やがて神となる少女と生贄になった僕

小鳥遊アズマ

第1話 生贄

 神が死んだ。人々の前で、唐突に神は死んでしまったのだ。

 何も知らされていなかった人々は戸惑い嘆き悲しんだ。中には後追い自殺する者まで現れて、地上は混乱の渦に巻き込まれた。

 そんな中立ち上がった女性が居た。女性は混乱する人々をまとめ上げ、新たな世界を作り上げた。人々は女性を”神”と崇め、尊敬した。



「や~、やっぱ尊敬するなぁ! 僕もこんな人になりたい!」


 読んでた本を隣に置き、大きく伸びをする。時間を確認するすべがないから今が何時か判らないけれど、かなり長い時間本を読んでいただろう。もう目はしょぼしょぼだし、ずっと同じ姿勢だったからか肩が痛い。


「今日のご飯は何だろう! 僕の好きな味だったらいいなぁ」


 ドアの隣にある食事置き場のドアを開ける。四角のトレイにゼリーと栄養食と牛乳が置かれている。今日のメニューだ。少し味気ないと思うが、まぁ、仕事をしていないので当然だろう。仕事をしていればもう少し豪華になっていたのだが……まぁ、仕事がないのは良いことだ。

 食事をとりながら本の続きを読んでいるとドアがノックされた。許可を出すとドアがスライドされ白衣を着た女性がやってきた。綺麗な水色の髪を大雑把にまとめている。目の下には少し隈があった。


「どうしたの? お母さん」

「私は貴方の母親ではありませんよ、るい。貴方に新しい仕事を与えてあげます。食事が終わったらロビーへ来てください」

「はーい!」

「十分以内に来てくださいね」


 そう言い残し、女性は去っていった。さっきの人はお母さんじゃなかったみたいで少しがっかりするけど、それよりも新しい仕事だって! 新しい仕事って何だろう? 新しいってことは罪人を処刑するわけじゃないよね。ワクワクする! どんな仕事だろう? 急いで食事を済ませてロビーへ向かう。途中でパジャマのままなことに気づいたけど、まぁいっか! とそのまま向かった。


「早いですね」

「だって急いできたもん! それで、新しい仕事って何?」

「すぐにわかりますよ。ついてきてください」


 研究者さんに連れられてやってきたのは研究室だ。僕たちは入ることが許されていない場所。だけどその中身は知っている。中に入ると十本の生命維持装置が並んでいた。その中身は全部同じ女の子。灰色の肌に、きれいな白髪をしている。顔だちもきれいで、まさに神様みたいな女の子!


「累、おめでとう。貴方は生贄に選ばれたの。これは名誉なことよ」

「本当?」


 生贄。これは執行者以上に名誉ある仕事だ。生贄の仕事は簡単。女の子をお世話すればいい。……簡単っていうけど、普通に難しくない? 僕にできるのだろうか。

 その不安を察知したのだろう。研究者さんは笑顔で「大丈夫よ、累。私たちも全力でサポートするから」と握りこぶしを作った。研究者さんたちが助けてくれるなら安心だ。彼女はこの仕事の説明を始める。基本的に女の子と一緒に行動すればいいらしい。そして女の子が成長したら僕は生贄となり、仕事が終わる。

 説明を受けている間に起こす準備をしていたのか、目の前に生命維持装置が現れた。液体が抜かれガラス扉が開く。白くて長いまつげが光に反射して神秘的だ。瞳がゆっくりと開かれる。女の子はここがどこなのか判らないようで、辺りをきょろきょろと見回した。


「アテナちゃん、立てる?」

「あ……た」

「あっ、立つってわかる? こう、起き上がるというか……僕の手、つかめる?」


 アテナちゃんに手を差し伸べる。身体の動かし方が判らないのだろう、少女は寝たまんまだ。しょうがないから手を掴んでゆっくりと起き上がらせる。とりあえず上半身は起きた。しかし今まで装置の中に居たからだろうか、倒れそうになったところを支える。


「大丈夫?」

「らい、じょー、ぶ?」


 彼女は下っ足らずな声で僕の言葉を反復する。意味は判っているのだろうか。まぁ、そこは良いとして……僕は研究者さんに助けを求めた。女性は仕方ないとでも言うようにため息を吐くとアテナちゃんを抱き寄せた。そのまま自然な動作で彼女を立たせると近くの車いすに座らせた。

 どこに行ってもいいとのことだったので、僕は車いすを押してロビーの遊び場に向かった。

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