカチとぶつかる音が聞こえてきている。強がっているだけで、コイツには根性は無いと分かった。



「おいっ!! オヤジさんが聞いてんだろうがよ!!」


「分かった!! 取った分は全てお返しするんで、命だけは見逃してもらえへんやろうか!!」


「じゃあさっさと金庫開けて金よこせ!!」


「は はい!!」



 カタギさんが払った分の金を返すと言うところで、この話は着地したのである。

 香取は傷口を抑えながら金庫の扉を開けて、取った分の金を手に取ると俺の方を向いて金を渡そうとした。

 しかし俺は香取の頭をチャカで撃ち抜いた。

 最初から香取を生かしておく理由は無い。何故なら善良な人間から金を巻き上げるだけ巻き上げて、最終的には自殺に追い込むような人間は生かしておく必要が、全く無いと俺は考えたからだ。

 振り替えてみると小野は尊敬の眼差しを向けているのに対して、菅と大鈴は顔を歪めていて躊躇なく殺した事に、まだ慣れていないらしい。



「なんだ半グレやってる割には、意外にもピュアなところがあるんだな。こういう奴は、生かしておくと被害者が増えるんだよ」


「オヤジさん、例の掃除屋を呼んでおきますか?」


「そうだな。掃除屋を手配している間に、俺たちは金と借用書とかを持ってくぞ」


『はいっ!!!!!!』



 俺は殺した理由を説明してやってから、掃除屋の手配と事務所内にある金と借用書とかを全てまとめる。

 そんなところに若い奴らを追っていた青坂と隅田が、頼んだ通りに若い奴らを回収してきた。



「よしっ。あとは掃除屋に任せて俺たちは撤収するぞ」


『はいっ!!!!』



 全てを回収し尽くしたところで、あとは掃除屋に死体の掃除を任せて俺たちは香取金融から撤退する。

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