第5話 感染症によるほほ笑みという名の痙攣



助けてと叫んでも諦めろと言われ腐っていく

腐り落ちていく私の一部に気がつかないまま

私は空っぽのままこんなにも大きくなりました。


妬み。嫉妬の自覚がない。自由にふるまっている人が憎いのを、正しいように飾りながら汚物を吐き出す。もしこれを伝えたら、さらに怒るだろう。「あなたはわたしに嫉妬をしている」。その嫉妬も、権威から承認されるだけで蓋ができる。権威がよしといえば、何事もなくなる。良い子ちゃんの暮らし。間違っているのか正しいのかの二択しかない。事実と意見も区別する必要がなく、「あなたには興味がない」「なぜならあなたが間違っているか正しいか、権威がどう判断するかがわかればいいから」


イライラする。わたしは仕事で忙しいのに。攻撃性を隠す。話が飛ぶ。遮る。自分の正義で、ウチの論理で切り裂くことでうっぷんを晴らし、抑圧してきた自分に捧げものをする。同一性が保てないことは我慢ならん。感情を処理できない。抑圧することで生じ続ける腐敗した感情を、劣化した感情を、異質な他者を汚染することで和らげる。汚染は続く。汚染されていることにも気が付かない。人がバタバタと倒れるのは関係性のソトの世界だからだ。関係のない。孤独な人たち。ウチにいたとて、権威に従うがための軋みは陰口悪口妬み嫉み怒り悲しみとなって腐敗する。イライライライラ。心配されるのもイヤ。処理できない他者。他者性に直面して、拒絶反応をする。命令系統に従うことに慣れて、残酷性しか残らない。「わたしはこんなに良い子にしているのに、どうしてあなたはわたしをかばってあの人を殺してくれないのですか?」「わたしはこんなに頑張っているのにあなたはどうしてわたしの願いよりあの子を優先するの?」焼ききれる。焼き焼かれる。耐えられない構造を獲得してしまった。何とかつないできた。泣きながら、叫びながら、目を吊り上げながらボロボロ。ボロボロで当然だった。だってそれが、当然だから。だからこそ、私はボロボロになってもいい子をしてきた。だからわたしは正しい!わたしは幸せだ!わたしは幸せでなければならない!なぜならわたしは良い子だからだ!


私と話す人は大抵、目の前がピクピク痙攣している。この不随意の筋肉のように、不随意で、ただ怒りを放っていた。いい子でない私に。組織化されていない、隷属化していない、感染していない私に。


今日のレポート

権威に正しさを委ねないものが生きるのは骨が折れる。

骨の折れる生き方を選ぶ人は、ほとんど、いない。

だから私は勝手に、組織とは関係なく、自分を助けていくしかない。

感染社会、奴隷社会、空気社会、権威社会、オートメーション。


大人になるとは

正しさを権威に委ねること

価値と判断をシステムに委ねること

常に笑っていること。

表現する感情は嫉妬と怒りであること。

孤独でないふりをすること

なぜなら孤独は辛いものだから

だから大人は最初に自分を殺すのです

孤独を感じないように

システムに自分を与えるのです。

自分を失った孤独者は

殺された自分が死んでいく姿を見ることもなく鏡に映し出された光の届かない目を見ることもなく笑い続けるのです。


こびりついた歪んだ表情筋はいつまでもいつまでも私を呪い殺したいと口を開くのでした。


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