第26話 仲間が増えました
その言葉に俺らは絶句する……まさかこの大福が催眠の生みの親だなんて、そんなことがあっていいのか……!?
「えっと……話を続けるね? その怪我をしていた謎の生物を見つけた私は、助けなきゃって思って、家に連れ帰って治療をしたの。傷を消毒して、安静にさせて、ご飯も食べさせて……」
「捨て猫みたいですわね……」
音ノ葉はそうツッコむが……そもそもこの生物が何なのか、未だに分かってないんだけどな。まさか地球外生命体だって言うのか? でも催眠を作ったって話が本当なら、その可能性もありえなくはないんだよな……。
「そうやって治療を続けたら、お豆の身体は治って。喋りだして。傷を直してくれたお礼に、何か願い事を叶えてくれるって言ってくれたの」
「……それで催眠アプリを欲したのかい?」
すかさず滝宮さんがそう問い詰めると、松丸さんは食い気味に否定して。
「ち、違います! 私は……私は友達が欲しいって願ったんです。私、話すのがとっても苦手で、この子なら叶えてくれるんじゃないかって思ったから……」
「……」
松丸さんの言ってることが本当なら、悪意は無かったことになるだろうけど……それだと催眠が配られたことや、記憶が改変されたことの意味が分からないな。後で説明してくれるんだろうか……とここで、滝宮さんの追撃が入って。
「なら、あの球技大会の出来事はどう説明するんだい?」
「それは……友達が欲しいなら、人をたくさん集めろってお豆に言われて。球技大会の時、みんなが集まるんじゃないかって思った私は……その時にお願いしたの」
「ほう……」
「そしたらお豆はスクリーンを乗っ取って、みんなに催眠をかけたの。そしてこれでなんでも私の思い通りだって。みんなお友達になれるって……」
……綺麗に繋がった。そうか……あの時の言い合いの声は、松丸さんのもの。そしてその相手は謎の生物のお豆……!
「でもこんなのは違う、早く元に戻してって私が言ったら、お豆は混乱しちゃって……戻すように努力はしてくれたの。でも、それは色々と不完全で……みんなの記憶がおかしくなっちゃって……そのままお豆もどこかに行っちゃったの」
「えっ、逃げ出したってこと?」
「は、はい……今も探してるんですけど、全然見つからなくて……」
松丸さんは悲しげな表情をして言う。催眠アプリを与えた謎の生物……そいつを見つけることが出来れば、この状況を一気に打破することは可能だろうが……見つけるのはきっと苦労しそうだろうな。
「ふむ、残念だ。いたのなら捕まえて、色々と実験しようと思っていたんだがね」
「多分私らが実験台にされますよ」
確かに音ノ葉の言う通り、催眠を一気にかける力を持っているんだから、実験されるのは俺達の方だろうな。そして松丸さんは続けて。
「それで……お豆がいなくなって。代わりに私のスマホに催眠アプリが入っていて。他の人にも渡ってるって知ったのは、本当に最近になってなんですけど……私のせいでこんなことになっちゃったから、どうにかしたいってずっと思ってたけど……でも、どうしようもできなくて」
「……」
「その時に、あなた達が催眠を使って悪さをするんじゃないかって噂を聞いて。でも反対に催眠を消そうとしてるってことも噂で知っていて……江野君達に何かあったんじゃないかって、止めなきゃって思ったから、勇気を出して来たんです」
そう言ったのだった。うん、やっぱりこの子……。
「……めっちゃいい子やん」
「でも、全ての元凶ですわよ?」
音ノ葉は冷静にそう言う。もちろんそんなことは分かっているが……。
「そんなこと言ったって、彼女も被害者だよ。松丸さんも俺らと同じ志を持っているみたいだし……仲間に迎え入れるのはどうかな」
「えっ?」
ここで改めて俺は、この集まりの説明をした。
「実は俺ら文芸部は、催眠アプリを撲滅させようとしている集まりなんだ。動機はまぁそれぞれだけど……みんな危険を冒して、催眠持ちの数を減らしている。だから君も仲間になってくれると心強いんだ」
すると松丸さんは困惑したように、たどたどしく言葉を紡いで。
「え、えっと……わ、私が入ってもいいの? 私は……え、江野君が嫌う、催眠アプリをばら撒いた張本人なんだよ?」
「だってわざとじゃなさそうだし。それに……俺は催眠アプリを嫌ってるというよりは、催眠アプリを使って好き放題やってる奴らが気に食わないだけだからさ。だから松丸さんのことを敵とか全く思ってないよ」
「……!」
松丸さんは顔を上げて、嬉しそうな……いや、救われたような顔を見せた。そのまま二人の方を見ると、彼女らは頷いて。
「まぁー、隆太様が良いって言うなら、私は別に構いませんよ! 滝なんとかさんよりかは真面目そうですし」
「私もその謎の生物には興味があるからな。文芸部の一員になるのなら、喜んで歓迎するさ。何ならそこにいるバカと交換したっていい」
「あ?」
そしていつものように火花が飛び散るが……俺はそれをガン無視して。
「ほら、二人ともいいってよ。松丸さんも俺らと一緒に、催眠アプリを撲滅させよう!」
俺は手を差し伸べる。すると松丸さんは手を出して引っ込めてを何度か繰り返した後、震えた手で俺の手を掴んでくれて。
「……は、はい……! 私なんかでよければ……! 協力させてください!」
「うん、もちろん。よし、明日からまた活動頑張ろう!」
「おーですわ!」「おー」
全員で手を上げたのだった。色々あったけど……文芸部に仲間が増えました。
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