「無自覚でハーレムを築いたが京谷は今日も気づかない」
@kaminetu
第1話
冒険者ギルド日本本部のラウンジ。
冒険者は土日も忙しく休暇を好きに取れるわけではないことということもあってか。休日は訓練や魔物討伐するカッコいい冒険者を見ようと仕事の合間にこの場所を訪れる人間は多い。研修生、低ランクの冒険者からベテランの冒険者まで多くの人で賑わっており、見知った顔もチラホラ見かける。
かくいう俺も最強の再宮さんに会おうと思う1人。ラウンジの1人用席に腰掛けアイスコーヒー(甘め)をゴクゴクと飲みながら、冒険者ギルドから支給されたスマホでA級パーティ同士のランク戦のログを眺めていた。
今見ている試合は先月末に行われた「龍の秋城」と「お手なみ拝見」
「俺様最強」の3つ巴だ。
どのチームも相当な実力を持っており、試合は拮抗しているように見えるが僅かに俺様最強の再宮さんがバランスよく押している。
この俺様最強のメンバーで試合をする最後の機会ということもあってか、普段以上に気合いが入っているように見えた。
音無さんが再宮のフォローをして勝田さんを落とし、お手並み拝見の風ミャが油断した音無しを落とす。だが再宮が怒りで素早く風ミャを落とした。
目まぐるしい展開が続き、その後も人数はどんどん減っていく。
試合も終盤に差し掛かり、残っているのは再宮とお手並み拝見のリーダーワン吉と流の秋城の友塚レイアナ。
再宮さんが持ち前の魔力を存分に発揮させた超広範囲の攻撃「ジデクセシオン」が2人を襲うが、レイアナが盾でしっかりまもりを固めた。一方犬ワンは犬人民族のため地面を掘って逃げの手に入った。
レイアナの最大の盾を貫き、軌道を調整して上から下に落ちてくる剣の形をしたものがワン吉に襲い掛かり回避はできなかった。
無敗の再宮が勝ち引退素晴らしい話だなと思いアイスコーヒーをごくりと飲み込んだ。
「何回見てもいい試合だな」
この試合を見るのはもう30度目だろうか。1度目はリアルタイムで、2度目はテレビで。三回目は再宮さんの解説付きの動画やレイアナの盾の講義のお手本としてこの対戦をもとに教えてくれる。
こういう良い試合を見るのは走り回りたくなるほど好きで、学ぶことが多くあるし、何より見ていて熱くなれる。そしてこの試合は俺様最強の再宮にとって特別な試合だし、より熱くなって見ることができた。
何せ、リーダーである再宮さんがパーティ戦を引退発表もあったため、致団結して勝利を導こうと必死である。感情移入してしまうのも無理はないだろう。
再宮はこの試合を最後に、本部から千葉にある船橋駅に移籍することが決定している。移籍の理由は知らない。何でファンなのに知らねえんだよ、とか言われそうだが知らんもんは知らん。
まぁ噂では千葉では低ランクの冒険者ばかりでベテランの冒険者はいないとは聞いたがそれでも再宮さんと互角に戦った千佳さんがいる。
再宮さんが自分で決めたことに口を出すつもりはない。だが悲しいものは悲しい。もし俺が移籍することになったとしたら、再宮さんは背中を押して応援してくれるだろう。これが俺たちの絆だ。絆は深い。
「ん?」
スマホから視線を上げると、見知った顔が目に付く。
金髪の男が周りをキョロキョロしながら歩いているではないか。知らない人が見たら不審者と間違われてもおかしくない。だが彼が有名人じゃなければの話。
この組織に所属していて彼を知らぬ人間はいないだろう。そんな有名な男と目が合ってしまう。次の瞬間、獲物を見るかのように野生的な目で見つめられる。カッコイイです。
「ここにいたか、京谷」
「再宮弟さん。こんにちは」
俺に話しかけてきたこの人こそ俺の尊敬する再宮弟である。
c級1位の隊長にして無敗のc級王者で、個人総合3位の強者。名実ともにボーダーのB級、A級S級の中で3番目に強い人間だろう。ただし、私生活は兄任せで家事全般は全くできない。パラメーターの全てを戦闘に振っている。実は宇宙人なのではないかという疑惑があり納得してしまう。
「いや、相変わらずレイアナと違って不細工だよな。」
「まあ、義姉なので血が繋がってないんで仕方がないのでは。」
