SPEEDY AGE -夢のありかと歴史の亡霊-

梓馬みやこ

プロローグ

 その日、渋谷は霧に覆われていた。

 天候にもよるが秋冬の早朝、夜間には23区内でも霧はよく発生する。

 渋谷においては2022年1月にも視界が10メートル以下にまで低下し、歩行者が道に迷ったり転倒するといった記録が残されている。

 前後してその前年、翌年にも似た現象が起こっていることから近年は毎年一回程度の恒例行事にはなっているようだ。

 だがこの日は5月25日。

 通常であれば霧が出るような条件が満たされる季節ではなかった。


 季節、天候、時間。

 どれをとっても異常としか思えない現象だった。

 その異常の原因は、今日をもって排除されようとしている。



 司は霧で徐行を余儀なくされた車の列を掻い潜り、危険速度で走り抜けるバイクを追っていた。

 霧が充満していて”上”の移動が厳しい。かといって”下”に降りれば障害物が多すぎて追跡ができない。

 速度を落として出来る限りの速さで移動するしか状況に予想外の苦慮を強いられる。


「白上!」


 その時、後方で渋滞する車の波をすり抜けながら、バイクを走らせた寒川が叫んだ。。

 司が振り向いたのを確認して、寒川はジェスチャーで親指で自分の後部を指し示す。

 すかさず司は移動経路の高所から身を翻し、進行の軌道を変えると白バイの後ろに着地する。

 衝撃はあったものの走行は乱れることなく、バイクはうなりとともに速度を増した。

 制服の白いロングコート裾がそれにつれて激しくなびく。

 白バイ二人乗り。構うことなく寒川はなぜか笑っている。


「さすが特殊部隊だ。あんなに簡単に飛び移って来るとは」

「寒川さん、スクランブルまでまだ距離があります」

「わかってる。飛ばすぞ。バランス取っとけよ」


 交通機動隊隊長、寒川が司を自分のバイクに乗せ、更にスロットルを力強くオープンする。

 エンジンを力強く唸らせながら、白バイは深い霧の中に消えて行った。



 全てはその日、5月25日に収束する。

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