第2話

「ぽち。ちょっと休憩していいか?」

 散歩に出てから20分程経ったとき、公園に入りつつ、飼い主のあおがそう言った。

 どうせ俺の意志など特に留意りゅういしないのだから、勝手にとればいいだろうに。

 普段は、身勝手に俺を振り回す癖に変に律儀な奴である。

「ふぅ、今日暑くないか? ぽちは、そんなに毛むくじゃらで暑くないんか?」

 公園に置かれたベンチに腰掛ける青。俺は、別に好きで毛むくじゃらな訳ではない。犬なんだから仕方ないだろ。

「お? いいもんあるやん」

 座ったと思ったら、青はすぐに立ち上がる。そして向かったのは、水飲み場だった。

 公園によくある、あの下に普通の蛇口があり、上に人間が飲む用の変なシルエットの水の出るやつがあるものだ。

「ほれ、ぽち。お前ものど乾いてるやろ」

 青は、水飲み場の下の蛇口から水を出す。

 俺は、ありがたく水を頂戴する。うん、良く冷えていてうまいな。

 ふと、青の方を見ると、例の上の変な蛇口を前に、青は固まっていた。

 どうしたんだ。さっさと飲めばいいのに。

「……なんかキモいな」

 は?

「よく考えてみてや、ぽち。これ、不特定多数の人間が使っているやつやん」

 まぁ、そうだな。

「そして、構造的に口を下に向けて水飲むやん」

 まぁ、そうだな。

「ってことは、誰かの唾液もこの、ほれ……これにつくやん。なんかキモない?」

 お前、そんなことを気にする奴だったか?

 別に回し飲みとか、友達としてたろ。

「そう考えると、なんか飲みたくないな……。しゃあないわ。自販機行こうか」

 気になるなら好きにすればいいが……。

 というか、唾液がついているのが気になるとか言うが、構造的に出てきた水で洗い流されるんじゃないか、これ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犬の気持ち きと @kito72

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