俺とレイアナは義姉ということもあり、顔も性格も全く違う。ちなみに、勇猛果敢だけど罠にかかってしまう方が俺で、比較的動かずに守りに入ろうとするのがレイアナ。間違えないように。
「今ちょっといいか?」
「大丈夫ですよ。暇なんで」
再宮さんがこうやって話しかけてくる時は十中八九個人戦のお誘いだ。俺としては強い人と戦うのは成長に繋がるのでウェルカムだが、この人は強すぎる。だが100回やって一回は相打ちに出来る。つまり勝てる可能性もゼロではない。
「個人戦ですか?」
「いや…」
個人戦では無いようだ。何やら言いづらそうにしている。
この人が個人戦以外で話しかけてくるとなると…思いつくのはテストで寝てもいいかなだった。
「回りくどいの苦手だから…眠いわテスト勉強ってねむいよね…?……」
「本題に入ってください。単刀直入に言ってください」
単刀直入で言って欲しい。
「そう!それだ!単刀直入に言うぞ。ああそう言えば俺日直だったわ。ごめんちょっと行ってくるわ」
再宮さんは自由な人で何を考えているのかイマイチ理解ができない。音無さんが軽く手を振った。開始直後雷でも落ちたかのように衝撃的な発言をした。
「あああ。アイツ逃げたか?再宮弟はお前と話すと重要な話は逃げたくなってしまう性格があるからな。お前、ウチに入んない?」
「…ウチって言うのは、俺様最強ってことですか?」
それ以上に衝撃的な相談だった。俺が憧れの俺様最高に?…ああ、なるほど。
「音無さんのフォローをするためにですか?」
俺様最強の君主である再宮さんが抜ければ大幅な戦力ダウンだ。その抜けた分の戦力を音無さんがリーダーとして動き俺はフォローをする勧誘したってわけか。
有難いお誘いだ、が…。
「お断りします」
俺は簡潔に告げる。すると再宮さんは慌てて戻ってきてニヤリと笑った。
「そう言うと思ったぜ」
まるで予想通りといった様子だが、俺が断ることは実際予想通りだったのだろう。それもそのはず。俺がパーティに入るつもりがないというのは冒険者ギルドに噂として広まっている。
そして実際、その噂は当たっていた。俺は今のところ部隊に入るつもりはない。何故なら俺は個人戦と魔物を討伐する事だけでいいからだ。後は好きな風に過ごしたい。ある意味俺も再宮と同じダメ人間の部類だ。
「断られるのを分かってて何で誘ってきたんです?」
「俺様とレイアナがお前のことを俺様の後任として推薦したからだ」
「!…再宮さんの後任が俺…?音無さんじゃなくて」
再宮さんとレイアナは俺が部隊に入らない理由を知っている。なのに何で推薦した?
「レイアナにお前が部隊に入らない理由を聞いた。ソロなら仲間の血を見ずに済むと思っているらしいな」
「…まあ、そうですね」
レイアナの奴…話したのか。別に全然良いんだけど。
俺が部隊に入らない理由。それは仲間の血を見るのが怖い。他にも理由はいろいろあるが、その次は金が分割させて全額もらえない事だ。
俺とレイアナには4人の弟妹がいる。レイアナの血の繋がった弟妹達だ。家は決して裕福とは言えないので、俺は個人戦でたくさん勝ち続けてお金をもらう必要がある。
だから、俺は弟妹を守るためにこちらにずっと残ることに決めている。
まあ、俺自身がパーティを組む事に興味ないってのも理由の一つだけど。再宮の後継者なら別だ。
「仲間の血がながれるところを見たくないし、負けている姿も見たくない。俺は再宮さんとは違ってつよくないんですよメンタルが」
前の部隊を抜けた理由も同様だ。
パーティを結成してすぐにドラゴンと遭遇。俺以外は全滅して血が流れた。重症的なダメージを与えてしまった俺は反省した。もう二度とパーティを組まないと決めたのだった。
「兄だって強くない。いっぱいミスする。でも兄には仲間に支えられた。大丈夫だって何度も思える仲間がいた。だから兄は強くなった。仲間のおかげだ」
「その仲間が致命傷的なダメージを受けた事ないから分からないんです。ずっと致命傷的な傷は残らないように討伐してきた貴方に何の気持ちはわかるんですか?貴方たちはパーティ結成してから最強なんだって知っているんですよ」
俺の言葉に再宮さんは納得する。
「そういうわけなので。お誘いは嬉しかったです。ありがとうございました」
「よし、お前ウチ入れ」
「話聞いてた?」
