反対側の住人

釣ール

第1話:我らの日常

 周りがもう自分達の道を見つけて歩くようになって二年。

 九能鴉魂くのうれいぶは一人スーパーで買ったケーキで初夏の誕生日を祝う。


「いいねえ。アプリでハッピーバースデーなんて。」


 ちっとも良くない。

 まるで女性向けドラマのようなソロの押し付けに屈した二十歳を迎えた男性への世間の見方は厳しい。


 ま、そんな相手も家の中ならいないので自由にやれるわけだが。


 動画制作も好きなジャンルやりすぎてどん詰まって適当に働いているが先が見えない。

 もっと他ジャンルを見つけられないかなあとは考えている。

 かたよりすぎて新たな楽しみの流れに乗れなくて後悔してばかりいたからなんとか外出や仕事先で面白そうなジャンルを探っている。


 まだ動画製作者としてのやる気はなくなっていないのかもしれない。

 これも先の人生で休み続けるための準備に過ぎない。

 嫌いよりマシってだけの話だから。


『やっとテスト終わりました。

 鴉魂さんはお暇ですか?』


 天溢涼鳴いれいぶりょうが

 今年十八歳の男子高校生。

 そして鴉魂の後輩。


 仕方なく文武両道で育ってグレかけた所を鴉魂が声をかけたらついてきた年頃の青年だ。


「暇だけど金欠で相手できねえよ。」


『金欠なら金欠で楽しめることもあるかもしれませんよ?』


「反対側の住人として過ごしてる俺と将来が約束されたお前とは違うからなあ。」


 リモート会話で話しているからか画面越しで一旦間があった。


 ちょっと前まで文武両道でグレて人より劣っていたい!とか言ってた涼鳴りょうがは切り替えて文武両道を利用して大学進学を目指している。


 涼鳴は競技も喧嘩も得意で鴉魂は死にかけたというのに。


鴉魂れいぶさん変わりましたね。』


「こっちのセリフだ!

 涼鳴りょうが。お前は不可思議研究を目指してよく分からない学科に行くらしいがそれは表向きで人間関係に苦労しなさそうで夢がありそうな第一志望を添えてフリーランスか金になりそうな仕事で歯車になるつもりだ。

 反対側じゃねえよそんなの。」


『反対側ですよ。

 鴉魂れいぶさんが変な意地張って金欠なだけで。』


「お前ムカつくな。

 俺がお前に勝てないからって好き放題言いやがって。」


『やっと食いついてくれました。

 ストレス発散に少しカメラもらえませんか?』


 どういう理屈だ。

 不可思議研究をしているのは表向きの不思議属性だと思っていたのに二人で動画制作していた頃の思い出がよみがえったのか?


 結局涼鳴りょうがに呼び出されて夕方に近所にいるらしい外来種捕獲に付き合わされた。


「確かに反対側だよ涼鳴。

 よく食えるな。」


「心霊現象ついでに食糧確保。

 いい経験だとは思いませんか?」


涼鳴りょうがって料理美味かったんだな。

 やっぱ選択肢って多い方がいい。」


 あとは無言で焚き火をし、すでに燻製くんせいしたらしい他の外来種を備蓄びちくとして渡してきた。


「あとは鴉魂れいぶさんが俺の文字を刻んでくれれば霊現象はおさまるのですが。」


「なんだ?俺が半分暇人の反対側人間だからって頼みたいことがあるのなら言えよ。」


 しまった。

 つい涼鳴りょうがのペースに。


「じゃあ新しい備蓄手に入れるついでに二人でストレス発散しますかあ。

 実は関東のある場所で・・・。」


 副業が面倒で特に仕事を入れてなかったから好都合だ。

 それよりも…。


「先輩としてプレゼント。

 限定カップラーメン。

 ここで渡す。」


 そういえば昔もカップラーメンでグレた涼鳴りょうがをなぐさめたなあ。


 十八歳だが目を輝かせて喜ぶ涼鳴りょうが

 強がりは毒だと二人は学んだ。

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