【番外編】極彩遊戯 〜空、彩街へ〜

野沢 響

【番外編】極彩遊戯 〜空、彩街へ〜 ①

 六時間目の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。皆、教科書やノートなどを手にして廊下へ出ていく。

 この時間は理科の授業なのだが、今日は実験があったため理科室に集まっていたのだ。

 そらも周りの生徒たちと同じように筆入れや教科書、ノートを手にして理科室を後にした。

 教室に向かって歩いていると、背後から呼び止められた。

 後ろを振り返った先にいたのは、若い男性の教師。

 心配そうに空を見つめている。


 「若山わかやま先生、どうしてここに?」


 声音に緊張が混じっているのが自分でも分かる。

 いつもこうしてタイミングを見計らって声をかけてくるのだ。


 「今日は理科室で授業があるって聞いていたから、いずれここを通ると思っていたんだ。それより、最近はどうだ?」

 「最近は、その、嫌がらせも落ち着いているので」


 平静を装ってみたが上手く出来たかは自信がない。


 「そうか、それはよかった。そういえば、傘は持って来たか? もう雨が降り始めているが」

 「雨?」


 空はすぐ目の前にある窓を見た。窓ガラスは雨で濡れている。

 空はしまった、と思った。それが顔に出たのを若山は見逃さなかった。


 「もしかして、忘れたのか? よかったら先生の傘を貸すぞ? 帰り車で送って行ってもいいし」

 「だ、大丈夫です。折り畳み傘ありますから。私、教室に戻ります」


 空は早口でそう言うと、頭を下げて早足で教室に向かった。

 若山は背後でまだ何か言っていたが、一刻も早くこの場を去りたくて仕方がなかった。

 教室に入り、自分の席に着く。

 空は安堵して息を吐いた。

 すぐ後ろでは同じクラスの数人の女子たちの視線を感じたが、気付かないふりをした。

 急いで机の中に入っている教科書やノートを掴んで出す。

 手にした教科書はところどころ切り裂かれている。

 空は手早く教科書やノートに紙が挟まれていないかを確認した。以前、悪口を書かれたノートの切れ端を数枚入れられていたことがあったからだ。

 どうやら今日は入っていないようだ。

 ほっと息を吐いてから、すぐにそれらをカバンに入れていく。

 担任の教師が教室に入って来て、ホームルームが始まった。

 教師の話をぼんやりと聞いていると、黒板に書かれた日付けにふと目が留まった。

 六月二十日(木)。

 そこで、空は今日が木曜日だということに初めて気付いた。


 (そっか、今日木曜日だったんだ。じゃあ、明日乗り切れば……)


 明日さえ乗り切れば、憂鬱な気持ちも少しは軽くなる。

 ちょうどホームルームが終わったようだ。 担任教師が教室を出て行くのを見て、空は立ち上がった。

 そそくさと教室を後にして玄関に向かう。

 自分の下駄箱からローファーを取ろうと手を伸ばした時、全体的に濡れていることに気付いた。

 構わずぐっしょりと濡れたそれを持ち上げて置いた。

 内履きを脱いで下駄箱に置くと、すぐにローファーに履き替えて窓を見た。

 どんよりとした厚い灰色の雲が見えるが、雨足はそれほど強くない。

 さきほどの男性教師との会話が脳裏に蘇ったが、すぐに首を横に振った。


 (もういいや。走って帰ろう)