俺の言葉を遮って再び勧誘してくる再宮さんに対し、思わず敬語なしで反応してしまう。今、理由もちゃんと言って断ったはずなんだけど。なんなら断り続けるのは心にもダメージが溜まるんだよ。本当に話聞いてなかったんじゃないか、この人。そんなだから小学生からお兄ちゃんより僕たちの方が賢いねと言われるだよね。
「隊長一回断られたら辞めるんじゃなかったんですか?」
「音無だってわかるだろう。こいつにしか任せてられないって。お前じゃ俺の代わりは出来ないって。油断しなければいいけど大事な場面で油断する。それを全部補えるアタッカーが必要だって」
「バカなのか賢いなのか先輩はよくわからないです」
大事な話だけど俺は入らないよマジで入らない。
「俺様のパーティはなぜ血を流すことはなかったと思う」
「それは個人一人一人の技量が凄いからではないのですか」
話が見えないな。入らないって分かる俺に俺を勧誘する再宮さん。わからん。どういうことだってばよ。再宮さん、とうとう老人にったのだろうか。失礼老人が可愛いそうだ。
「それに俺様が風邪ひいたら3人でいかせていたし。それでも血が流れる重症の怪我は負っていない。つまりお前に心配する必要はないって事だ」
その理屈は正しい。優秀な人材と判断力を持つ仲間がいればこのトラウマから解放される。
「何故、俺を誘うんです?戦力的には問題ないでしょう?」
俺が問うと、再宮さんは「あ~~」と唸りながら頭をポリポリと掻く。数秒後、言い辛そうに口を開いた。
「あー、まあ、あれだ。レイアナには内緒にしろって言われてるけど…まあいいか」
良いのかよ。勝手に言うのは良くないと思うが、再宮さんは本当に言っちゃダメなことは言わないタイプの人間だ。だから、言っても大丈夫なのだろう。……そう言えばレイアナの悪口言ったのをバラされた。くぅ嫌な奴。
「レイアナに頼まれたんだ。弟が部隊を抜けてから寂しそうだから、再宮様のパーティに入れてやってほしいって」
「あいつが…」
レイアナがそんなことを言うなんて完全に予想外だった。確かに、部隊を抜けてから…自分の実力不足というか寂しさというか、何とも言えない感覚が胸の中にあった。それを毎回救ってくれたのは再宮さんの戦う姿だった。
3ヶ月程経った今でも、その絶望感を感じててくる。誰にも指摘されなかったし、自分でもいつも通りやれてると思ってたんだが…師匠である再宮さんには誤魔化せないな。
「ま、無理にとは言わないけど」
再宮さんはそう言うが、俺の心は決まっている。
「いえ、入ります」
「音無聞いたか?」
「はいこれで京谷さんは私のものですね」
俺の返答を聞いた慶さんはびっくりしてテンションが高くなった
「そんなに驚きます?そっちが誘ってきたのに」
「いや、まさかそんなにあっさりとは思わないだろ。俺と勝負して勝ったらいう事を聞けって言おうと思ったんだけどな」
「あー、なんか、それ。再宮先輩ってバカなのか賢いのか分からないです。1➕1 」
「え…何それ、俺の扱い雑くない?100だろうバカ」
「2ですよ。ニッコリ笑う京谷君素敵ですって覚えるんです」
「あそう」
苦笑いしながら再宮さんが言うので思わず笑ってしまう。
その様子を見た再宮さんは、不機嫌そうな顔で言った。
「なに笑ってんだよ」
「ふふ…すみません。大好きですよ再宮さん」
「女を惚れさせるの上手いじゃないか?」
「そうですか?俺は再宮さんが好きなホモですよ」
「あのな私には兄がいない。アイツは女だぞ」
「ヒャい。女でしたか。それでも好きです」
俺が言うと、再宮さんは先ほどとは打って変わって照れくさそうに鼻を掻く。搔きながら「おい、やめろよ…愛してるぜきょ」とか言ってる。
この人、相変わらずチョロくて面白いな。アホだし。反応が見てて楽しい。まあ尊敬してるのは本当だからいいだろう(私生活を除く)。
「よし、じゃあ早速…」
「はい」
すっかり上機嫌な慶さんが明るい声で言う。
そうそう、早速手続きの書類を作りに…。
「入隊祝いに個人戦をして一緒にお昼寝するか!」
なんでだよ。こうやってこい一日が始まるのだった
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