2、二次試験の前、控え室にて。
そして時はたち、ララは14歳の誕生日を数週間後に控えていた。
ララは、なんでもないような顔をして馬車に乗りつつも、ドクドクと脈打つ胸に手を当て、はぁ、とため息をついた。
今日は一級魔法士昇格試験が、郊外にあるアリシアの家から少し離れた首都で開催されるのだ。
『ララ、先に言っとくけど、明日の試験で落ちたら誕生日のご馳走までごはん抜きだから。ごはん食べたかったら、ちゃんと合格してきてよ』
昨日、試験に備えて早く寝ようとした時にアリシアに言われた言葉を思い出し、ララはもう一度ため息をついた。
アリシアは、ララにとって育ての親でもある。6歳の頃に拾われてから、約8年、ずっと育ててくれた。そのことには感謝しているし、そのある意味わがままとも言えるアリシアの決定を受け入れ、養子にとってくれたアリシアの夫・ガインへの感謝は山よりも高く海よりも深いものだ。
しかし、そうだったとしても、アリシアのスパルタ修行は許せないと思う。
与えられた課題を達成できなければごはんを抜くのは当たり前で、訓練の名目で徹夜で魔法訓練場で新しい魔法の開発に付き合わされた事だって一度や二度じゃない。そしてまたもや、アリシアは『試験に合格しなければごはん抜き』などと
試験に合格したら、合格祝いをたっぷりいただくことにしよう、とララは決意した。
「…つきました」
乗合馬車の御者が、御者席からぼそぼそとそう声をかけてくる。ララは腰を上げて、地面に降り立った。
乗合馬車の時刻表に、本来この便は存在しない。しかし、今日は大陸中から優秀な魔法士達が集結する一級魔法士昇級試験の開催日。開催場所である大陸魔法士協会本部近辺を目的地とする乗合馬車を走らせれば、臨時で便を出すのに必要な経費を上回る収入を得られることぐらい、多少頭が回る人間であれば明らかである。
「…嬢ちゃん、運賃。」
「おいくらですか」
「…銀貨2枚だよ」
「どうぞ」
またもやボソリと、御者がララに声をかける。ララは御者に言われた通り、財布から銀貨を2枚取り出して御者の差し出された手のひらに乗せると、御者に「ありがとう」と言って協会の本部へと歩き出した。
協会までの道中で立ち寄った街は活気に溢れている。
市場の店主たちは、皆明るく社交的で、よそ者も大歓迎、と言わんばかりである。
買い出しがあったララは市場でそれを買い込んで、袋に入れてもらうと協会の本部の方へ足を速めた。
「よくぞいらっしゃいました、ララ三級魔法士」
「c…アリア二級魔法士、お久しぶりです。…三級魔法士昇格試験ぶりでしたっけ」
協会の本部に到着したララをエントランスで出迎えたのは、二級魔法士であるアリアだった。三級魔法士昇格試験の際には試験官も務めるような優秀な魔法士である。
「もう三年前になるんですか…。あの時はまだ幼くて、あの攻撃魔法に驚いたけど…随分と大人びちゃって」
「もう十四歳ですから。…十一歳のころと変わってないなんて言われたら、流石に凹みますよ」
頬に手を当ててため息をついてみせるアリアの言葉に、ララは受験票に必要事項を書き込みながら言葉を返した。
「…書けました」
「はい、これで大丈夫です。それじゃあ、受験者の控え室でお待ちください。控え室はあそこの突き当たりを右に曲がって、すぐのところにあるので」
受験票を確認して、棚にしまったアリアが指した方へ、ララはアリアに頭を下げてから歩き出す。
控え室のノブに手をかけ、扉を開けると控え室の中には既に数人の受験者が集まっていた。
「お、クロムシェルトじゃねぇか」
「こんにちは、ララちゃん」
今日行われるのは二次試験である面接だ。必然的に、一次試験を突破した面識のあるメンバーが集まっている。
「…ガイルにシリル。久しぶり」
そのうち、大きいソファに座っていた銀髪でガタイのいい男と、金髪碧眼の細身の男が、ララに声をかける。
銀髪の大男はガイル、金髪の痩せ型はシリルと言い、チームを組んで行なった一次試験でのチームメイトである。
二人が座っていたソファの隅に腰を下ろしたララは、かばんの中から一冊の本を引っ張り出した。
「クロムシェルト、その本は?」
「…『魔導書の図書館』シリーズ記念すべき50作目『魔導書の図書館と
「…なんだよその厨二病丸出しのタイトルは」
ララが表紙を見せてそういえば、ガイルから突っ込みが返ってきた。
「…別にいいでしょう。厨二病の本は厨二病じゃないと読めないわけじゃないし」
「そうだよ、ガイル。人が本を読み、幸福を感じることを止めるのはあってはならない事だと、君が一番わかっているだろう?」
ララとシリルに立て続けに言い返されてしまったガイルは口を不満げに尖らせてみせた。
「そんなことぐらい分かってらあ」
「…なら、いいの」
「ガイル、発言には気をつけなよ。君はほぼ確実に一級魔法士になるし、そうでなかったとしても、この国の魔法兵団で今一番勢いがある奴だ。この先、君は発言力を持つことになるだろうさ。その時に、あんまり軽薄なことばかり言っていれば信用がなくなって、瞬く間に無一文になるぞ」
「ご教示ありがたいぜ」
ソファに座った三人は、軽口を叩き合いながら、面接試験の開始までの時間を待つ。
他の受験者も、一次試験時のチームで固まって待ち時間を潰しているようだ。
そして、少し経った時、控え室の扉を、試験管と思しき魔法士が開けた。
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