 空は雨が降る中、走り出した。

 自分が暮らす養護施設に向かって走っていた時、背後から声をかけられた。

 聞き覚えのある声に思わず立ち止まる。ゆっくりと振り返ると、少し距離を置いて数人の少女たちがこちらを見ていた。

 さきほどクラスで自分のことを睨んでいた子たちだ。


 「あんた、若山先生にチクったでしょ?」

「チクる……?」


 空が呆然と呟くと、別の女子が口を開いた。


 「とぼけないでよ? 若山先生の気を引こうとしてんでしょ?」

 「え? ち、ちが……」


 否定しようとした声はすぐに遮られた。


 「チクりたいなら担任の萩野はぎのに言えばいいじゃん。それなのにわざわざ若山先生の所に行ってさぁ?」

 「女子の間で若山先生が人気あるの知ってるよね? あんた、どういうつもりなの?」


 若山に相談する前に担任の萩野に相談はした。話は一応聞いてくれたが、これといって対策をしてくれた訳ではなかった。

 むしろ、空にも原因があるのではと返してきた。

 そういうことがあり、年齢が自分と近くて教員になって二年目(と聞いている)の若山にいじめにあっていることを打ち明けたのだ。

 年齢の近い先生の方が気持ちを理解してくれるのではないかと思ったから。

 相談後はいじめていた側の女子たちから詳しく話を聞き注意をしてくれたりと、頼りがいのある先生だと感じていた。だが、次第に空のクラスの曜日ごとの授業を把握したり、施設での生活や過ごし方などを聞いてきたりと、言動がエスカレートしていった。

 若山が女子に人気があることも後から知った。

 端正な顔立ちに加えて、背が高くスラリとした体型でノリが良くて話し上手。

 担当教科は数学だが教え方が上手いらしく、テストの点数が上がった生徒も何人もいるらしい。


 「ちょっと何無視してんのよ!」


 最初に声をかけた女子が空の腕を掴んで、そのまま背後の水溜りに向かって突き飛ばした。

 空がバランスを崩し水溜りに手を付くと、跳ね返った水が制服のシャツとスカートを濡らした。

 全身が濡れなかったのは幸いだが、顔を上げたすぐ先にいるのはグループの女子たち。睨んでいる子もいれば、嘲笑している子もいる。

 起き上がろうとした時、突き飛ばしてきた女子が空の頭に手を伸ばしてきた。

 空は反射的にその腕を払うと、落としたスクールバッグを手に取り一目散に駆け出した。

 どこに向かって走っているのか分からない。

 雨が降りもやで視界が霞む中、無我夢中で走り続けていると、いきなり視界が開けた。

 

 ※※※


 目の前に広がるのは見たこともない景色だ。

 辺りには派手な色の木造建築が並んでいる。赤色、オレンジ色、紫色に緑色に黄色……。

 ここは一体どこなのだろう。

 呆然としたまま周囲を見回す。大人も子どもも着物や着流しといった和服を着ている。


 (時代劇の撮影でもしているの?)


 着ている着物もそうだが、驚いたのはその髪や目の色が皆、派手な色をしていたことだ。

 周囲を見回しても監督やカメラマン、スタッフらしき人の姿は見当たらない。


 (ドラマや映画の撮影とかじゃないの?)


