006:仕事内容
006:仕事内容
兄貴の隣に座ったところで、俺は兄貴とオヤジが飲んでいる同じ酒を頼む。
しかしオヤジは笑いながら「未成年が飲むには度が強いかもな」というのである。確かに未成年ではあるが、東京にいる時から酒は飲み慣れているので、問題ないと覚悟を決めて飲んでみる。
「あっ美味しい………どうですか、兄貴にオヤジ。俺だって酒くらい飲めるんですよ!!」
「おぉさすがは花菱やな!! この酒が美味いって分かるんは、それなりに酒を飲んできてる証拠や!!」
「オヤジは、この酒がお気に入りで、この酒をうまいと飲める人間は出世するっちゅう持論を持ってるんやで」
「そんな持論を持ってるんですか(笑)。この酒なら、いくらでも飲めますよ!!」
俺は美味しいからゴックゴックと飲み進めると、頭がボーッとし始めるのである。
それをオヤジと兄貴は、良い酒の肴だと笑いながら同じく飲み進めていく。
「酒が進んだところで、花菱が潰れる前に仕事の話についてしとこか。普通に広瀬組の出世がかかってる言うても過言ちゃう仕事やで」
「そないに重要な話なんですか? いつも通りカタギの客から受けた仕事やらちゃうんですか?」
「俺みたいな新参者でもやらせていただけるんですか? 確かに広瀬組の役に立ちたいのは本心ですが、周りの人たちは俺の事を認めてくれるんですかね?」
「そんな事を気にしてるんか? そんな風に思てる奴らは、俺の子分にはいるわけあれへんやろ。とにかく自分らが、コンビを組んで最初の仕事やさかいな」
俺の懸念点もオヤジは心配ないと言って、まだ内容を聞かされてはいないが、初コンビとして完璧な仕事を期待してくれているのである。
「それで詳しい仕事の話なんですけど、どんな仕事なんですか? さっきの話を聞く限りでは、カタギさんからの依頼じゃないような思えるんですけど?」
「その通りや。自分らに任せる事は、カタギさんから受けた仕事ちゃう。仕事の話の前に、少し話を遡ろか」
「話の名前に遡るんですか?」
仕事内容についての話をする前にオヤジは、百鬼会の本家で会議があったのだと話す。
オヤジのオヤジ、つまりは菅原組の組長は百鬼会で若頭補佐をしている。オヤジは菅原の親分に呼ばれて、会議の内容を伝えられたというのである。
その会議の内容を要約すると百鬼会を創設して長い間この日本極道会を引っ張って来た、初代会長〈百瀬 次郎吉〉会長が歳の影響もあって近々引退すると言っているみたいだ。
そこで最後の偉業として関西を統一してから、それを土産に隠居したいと言っているらしい。その意見に執行部のお偉いさんたちは賛成して関西攻撃を始めるとの事らしいのである。
「せやったら執行部では担当地域を決めたけど、自分ら2人には奈良県に行って来てもらう。もちろん攻め込む口実もあるから心配のう暴れて来てくれや」
「俺と兄貴が奈良県ですか!! 奈良県は行った事がないんで、それなりに楽しみです!!」
「遊びちゃうからな。それでオヤジ、その口実っちゅうんは何なんですか?」
「奈良県にある8代目大和組って知ってるか? 元々は大阪の老舗ヤクザ組織やったけど、百鬼会の勢力が上がったところで拠点を大阪から奈良に移した組織や」
「もちろん知ってますが、その大和組に付け入る隙があるんですか? あそこは内部抗争してへん一枚岩で、それなりに地域にも根付いてる組織でっせ?」
俺たちが攻め入る地域は奈良県らしいが、奈良県には8代目大和組という関西の中でも大きい方に区分されるヤクザ組織がある。
そこを切り崩していくのには、それなりに苦労しそうだと兄貴はオヤジにいう。
しかし何やらオヤジの表情からして考えがあるみたいで、俺も兄貴は顔を見合わせてオヤジの考えを聞いてみる事にしたのである。
「奈良県警からも黙認されてるレベルの組織や。そやかてそら奈良県内での話や」
