リアル小説

天川裕司

リアル小説

タイトル:(仮)リアル小説



▼登場人物

●五月 仁(さつき じん):男性。40歳。貿易業者で働いているが本業は作家。サイコパス。

●五月 佳代子(さつき かよこ):女性。39歳。仁の妻。仁にまともに働いてほしいと願い続ける。

●賀来生 説子(かくしょう せつこ):女性。40代。仁の夢と欲望から生まれた生霊。

●店員:女性。20代。一般的なイメージでお願いします。


▼場所設定

●仁の自宅:都内にある一般的な戸建てのイメージで。

●HOUSE OF NOVELS:お洒落なカクテルバー。外見や内装は小説喫茶の感じ。


▼アイテム

●Novel Dream:説子がオーダーする特製のカクテル。これを飲むと一時的に才能が開花する。

●Real Story:説子がオーダーする特製のカクテル。これを飲むとリアルそのものを小説に描ける能力が具わる。

●参考書:手に取ったその人の人生の手引きになる。仁の場合は作品制作の為「殺人の手引き」になってしまった。


NAは五月 仁でよろしくお願い致します。



イントロ〜


皆さんこんにちは。

ところで皆さんは今、生活の義務と、趣味の両立ができていますか?

生活の義務というのは例えば仕事、

更に結婚している人は家族を養う事。

他にもいろいろありますが日常生活を送る上、

どうしてもしなきゃならない事が含まれるでしょう。

そうした事と趣味とは得てして相反する事があり、

なかなか両立しないものです。

小説家になる夢を諦めて平凡なサラリーマンになった…

なんて人のエピソードを

あなたもよく聞いてきたのではないでしょうか。

今回は、そんな生活の義務と趣味の両立に悩み果てた

ある男性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈自宅の2階〉


仁「よし、ここでこうなってああなって…へへ、今回は結構イイ出来だぞ…」(小説を書いている)


俺の名前は五月 仁(さつき じん)。40歳になる妻帯者。

一応、仕事は都内の貿易業者で働いているが俺の本業は作家だ。


俺の住むこの界隈に出版社はほとんど無く、

あったとしても社員枠は全部飽和状態で、

幾ら就活に励んで見ても、転職を希望してみても

これまで1度も採用された事がない。


もう15年以上就活を繰り返し、

それでも出版社には無縁だったので、

「俺にはもう世間でまともに出版の仕事に就く事は無い」

と自ら諦め、それならと自分で原稿を書きそれを製本し本にする。

つまり自費出版を自宅オフィスでしてやろう…

そう思い、ある時から仕事との両立でこの本業を始めた訳だ。


まぁ自費出版といっても

掛かる費用は文房具代とコピー用紙とインク代だけ。

まともに自費出版するより遥かに手頃で

無駄金を払う必要もない。


仁「よぉし出来たぁ!グフフ、これは良い出来だ♪どこに出しても恥ずかしくないサスペンスもの!」


俺が書くジャンルは主にサスペンスとホラー。

時にミステリものをシリーズ化して書く事もあり、

それも全部自分の部屋で出版するから

編集者や読者の批評を一切気にする事なく

自分の書きたいものだけを存分に描いていける。


仁「なんでこんなイイ仕事、もっと早く気づかなかったんだろう♪よぉし、これからもどんどん書きまくっていくぞぉ」


でも、この本業をし始めてから数ヶ月…いや数年後。

段々とトラブルが俺の周りが起き始めていた。


佳代子「ちょっとあなた!まだそんな事やってんの!?夜は早く寝て、ちゃんと仕事をして下さい!昨日、昼間にあなたの会社から電話がかかってきてねえ、上司の人からまた言われたわよ!あんた、会社で居眠りばっかりしてるそうじゃないの!いい加減にしてよ!」