 見知らぬ場所に見慣れぬ風貌の人々。

 不安が一気に膨れ上がる。

 周りから視線を注がれているのを感じながら、動けずに立ちすくんでいた時、


 「お姉さんどうしたんだ?」


 声を掛けてきたのは十歳くらいの女の子。緑色の短い髪と同じく、目も着ている着物も髪と同様の色だ。


 「なんでそんなに濡れてんだ? 今日ずっと晴れてるよ?」


 そう言われて、自分の着ている制服や靴下なんかが濡れていることを思い出す。


 「えっと、私……」


 今の状況をなんと説明したら良いのか。空が言葉に詰まっていると、


 「お姉さん、とりあえず着替えた方がいいよ? 常磐ときわってんだ。あんたは?」

 「そら

 「空。おれたち今から染め物屋さんに行くから、一緒に来て?」

 「染め物……?」


 常磐は空の手を取ると、後ろを振り返った。


 「七両しちりょう、このお姉さん濡れてるから……」

 「見りゃ分かる」


 七両と呼ばれた子どもがぶっきらぼうに答える。

 年齢は常磐と同じくらいだが、彼女よりも少し小柄だ。紅い長髪を腰辺りまで伸ばし、目の色と着物の色は紅い長髪と同じそれだ。

 後ろには真紅の大型犬(もしかしてオオカミ?)を連れている。


 「おい、さっさと行くぞ?」


 促す七両に常磐は頷くと、再び空に顔を向けた。


 「すぐ近くだよ」

 「え、ええ……」


 空は訳も分からず二人の子どもたちの背中を見つめる。

 その時、何気なく見た常磐の耳の形が特徴的なことに気付いて、空は目を丸くした。

 彼女の耳はまるで桜の花びらのように真ん中に切れ目が入っている。

 見ると七両も同じ形だ。

 ここは一体どこなのだろう。

 空は不思議な思いを抱いたまま二人の後に続いた。


 ※※※


 「じいちゃん!」


 常磐は外で着物を干していた男性に向かって手を振る。

 男性は気付くと、顔を上げてこちらに歩いて来た。

 茶色い髪と顎髭、それに目の色を持つ五十代半ばの男性だ。


 「おお、常磐ときわか。それに七両しちりょうも。ん? そのお嬢さんは一体……」

 「服濡れてるから、気になって連れて来たんだ」

 「そりゃあいかん。とりあえず中に入ってくれ」

 「は、はい……」


 空は促されるまま、建物へ歩いて行くと中へ入った。


 「お邪魔します」


 そう口にした時、靴下が濡れていることを思い出した。

 その時、一人の女性が駆け寄って、


 「まあ、いらっしゃい。足元濡れているでしょう? よかったらこれ履いてちょうだい」

 

 女性は白い足袋たびを差し出した。

 空は礼を言って、靴下を脱ぎ足袋に履き替えると小上がりに上がった。


 「濡れている足袋(空の靴下)預かるわ。今、替えのお着物も持って来るからちょっと待っててね」


 柔和な笑みを浮かべた水色の髪と目を持つ女性はそう言うと、隣接されている部屋に入って行った。


 「ここの人たち、優しいから安心して良いよ」


 常磐がそう声をかけると、間も無く水色の髪の女性が戻って来た。


 「お待たせ。とりあえずこの着物を来て貰えるかしら? 私の物で申し訳ないんだけど」

 「いえ、とんでもないです。わざわざすみません」


 空が受け取ったのは紺色の着物。

 隣接されている部屋を借りて着替えを済ませる。


 「空、似合うじゃないか」

 「おお、似合っとるのう」

 「あら、本当ねぇ」


 常磐と男性、それに女性の言葉に空は少しはにかみながら、


 「本当ですか……?」

 「もちろんさ。なあ、七両?」


 突然話を振られた七両は横目で常磐を見ると、すぐに前に視線を戻して短く「ああ」とだけ答えた。

 その後、空は長卓と座布団が置かれたスペースに案内された。

 制服のシャツとスカートは靴下と同じく預かってもらい、外で乾かしてもらっている。

 女性はお茶が入った湯呑みを持って来ると空たちの元に置いていく。皿には饅頭が盛られていて、「よかったら食べてね」と促してくれた。

 水が入った少し深めの皿を玄関にいる大型犬の元に置くとこちらへ戻って来た。


 「そういえば、まだ名前を名乗ってなかったのう。わしはとびといって、この染物屋の染師をしておる。こっちはわしの女房だ」

 「私は白花しらばなよ。二人でこのお店を切り盛りしているの」

 「私は空と言います。お着物と足袋、ありがとうございました」


 空が礼を言うと、二人は笑顔で頷いた。


 「おい七両、何ボサっとしてんのさ? あんたも挨拶ぐらいしろよ?」


 常磐に促され面倒臭そうにため息を吐くと、


 「俺は七両しちりょう。あっちにいるオオカミは緋楽ひがく


 玄関の方に顔を向けて、七両がそう言った。さきほど七両の後を付いて来ていた緋楽は水を飲み終えると寛ぎ始めた。

 

 (やっぱり犬じゃなくてオオカミなんだ)