「つまりは奈良県外で問題を起こしてるのを見つけたちゅう事ですか? その問題って、もしかしてカタギに手ぇ出したやらいう事ですか?」
「その通りや。俺のカタギの知り合いが、飲食店やってるんやが大和組の人間にみかじめ料を払えって脅されてるらしいんだ。その知り合いも絶対に払えへんし、警察にも行くって強気に出たらしいんやわ」
「中々強気な人でんなぁ。せやけど、その結果やられてもうたと」
「えっ!? それって普通に警察が出てくるんじゃないんですか? そこまで派手にやったなら、ポリ公だって黙ってるわけないっすよ!!」
付け入る隙は、オヤジのカタギの知り合いが大和組にやられた事らしいが、話を聞いてみると警察が出て来てもおかしくは無い話だった。
「そやさかいさっき言うたやろ? 大和組は奈良県警とズブズブなんやで。奈良県警から口止めされてるんや」
「そ そんな事してるんですか!? そんなの国民の見方が、そんな汚い方法を使うなんて………」
「汚い手かもわかれへんけど、今のヤクザってのは汚い事をせな生きていかれへんって事やろ。その汚い事のおかげで、俺たちは奈良県に足がかりを作る事に成功したんやからな。ある意味感謝やろ」
「確かに、そらそうでんなぁ。それで奈良県に関しては、俺たちに任せて貰えるんでんなぁ?」
「おうっ!! 徹底的に叩いてこいや!!」
これで正式的に奈良県の攻略を任せて貰った。
俺としてはヤクザとしても百鬼会の人間としても、初めての仕事なので気合が入っている。
そのまま前祝いとして、夜が明けるまで飲み明かして朝になった。
オヤジは家に帰って寝るというので、それを兄貴と一緒に見送ってから、これからの話をする為に華龍會の事務所に向かうのである。
「おぉ小野、久しぶりやな。この花菱の下で、上手う働いていけそうか?」
「はい。オヤジさんは、とても俺の事を親切に扱ってくれるので感謝しています」
「そうか、そら良かった。これから派手に暴れる事になるから花菱を支えたってや」
「墓場までついて来ます」
「そこまでついて来られるとなぁ(笑)。とりあえずお茶でも出すんで座って下さい」
兄貴は小野に俺のところで上手くやっていけるかと聞いて、小野は墓場まで着いてくると言ってくれた。
その事に少し嬉しいと思ったが、さすがに暑苦しいと笑いながら冗談をいう。
そして兄貴をソファに座らせて、若い衆にお茶汲みの指示を出すのである。俺も華龍會のトップとして、堂々とするように意識しているのである。
「それで兄貴。奈良県の切り崩し方は、どうやってやろうと思ってるんだ?」
「簡単な話や。俺と花菱で、大和組の事務所に乗り込んで、カタギに対してした事を問い詰めるんや。それと並行して、同じく奈良の暴力団組織である《松嶋興業》《三鷹総業》《蔵吉組》に圧力をかける」
「その作戦でいくんですね!! それなら馬鹿な俺でも理解できますよ!! 全力でやらせていただきます」
「交渉とかは俺が全てやるから花菱は飴と鞭の鞭の役割をやってもらう。それなりに危険な状況になるとは思うが………まぁ花菱やったら問題あれへんやろうな。期待してるから初仕事を成功させようや」
「うっす!! 絶対に初仕事を成功させて、組織内でオヤジの評価を上げさせますよ!!」
やはり俺は頭では、到底ヤクザなんてやっていけないと、兄貴の作戦を聞いて思った。
それなら自信のある腕っぷしで、この任侠の世界を登っていこうと覚悟を決める。
「ほな早速、明日行くから今日中にアルコールを飛ばしておくんだで。それと明日の朝10時に、組事務所に集合な」
「わかりましたっ!! 兄貴。お疲れ様です!!」
俺は深々と頭を下げて兄貴を見送った。
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