第10話

「……分からん。さっぱり分からん」

 いつもの散歩中、いつものようにあおつぶやく。

「なぁ、ぽち。この時期の服装の正解って、なんやと思う?」

 それ、犬の俺に聞くことか? 俺が服着るのは、青の母親が気まぐれに無理やり着せてくる時しか無いのは、よく知っていることだろ。

 まぁ、確かにこの頃は暑かったり、寒かったりするが。

「今日、暑いやろうなーって時は、夕方寒くなるし。朝寒いときに限って、昼間暑いし。なんやねん。天候操る神様、テキトーにやってるんか?」

 青じゃないし、そんなことないと思うが。

「そうなると、困るのは服装やねん。半袖と長袖、どっち着るか悩む時間がもったいないし……。私は、朝忙しいというのに」

 お前が、朝忙しいのは、時間ギリギリまで寝ているからだろ。もう少し早く起きれば、あんなにバタバタと準備することもなくなるだろうに。何かのせいにしないと気が済まないのか?

「……いっそのこと、くじ引きで決めればいいんちゃう?」

 それは、絶対に違う。

「そうやん。暑いか寒いか分からん、って場合でも確立としては半々やん。くじも半袖、長袖で半々な訳やし」

 いや、半袖の上に長袖の上着を着て、暑かったら上着だけ脱げばいいだろ。もしくは、長袖着て行って、腕まくりするとか。

「んー、でも雨とかで目に見えて寒い日に半袖とか引いたら地獄やな……。そう考えたら、男の人って楽やな。暑かったら、脱いで上半身裸になればいい訳やし。女子にはできん芸当や」

 男でも町の中で、上半身裸で居たら職務質問だろ。

「あれ? それやったら、女子も半袖着て、長袖の上着羽織って、暑かったら上着脱げばいいんじゃ……?」

 そうだぞ。

「……ぽち。私は、天才かもしれない」

 いや、犬以下だ。残念だがな。

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