夢食転生(むしょくてんせい)

天川裕司

夢食転生(むしょくてんせい)

タイトル:(仮)夢食転生(むしょくてんせい)



▼登場人物

●湯芽似(ゆめに)カケル:男性。30歳。独身サラリーマン。和子と婚約中。

●呉田和子(くれた わこ):女性。29歳。カケルのフィアンセ。

●宅配便の兄ちゃん:男性。30代。一般的なイメージでOKです。

●夢尾現子(ゆめお うつこ):女性。30代。カケルの夢と理想から生まれた生霊。


▼場所設定

●某商社:カケルや和子達が働いている。一般的なイメージでお願いします。

●病院:和子が搬送される。総合病院のイメージでOKです。

●Reincarnation:お洒落なカクテルバー。カケルと現子の行きつけになる。

●カケルの自宅:都内にある一般的なマンションのイメージで。


▼アイテム

●Reincarnation Acceptance:現子がカケルに勧める特製のカクテル。これを飲むと想ってる特定の人の霊を受け入れる準備を体内でする事が出来る。


NAは湯芽似カケルでよろしくお願い致します。



イントロ〜


皆さんこんにちは。

皆さんには今、愛する人が居ますか?

その人がもし事故か何かで他界したら

あなたはどうしますか?

その人を追いかける?

それともそれまで通りに生活し、別の愛する人を見つける?

今回は、そんな究極の選択に迫られた

ある男性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈デート〉


俺の名前は湯芽似カケル。

今年30歳になる独身サラリーマン。


でも俺には今、心から愛する人がいる。

彼女の名前は呉田和子。

和子と俺は将来の約束をして明るい未来へ突き進み、

ずっと2人で一緒に居ようと誓い合った。


カケル「これからもずっと一緒だよ♪」


和子「うん。本当に嬉しい…」


和子と俺はもともと会社で知り合い、

それから社内恋愛を通して結婚の約束をし、

今、和子はもう会社を退職する準備をし始め、

来年結婚すればその時から専業主婦として家に居てくれる。


そこまでの約束を2人で取り決め、もう住まいも用意して、

俺達は都内で一緒に住む新しいマンションを購入していた。


本当に幸せだった。


そうしていた時、俺と和子の2人に悲劇が舞い降りたのだ


ト書き〈病院〉


カケル「和子!和子ぉ!!」


まだ一緒に働いていた和子はその日の会社帰り。

交差点を渡ろうとした時、

信号を無視して突っ込んできた車にはねられ

すぐ病院に搬送されたのだが打ち所が悪く、

「残念ですが…」

と主治医に言われた末、亡くなった。


カケル「…そんな…そんな事って…うわあぁあ!!」


俺はもう号泣に号泣を重ね、その後の人生を諦める程、

不幸のどん底に落ちてしまった。

もう生きる覇気もない。

これからの人生に何の楽しみも幸せもない。


俺は生きた抜け殻のようになり、

とりあえずそれまで通りの生活を続けていたが、

そのうち和子の元へ行こう…この世を自ら離れよう…

こんな世界の不幸や悩みからもう卒業してしまおう…

と考えるようになっていた。


ト書き〈バー『Reincarnation』〉


そしてある時ふと飲みに行きたくなり、

それまでよく通っていた飲み屋街へ来ていた。

すると…


カケル「…『Reincarnation』?新装かな…?」


全く見慣れないバーがあるのに気づく。

落ち着いた感じでなにげに心が惹かれ、俺は中に入った。


そしてカウンターにつき1人で飲んでいた時…


現子「フフ♪お1人ですか?よければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。

彼女の名前は夢尾現子。

都内で精神カウンセリングや恋愛ヒーラーの仕事をしていたようで、

何かそれらしい雰囲気も携えていた。


でも俺はもう人生そのものがどうでもよくなっていたのもあり、

そんな彼女が横に居たって何の事はない。

やっぱりただ抜け殻のように隣で飲んでいる。


でも1つだけ彼女と一緒に居て不思議だったのは、

「何か昔から一緒に居た人…?」

のような感覚がうっすら漂ってきて、

気づくと彼女にそれなりの

安心感のようなものが芽生えていた事。


そして自分の事を無性に打ち明けたくなり、

今の悩みやこれからの事、これまで持ち続けていた夢の事をなんかを

彼女に向けてどんどん喋りたくなってくる。

かなり不思議な感覚だった。


現子「そうですか。結婚を約束されていたその彼女さんが…」


カケル「ええ。…こんな事、初対面のあなたに話したってどうしようもないんですけどね…」


気づくと今までの事を全部彼女に話していた。

そんなこと話しても確かにどうしようもなかったが、

でも彼女は親身になって俺の話を聴いてくれていた。


そして…


現子「お話をお伺いする限り、あなたは本当にその彼女の事を心から愛されていたようですね。…お1つだけお聞きしたいのですが、もし今、彼女ともう1度会えるとしたら、あなたの心は変わらず、その彼女と絶対一緒になりたい…ってずっと思う事はできますか?」