仁「あ、ああ、ごめん。いやそんなつもりじゃないんだけどさぁ、最近やってる仕事がホント忙しくてねぇ…」


佳代子「仕事ってアレ趣味でしょう!」


本業に没頭する余り、会社で居眠りして上司に怒られまくる。

それが理由で奥さんにまでハッパをかける勢いで、

妻の佳代子もよく会社からそんな電話を受けるようだ。


それで佳代子は最近ずっと激怒しまくり。

俺がしてる本業を「趣味に過ぎない」と言い放ち、

「会社でのまともな仕事のほうに没頭しろ!」

と一辺倒に言ってくる。


まぁ世間ではこれが当たり前の事なんだろう。

でも俺にはこの当たり前の事がどうしても受け入れられず、

日に日にストレスが溜まっていった。


ト書き〈バー『HOUSE OF NOVELS』〉


そんなある日の会社帰り。

俺はすぐに家に帰る気がせず、

どっか喫茶店にでも入り、

そこで気分を落ち着けてから帰ろうと思った。


いつも行く喫茶店街を歩いていると…


仁「ん、あれぇ?こんな店あったっけ?」


目の前に『HOUSE OF NOVELS』という店が建っている。

昨日まで確か無かった筈なのにいきなり現れた店。

新装開店でもしたのかと少し興味を引かれ、

ちょっと不思議な気分で中に入った。


仁「うわぁ…」(感心するように)


入ると少し驚いた。

まるでそこはマンガ喫茶ならぬ小説喫茶。

漫画の代わりに小説がずらりと並べられてあり、

それを読みながらソフトドリンクを飲む事ができる。


俺はこう見えて大の小説好き。

まぁ作家をやってるから当たり前かもしれないが、

そこは俺にとってパラダイスのような場所だった。


仁「いやぁ凄いなぁ!こんな店が建ってくれたなんて♪」


俺は早速2〜3冊書棚から本を抜き取り、それを持って席に座った。


店員「いらっしゃいませ♪ご注文をどうぞ」


そう言って店員がメニューを持ってやってくる。


仁「ん?あ、ここカクテルバーだったんだ?」(メニューに沢山お酒も載っている)


てっきり喫茶店かと思っていたが、

そこはどうやられっきとしたカクテルバー。


でもソフトドリンクもやっていたので

とりあえず俺はコーヒーを注文。

そしてコーヒーをちびちびやりながら好きな本を読み続けていた。


するとそこへ…


説子「こんばんは。何の小説を読んでらっしゃるんですか?もしよかったらご一緒しませんか?」


と、歳の頃、俺と同じ位の女性が声をかけてきた。


仁「え?あ、はぁ…」


別に断る理由もなかったので

とりあえず俺達は向かい合って一緒にコーヒーを飲み、

お互い好きな本を読み合ったりした。


彼女の名前は賀来生 説子(かくしょう せつこ)。


仁「か、変わった名前ですね…」


都内でライフコーチやヒーラーの仕事をしていたらしく、

また彼女も俺と同じように小説好きだった。


仁「へぇ、あなたも小説が?」


説子「ええ、大好きです。暇があれば本を読んでるような生活で♪ここ、本が沢山あるでしょう?だから私の行きつけにしようと思いまして」


仁「あはは、そうだったんですね」


俺達はそれなりに話が弾み、改めて軽く自己紹介し合いながら

何となく悩み相談のような形になっていた。


仁「ふぅ。ホント疲れますよ。出来れば趣味の小説書きを本当に自分の仕事にしたいんですけどね…」


説子「でもそうすると稼ぎが無く、その仕事の維持費でお金は出る一方。奥さんにも会社の人にも叱られて、ちょっと二進も三進もいかない状態になっている…という事ですか?」


仁「ははwええ、まぁ…」


彼女は少し不思議な人。


一緒にいるだけで心が和んできて、

なんだか自分の事を話したくなってくる。

俺が悩みを打ち明けたのもそんな経過があったから。


でもそこで彼女はまた改めて不思議な事を言ってくる。


説子「実は私、この店には実は前に1度来ておりまして、あなたにもぜひお勧めしたいカクテルがあるんです」


そう言って説子さんは一杯のカクテルをオーダーし、

それを俺に勧めてきた。


仁「え?これは…?」


説子「それは『Novel Dream』というカクテルでして、それを飲めばきっと今のあなたの悩みも少し軽くなるでしょう。騙されたと思って、1度飲んでごらんなさい。きっと今より明るい未来が開けると思います」


