第3話 大食い



「最後に確認なのですが……ルナにはスキルがありません。 後発的にスキルが出る場合もありますが、一生出ない事もあります」


 書類にサインしている時に、それは確認済みだ。

 今さら、スキルの有無しで気持ちが変わったりしない。


「確認とサインが終わりましたので奴隷契約に移らせてもらいます」


 抱えられていたルナが、俺が座っているソファーに降ろされ、隣同士になる。

 ルナは恥ずかしいのか顔を赤らめ、俯いている。


「では契約の儀式を始めます!」


 そう言って店主はルナの側にやって来て右手を掴んだ。

 

「スキル……コントラクト!」


 スキルを発動させてた事により、ルナの掴まれている右手が光だし、手首に黒い呪印みたいな物が現れる。


「ジュン様、こちらの呪印に血を一滴垂らして下さい」

 

 店主に促され、ルナのか細い右手に触れると、ひんやりと冷たさが伝わってくる。

 血行が悪いせいで、手足が動かないのか、そんな事を考えてしまう。


「……ご主人様ぁ?」

 

 ルナは潤んだ瞳で俺を見つめていた。

 思案していたせいで、不安にさせてしまったのかもしれない。

 

 気を取り直して、手首の呪印に血を垂らす。

 すると呪印の文字の色が赤へと変わった。


「これで契約の儀式は終わり、奴隷はジュン様の物となりました」



◆◆◆



 奴隷を買い終わり泊まっている宿へと帰ってきた。

 ルナと金貨の入った宝を抱えて行くことはできず、馬車を出してもらい、ここまで来た。

 

 生まれて初めて奴隷を買った事で、宿の大将から何か言われないかヒヤヒヤしたが、特別何か言われる事はなく、普通に会話して終わった。

 

 部屋についてから、俺の持つスキル、回復系のスキルであるヒーリングを試してみたが、ルナの手足は動かなかった。

 奴隷商の店主が言ってた事は間違いではなく、本当に治らないのかもしれない。


 今はルナをベッドに寝かしてやり休ませている。

 起きた時に、お腹が空いているだろうから、ご飯を買いに外に出る事にした。


 女の子だから、あまり食事は入らないと思うが、何が食べたいか分からない。

 たくさん買っていけば、どれか食べてくれるだろう。

 残ったにしても、明日の朝食べればいいだけの話だ。


 弁当を五つと、他にも適当に屋台で買い込む。

 

「よし! これだけ有れば足りるだろう」



◆◆◆



 自分の部屋に戻ると、ルナはベッドの上に座っていた。

 

「ご主人様ごめんなさいぃ……寝てしまいました」


「いいんだ、それよりご飯買って来たから一緒に食べよう」


「はわぁ〜食べたいです!!!」


 ルナをテーブルへと連れて行き、椅子に座らせる。

 テーブルに並べられた料理を見て、目を輝かせている。


「どれがいい? 食べさせて上げるから選んで……」


「ぜ、、、」


「ぜ?」


「ぜ、ん、ぶ!……食べたいですぅ♡」


 ははははははは


 絶対むりだろう!

 こんな小柄な子が食べれるはずがない。

 育ち盛りといえど、弁当五つも入る胃袋があってたまるか。


「ははは、いいよ! 食べれるもんなら食べてみなよ!」


「やっっったぁぁぁ!!! ご主人様ありがとうございます。」


 可愛らしいなルナは。

 どうせ、すぐお腹いっぱいになって入らなくはるのが目に見えてる。


「はむはむはむぅう♡ おいひぃぃぃ!?」


 手足が動かないルナに、俺が食べさせて上げている。

 喜んでいるのか、凄くうっとりした表情。

 

「もっと食べていいんだよ、食べないと強くなれないし」


「はむはむはむ……はむはむはむ……もっと強くなるぅ」


 速度が上がり、あっという間に弁当五つを完食。

 これには、さすがの俺も驚いた。

 

 だが、まだ目は死んでいない……獲物を狩るような真剣な眼つきに変わり、次の標的を決めようと、選んでいる。

 

「ご主人様……もっと食べいです!」


 強欲……いや貪欲なまでの食事量。

 その凄さに圧倒されて、俺は手が止まっていた。


「ルナ……奴隷商ではどのくらい食べていたんだ?」


「えっと、食事は二回、パン一個とスープだけでした」


 うーん?

 もしかして……そういうことか?

 もう少し詳しく聴いてみるか!


「奴隷商に来る前は、どのくらい食べてた?」


「孤児だったので、食べれない日の方が多かったです」


 はい……決定!!!!

 ルナは間違いなく栄養失調で、手足が動かなくなったんだ。

 

 こんだけ食べる娘が、食事を抜いたら、身体に不調が出るのも当たり前だろう。

 俺は戦闘の怪我とかで、後遺症が残ってる物だとばかり思い込まされていた。


「そうか、それは辛かったな。 これからは毎日お腹いっぱいに成るまで食べさせるから……」

 

「やっっった! ご主人様大好きぃぃぃ♡」



 ルナの食欲は留まる事を知らず、お弁当五つを平らげた後、屋台で買った、ボアの串焼き十本、オークステーキ十枚、ロックバードの唐揚げ二十個、焼きトウモロコシ五本を全て完食。


 

「はぁ〜美味しかったですぅ」


 圧巻の食欲だった……あっ俺何も食べてないや。




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