 「あのオオカミはあなたが飼っているの?」

 「いや、飼ってるってのとは少し違う。使役してんだ」

 「え? 使役?」

 「ああ、俺がんだ」


 言っている意味が分からず、空が困惑していると、


 「ところでさ、空の服なんで汚れてたんだ?」


 皿に盛られた饅頭に手を伸ばしながら常磐が尋ねる。


 「あっ、それは、その……」


 皆の視線が彼女に集中する。

 空は顔を伏せて、


 「に、苦手な子に水溜まりに突き飛ばされて……」

 「それで濡れていたのね?」


 白花がそう口にすると、空は俯いたまま頷いた。


 「……私、前からいじめられてて」

 「何だって!」


 常磐が突然大きな声を出して立ち上がった。

 驚いて空が顔を上げる。


 「そんな連中、おれがとっちめてやる! 空、そいつらの特徴は?」

 「あの、常磐ちゃん……?」

 「見た目とか着てる服の色とか何でもいいから教えてくれ!」


 興奮気味な常磐に呆気に取られていると、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 声の主は七両。続けて、


 「やめろ。それ以上聞くな」

 「なんだよ七両! あんた、話聞いてたのか?」

 「聞いてた。それより空が困ってんだろうが」


 常磐は隣に座る空を見る。

 彼女の表情は何と答えていいのか迷っているように見えた。


 「そうじゃな。ここまで話してもらったことだし、この話はこれで終いにしよう」


 とびがそう言うと、白花しらばなも同じように、


 「そうね。ほら、空ちゃんも七両ちゃんもお饅頭遠慮しないで食べて? 私、お茶のおかわり持って来るわ」


 そう言うと、白花は一度席を立った。

 空は今までに感じたことのない居心地の良さを感じていた。


 ※※※


 「彩街あやまち?」


 そらが首を傾げると、鳶が説明した。


 「そうじゃ。ここは繁華街での。一画いちかくから五画ごかくという五つの区画に別れていて、これらの区画一帯を彩街と呼んでいる。ちなみにここは四画よんかくじゃ」

 「ここ、繁華街だったんですね」

 「そうだよ。観光客はよく見るけどさ、ニンゲンに会ったのは初めてだよ」


 常磐ときわはなんだか楽しそうに声を弾ませる。


 「ちなみに、おれたちとニンゲンの見極め方は二つあるよ」


 そう言いながら自分の耳を指さす。

 さきほど空が見た時に感じた違和感はこれだ。


 「それから歯」


 今度は口を横に開いて自分の歯を見せる。

 常磐の歯にはびっしりと刻印のようなものが刻まれていた。色は彼女が持つ色と同色だ。


 「時々ニンゲンが来るという話を聞くけれど、実際に会ったのは私も初めてよ」


 話を聞いていた白花しらばなも嬉しそうにそう言った。

 自分と同じような人間がこの街にやって来るのは珍しいことなのかもしれない。


 「おい、常磐」

 「なんだよ七両しちりょう?」

 「お前、忘れてんじゃないだろうな?」


 七両がいぶかしげな視線を寄越す。


 「忘れるって何を?」


 何言ってるんだと言わんばかりに常磐は七両を見る。


 「お前、やっぱり忘れてんじゃねぇか。ここに着物取りに来たんだろ?」

 「あっ!」

 「おお、そうじゃったな」


 常磐が前のめりに七両を見る。

 続いて鳶が慌てて立ち上がった。作業場に急ぎ足で向かうと、少ししてから戻って来た。


 「いやあ、すまんすまん。すっかり忘れていたわい」


 手には着物が四枚分。それぞれ緑色が一枚、赤色が一枚、紅色が二枚ある。三枚は子ども用で赤色の方は幼児用のようだ。

 白花も立ち上がり、風呂敷を二枚準備する。

 それぞれ風呂敷に着物を包むと、常磐と七両に渡した。


 「こっちが常磐ちゃんと弟くんの着物。それから、七両ちゃんの着物よ」

 「ばあちゃん、ありがとう!」

 「すまねぇ」

 

