第3話 明珍火箸の音色

朝の光が差し込む中、翔太は再び姫路の街を歩いていた。今日の目的地は、明珍火箸の工房だ。彼は以前からこの工房に興味を持っており、その音色に心を奪われていた。火箸の音色は、まるで風鈴のように澄んだ音を響かせ、心に安らぎをもたらしてくれる。


工房に着くと、迎えてくれたのは明珍さんだった。彼は四代目の職人であり、その技術は代々受け継がれてきた。


「いらっしゃい、翔太さん。今日はどんな風の音を聞きたいですか?」明珍さんは温かく声をかけた。


「こんにちは、明珍さん。火箸の制作過程を見学させていただきたくて来ました。あの音色が大好きなんです」と翔太は少し緊張しながら答えた。


「それは嬉しいことです。さあ、どうぞ中へ」と明珍さんは翔太を工房の中へ案内した。


工房の中には、様々な火箸が並べられており、それぞれが異なる音色を持っている。翔太はその美しさに目を奪われた。


「この火箸はすべて手作業で作られています。鉄を叩いて形を整え、音色を調整するのが私たちの仕事です」と明珍さんは説明した。


翔太は工房の隅にある作業台に目を向けた。そこでは鉄を加熱し、ハンマーで叩いて形を整える職人の姿があった。そのリズミカルな音と、火箸が持つ独特の音色が工房内に響き渡っていた。


「この音は本当に美しいですね」と翔太は感嘆の声を漏らした。


「そうでしょう。音色を調整するのは非常に繊細な作業です。耳を研ぎ澄ませて、最も美しい音を探し出すのです」と明珍さんは微笑んだ。


翔太はしばらくの間、その作業を見学していた。その間にも、工房の中で鳴り響く音色は、彼の心を穏やかにしてくれた。


「この音色は、まるで心の中を洗い流してくれるような感じがします」と翔太はつぶやいた。


「音には不思議な力がありますね。私たちの仕事は、音を通じて人々に喜びと安らぎを提供することです」と明珍さんは答えた。


見学を終えた翔太は、工房を後にした。明珍火箸の音色は、彼の心に深く刻まれていた。その音色が、彼の創作意欲をさらに刺激してくれるだろう。


午後の仕事に向かう途中、翔太は今日の経験を思い返しながら歩いていた。火箸の音色が頭の中で響き続け、その余韻が彼の心を包み込んでいた。


事業所に到着すると、翔太はいつものように作業に取り掛かった。今日は特にアクリルスタンドのデザインに力を入れた。明珍火箸の美しい音色が、彼の頭の中でインスピレーションを与えてくれたのだ。


「翔太くん、今日は何か良いことでもあったの?」と田中さんが声をかけた。


「はい、明珍火箸の工房を見学してきました。その音色が本当に美しくて、心が洗われたような気持ちです」と翔太は答えた。


「それは素晴らしいね。そのインスピレーションを作品に生かしてみては?」と田中さんは励ました。


翔太は微笑みながら頷いた。火箸の音色が、彼の新たな創作の源となることを確信していた。


姫路の風が、また新たな一歩を踏み出させてくれた。その風に乗って、翔太の物語はこれからも続いていく。

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