仁「は…はあ?」


いきなりメチャクチャな事を言ってくる。

もちろん信じられない。

信じられる訳ないのだが、やはり彼女にそう言われると

段々その気になってきて…

俺はそのカクテルを一気に飲み干していた。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。


仁「う、うそ、本当に?」


信じられなかった。あれからまた新しく書いた小説を文学賞に応募してみたところ、

俺のその作品が大賞に選ばれ、賞を受賞したのだ。


「おめでとうございます!」


沢山のメディア関係の人達からも俺は絶賛され、

それから小説家の道を本格的に歩む事になりかけた。


佳代子「あなた、今までごめんなさい。あなたのしてきた事、馬鹿にするような事ばっかり言ってきて。これからはどんどん書いて!」


妻もその時は心から喜んでくれていたのだが、

俺が調子良かったのはその1作限りで、

その後はどんどん廃れていった。


仁「ダ…ダメだ!こんなんじゃダメだ!一体どうしたんだよ俺!」


何にもアイデアが浮かばず、書くネタも尽きて、

原稿に筆を載せても1文字も書けなくなってしまった。


そのうち原稿依頼も途絶えてしまい、また元の木阿弥。

メディアは俺から離れ、やがて妻も…


佳代子「あなた!やっぱりあなたに才能なんか無かったのよ!もうイイからそんな事すっぱりやめて、会社でまともに働いてちょうだい!」


仁「あ…!」


その時せっかく何行か書いていた原稿も妻に破られてしまい、心はどん底。

トホホ状態になってしまった。


ト書き〈『HOUSE OF NOVELS』〉


そして俺は又あの店にやってきた。


仁「はぁ…やっぱり小説家の夢は諦めなきゃならないのかなぁ。妻の言うように、ちゃんと会社で働いて、固定収入を貰って、そこら辺のサラリーマンと同じように生活していかなきゃ…か」


そうしていると…


説子「あ、五月さん?ウフ♪またお会いしましたね」


説子さんがいつの間にか隣の席に座っていた。


仁「せ、説子さん…!?」


少し驚きながら彼女を見つめていた俺。

でも彼女をそうして見ている内に

俺はまた彼女に甘えたくなってきて、

今の悩みを全てまた彼女に打ち明けていた。

どうにかして欲しかったのだ。


説子「あら、よかったじゃありませんか♪それは本当におめでとうございます」


仁「あ、ははwいやぁ有難うございます。…でもあれからちっとも書けなくなったんです。どういう訳だか、全然筆が乗らないで、書く為の才能が尽きてしまったのか…。このままじゃ本当に僕、今のあの本業から離れ、周りの平凡なサラリーマンと同じような人生を…」


俺は世間を少し恨み始めていた。

自分の思い通りにならないその定めのようなものを恨み、

妻を恨み、自分の今の才能の無さを蔑んだ。

でも説子さんはそんな俺の心を嗜めるようにして…


説子「平凡とおっしゃいますけど、人が生きる上で『平凡な人生ほど偉大なものは無い』とも言いますよ?いかがです?ここいらで現実と夢とをしっかり分けて、あなたは奥さんの元へ帰り、その偉大な平凡な人生を全うする気にはなりませんか?」


仁「え…?」


説子「世の中には夢を叶えられず、それを趣味として生きる人も非常に多いものです。でもそれは恥じる事でも何でもなく、寧ろ恵まれた人生。そもそもあなたも、そこから出発していたのではありませんか」