 常磐と七両がそれぞれ礼を言うと、


 「お前たち、そろそろ帰らんと。心配している頃だろう?」


 鳶にそう言われて二人は窓を見た。外はすっかり橙色に染まっている。


 「うわっ、もう夕方じゃん!」

 「ああ。けど……


 七両は顔を空に向ける。


 「あっ、私もそろそろ帰ろうと思っていたから」

 「あんた、帰り方分かんのか?」

 「それは……」

 「空、おれと一緒に来るかい? うち、男ばっかでうるさいけど」

 「二人とも気にかけてくれてありがとう。私なら大丈夫だから先にお家に……」


 帰って、と言おうとした時、白花が彼女の肩に手を置いた。

 空が振り返ると、


 「空ちゃん、もう遅いから今日は泊まって行って? 帰り方を探すのは明日の方がいいわ」


 そう言うと背後にいた鳶を振り返る。


 「そうじゃな。なに、遠慮はいらんよ」


 そう言うと、鳶はニカッと笑った。


 「ご迷惑じゃないですか……?」

 「ううん、全然よ」

 「迷惑なもんか」


 続いて、常磐と七両も、


 「空、おれたち明日また来るよ。帰り方は明日探そう?」

 「じいさんとばあさんがこう言ってんだから、それでいいだろ?」


 空は少し考えた後、笑みを浮かべて頷いた。


 「うん、そうね」


 二人から今度は鳶と白花に顔を向ける。


 「今日一日お世話になります」


 そう言うと、二人は笑顔を見せた。


 ※※※


 七両と常磐が帰った後、空は白花の夕飯作りを手伝った。

 出来上がった献立は肉じゃがに菜の花の和物あえもの、メバルの煮付け。その他、白米と大根と小松菜の味噌汁。

 三人で食卓を囲む。

 いただきます、と声を揃えてからそれぞれ料理を口に運ぶ。


 「うん、美味い!」

 「空ちゃんが手伝ってくれたのよ」

 「おお、そうじゃったか。どれも美味いよ」

 「良かった」


 空は顔をほころばせる。


 「私、こうやって食卓を囲んだの初めてです」

 「あら、そうなの?」


 白花の質問に頷いた。


 「はい。生まれてすぐに施設に引き取られたので、周りは子どもたちばかりで。

 こんなふうに誰かとご飯を作ったりしたのも今日が初めてです」

 「失礼を承知で聞くが、親御さんは……」

 「親の顔は覚えていないんです。どこにいるのかも分かりません。施設の大人の人たちが親代わりで」

 「そうか。答えにくいことを聞いてしまってすまなかったな

 「いえ、そんな……」


 空が慌ててそう口にすると、


 「空ちゃん、私たちも食べましょう? せっかく作ったのに冷めちゃうわ」

 「はい」


 空はじゃがいもを口に運んだ。

 固すぎずほくほくとした食感で、味付けもちょうど良い。

 菜の花の和物もメバルの煮付けも美味しくてあっという間に完食してしまった。

 その後は、夕飯の後片付けをしたり入浴を済ませた。寝巻きは先程と同じように白花の寝巻きを借りた。

 あっという間に就寝の時間になり、空は事前に借りることになっていた客人用の部屋に入ると、すぐに布団に入った。

 今日起きた出来事が頭の中を駆け巡る。

 いつもと変わらない日常が続くのだと思っていた。

 明日が金曜日で、それを乗り切れば少しは安心出来ると思っていた。

 ところが、気付いたら見たことのない街に来ていて、そこで会ったのは派手な髪と目の色をした子どもたち。

 彼女たちに付いて行くと染物屋の夫婦がいて厚意で泊めてもらって。


 (こんな経験したの、生まれて初めてだなぁ)


 それと同時にもう一つ思うことが。


 (出来ることならずっとここにいたい……)


 空は目を瞑る。

 瞼を閉じた瞬間、常磐や七両に緋楽、それに鳶と白花の姿が浮かんだ。

 空はそのまま深い眠りへと落ちていった。

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