〝黄昏の賢者〟
黒谷月咲(くろたにつかさ)
第一章
1、〝偉大な魔法士〟になるために
銀髪と紫色の瞳を持つ美少女ではあるものの、それ以外の点においては平凡な、大衆食堂の娘で6歳のララ。
しかし、ある日住んでいた村が魔族に襲われ、村は壊滅してしまった。村人の中で唯一生き残り、途方に暮れていたララを救ったのは、たまたま通りすがったという女だった。
「物凄い魔力をあなたからは感じるよ、弟子にしたいくらいだ」
燃えるような赤髪に、アメジストのような紫の瞳を持つその女は、〝朝焼けの大賢者〟ことアリシアだった。
この出会いこそ、世界を変える為の最後の歯車だった。
その後、ララはアリシアに弟子入りすることになった。身寄りがいないことから、アリシアに基本的な勉学も学んだが、殆どの時間は魔法の修行に費やされた。
魔力制御、魔力制限。魔法精度の底上げと、詠唱短縮。
様々な修行を行った結果、ララは弱冠11歳にして大陸魔法士協会の等級において一人前とされる三級魔法士資格を最年少で取得するまでになったのだ。
「ララ、おめでとう。これ、お祝いだよ」
三級資格取得試験の合格祝いのパーティーを開いたアリシアは、ララに黒い布のケースを渡した。肩紐のついた、ララの背丈よりも大きくアリシアの身長ほどあるケースである。
「…なんですか、これ。…
「もう、きちんと誕生日は祝ってたでしょ?でも、それは魔法士として活動する上で、必ず必要になるものだよ」
軽口を叩きつつ、ケースのジッパーを開けると、中に入っていたのは細長い棒だった。先の方についた装飾まで含めれば、160cmほどあるだろうか。
「…杖、ですか?」
「そうだよ。王都の将来有望な若い杖職人に依頼してね。私が持ってる杖の片方を作ってくれた人なんだけど」
「…でも私、杖無しで第6階位までの魔法を使えますよ?」
先に紫水晶が嵌められた杖を眺めながら、ララは疑問を口にした。
魔法には第1階位から第11階位が存在する。
第1階位から第3階位までは攻撃魔法の原型や民間魔法、基本的な攻撃・防御魔法が含まれ、第9階位から第11階位までは超強力な攻撃・防御魔法や、結界魔法、特殊魔法などがある。
第5階位までを使えれば十分優秀で、それより上の第6階位を使えれば十年に一度の優秀な人材と呼ばれる。それを杖なしで使えるララは、かなりの秀才と言える。
しかし、アリシアはそれではダメだというのだ。
「うん、そうだね。それは知ってるし、凄いと思うよ。でも、それじゃ強い魔法使いにはなれない。それじゃ、一生三級止まりだ。それは嫌でしょ。
貴方には可能性があるんだよ。それを最大限引き出すには、第6階位以上の魔法を使えるようにしなくちゃいけない。最高位の第11階位の行使だって最終的に使えるはずだし、そうならなくちゃいけない。その為に、杖を使った魔法発動は必要不可欠なんだよ」
「でもね、今までララに杖を使った魔法を教える気はなかった。第5階位ぐらい、杖なしで使えなきゃ〝偉大な魔法士〟にはなれないと思ってたから。
杖なしで三級になれるようなレベルにまで持って行ってからじゃなきゃ、ララの本当の力を出すような修行は早い。杖を使った魔法は早かったんだ」
アリシアの言葉に、ララは目を瞬いた。
どうやら、アリシアはララが思っていたより弟子に対する思い入れが強いらしい。そして、ララを偉大な魔法使いに育て上げるつもりだったようだ。
「だけど、ララは本当に杖なしで三級魔法士になった。だから、今度は更なる高みを目指す時だ。杖を使って魔法を行使し、最高位の第11階位も行使できるレベルまで引き上げる、ここからは本気でやるよ。ついてきてね」
師匠の思わぬ情熱に軽く目を見開いていたララは杖をケースにしまうと、「はい」と頷いた。
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