そう言って、今の俺の生き方を軌道修正するような

そんな言葉を延々並べ立ててきた。


でもそれを聞いている内に

俺はなんだか無性に腹が立ってきて…


仁「そ、そんなこと言われなくても解ってますよ!解ってるけど、どうにもならないから悩んでるんじゃないですか!僕は、趣味を仕事にしたいんです!本業にしたいんです!それでお金を稼いで、妻と子を養えるような、そんな生活をしたいとずっと思い続けてきました!でも今のこの自分の体たらくを思えば…」


彼女は延々俺の愚痴を聴いてくれていた。

何の解決へのメドも無く、ただ子供のように泣きじゃくってる

そんな俺の戯言を。


そして…


説子「そうですか。そこまで思い詰めて居られたんですね。良いでしょう、分かりました。では、あなたのその望みを叶えて差し上げましょうか?」


そう言って、さっきまでとは180度その姿勢を変えて

俺に向き合ってきた。


仁「…え?」


彼女は又カクテルを一杯オーダーし、

そして席を立ち上がり、

奥の書棚から1冊の本を持ってこちらやってきた。


説子「それは『Real Story』と言うカクテルで、それを飲めば今のあなたの望みは永遠に叶えられます。でも良いですか?そうなると今までのあなたの生活は全て失われ、あなたは新しい第二の人生を歩み始める事になります。もしそれでもよければ、どうぞお飲み下さい。強制は致しません。あなたの人生です、あなたがお決め下さい」


説子「そしてこちらは、その第二の人生を歩み始めた時に、あなたの傍らに置いて欲しい1冊の参考書。きっと、あなたがその本業で成功する為の参考書となり、あなたの仕事の助け手(で)となってくれるでしょう」


何を言われているのか少し解らなかったが、

「自分の夢が叶う」と聞いた瞬間、

俺はそのカクテルを一気に飲み干し、

そのカクテルの横に添えられていた参考書とかいう本を手に取っていた。


ト書き〈数週間後〉


仁「へへw今日も面白いように書ける…!ふぇへへ…サスペンス、ホラー、ミステリジャンル…!俺の得意分野で書きたかった小説を存分に書けるぞぉ!ハハ…あははぁ…グヘヘヘヘぇえぇ!!」(2階で小説を書きながら)


(パトカーのサイレンの音)


仁「ん…?チッ!にしてもあの音ッ!最近ずっと鳴り響きやがって!うるせぇったらねぇぜ!でもまぁ俺にはこの小説の世界がある…今日も書いて書いて書きまくって、リアリティ満点の作品を仕上げてやるぞ…」


ト書き〈仁の自宅を外から眺める形で〉


説子「今日もリアルそのものを小説に書いてるようね。リアルとは現実。そう、彼は現実に起きた事をそのまま小説に書いている。そのジャンルはホラー・サスペンス・ミステリもの。誰かが誰かを殺し、その殺害描写をリアリティ満点に描き、それを作品にして、読者の共感を最大限に集めてしまう。まぁそれなりに売れるでしょうね」


説子「私が勧めた『Real Story』は、飲んだその人の才能を最大限に引き出した上、その人に見合った行動力を与えるもの。同時に勧めたあの参考書もその人の人生の手引きとなり、その人に見合った生活法を教える」


説子「彼が手にした瞬間、その参考書は『殺人の手引き』になったようね。その参考書に従いながら彼はどんどん殺害を繰り返し、人を殺す瞬間の心理やその経過、人が死ぬ様子をリアルに描写して、そこで取材したものを土台に作品を量産する」


説子「今、彼が住んでるこの家には一体、何人の死体が隠されているか。彼はそんな自分のした事も解らないまま人生を終えようとしていく。私は彼の夢と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた」


説子「本当は平凡な人生を歩みつつ、その上で夢も叶えて欲しかったけど、無理だったようね。彼の心の内には殺人鬼が住み着いていた。つまり強烈なサイコパスの持ち主。彼の得意ジャンルもきっと、それに見合ったものになっていた。警察に捕まるのも、もう時間の問題ね。一瞬の夢を、存分に追っていきなさい…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=AvuZtPoaiDk&t=162s

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リアル小説 天川裕司 @tenkawayuji

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