と静かに聞いてきた。


カケル「え?な、なに言ってるんですか…」


初め何の事だかよく解らなかったが

それから話を聞いている内、何か妙な予感のようなものがしてきた。


「和子がもしかすると生き返る?」

「和子ともしかしてまた一緒になれる?」


そんな気持ちが心にはっきり芽生え、

俺は知らず知らずの内に

現子の話に耳と心を傾けるようになっていた。


そして現子はマスターに言って、

一杯の特製カクテルを作ってもらい、

それを俺に勧めてきた。


カケル「こ、これは…?」


現子「それは『Reincarnation Acceptance』という特製のカクテルでして、それを飲めばきっとあなたの夢は叶えられます」


カケル「は…はぁ?」


現子「フフ、カケルさん。信じる事が大事です。彼女にもう1度会いたいと言うあなたの夢を、あなたが信じなくて一体誰が信じるのですか?夢を叶えるというのは、時に勇気が必要になるものです。今がその時。一歩踏み出して、そのあなたの夢を叶えるよう努力してみて下さい。きっと叶えられます」


カケル「は…はぁ…」


やっぱり現子は不思議な力を持っている。

普通そんなこと言われたって絶対信じないのに、

彼女に言われると信じてしまう。


心が素直になるというのか…。

理性や合理的に考える心が消え失せ、

彼女の言葉がそのまま俺の心にスッと入り、

その心に入った彼女の言葉が俺の全てを支配してくる。


また気づくと、俺はそのカクテルを飲み干していた。


カケル「ぐ…うぃ〜、効きますねぇ、このお酒…」


現子「フフ♪」


ト書き〈翌日、バーで〉


そして翌日。

現子が「もう1度会おう」と言ってきたので、

俺はその日もう会社を休み、又そのバーへ来ていた。


現子「フフ♪お待ちして居りました」


行くと現子が俺を迎えてくれて、

またカウンターに座って俺達は一緒に飲む事になる。

そのとき現子は…


現子「こちらをどうぞ。それは通販であなたの家に届くようにさせて頂いた、加工肉を注文した領収書です」


と俺の住所宛に届くよう記載された領収書を差し出してきた。


おそらく最初に会った時、俺は喋る気力も余りなかったので

それまで使っていた名刺を彼女に渡しており、

それを自己紹介の代わりにしていたので

彼女はその名刺に記載された俺の住所に

その肉を送りつけていたのだろう。


俺が使っていた名刺には会社の住所と、

その社員個人の住所が記載されたものがある。


役職に就く者はその仕事の責任上、

自分の住所もその名刺に記載していたので、

係長をしていた俺の名刺にも自分の住所が記載されていた。


カケル「な、何を勝手にこんな事をされてるんですか…!に、肉なんて、僕どちらかと言うとベジタリアンなほうで、肉はあんまり食べないんですけど…!?」


勝手にそんな事をされていたので

俺は少し怒り彼女にそう言った。


でも彼女は…


現子「フフ、確かに勝手にこんな事をしてしまって申し訳ありません。でもあなた、和子さんにもう1度お会いしたいのでしょう?でしたら私の言う通り、あなたはそのお肉を食べるべきです。いいえ食べなければなりません。私を信じてそうして下さい」


そう言って冷静に俺を睨みつけるように見つめてきて、

俺は又つい彼女の瞳に吸い込まれるような感覚を受け、

「わ、分かりました…」と応えてしまう。


その肉は缶詰で、5回に分けてウチに送られてくると言う。

それを全部食べきった時、俺の夢が叶えられると言うのだ。

「和子に会いたい」

「もう1度あの頃に返り和子と一緒に幸せな時間を過ごし合いたい」

というその夢が。


ト書き〈翌日〉


そして翌日。


宅配便の兄ちゃん「すいませーん!お届け物です〜」


現子が言ってた通り、本当に缶詰の肉が送られてきた。

でも和子を亡くした事をまた思い出しつつ、

気分が晴れぬまま、俺は何となくそれを手に取り

食べてみる事に。


すると…


カケル「…ん?う、うまい…」


もともとベジタリアンだった俺なのに、

その肉はこれまで食べた事のない程うまいものだった。


そして2度目、3度目と肉が送られてくる。

しかもご丁寧に着払いにしてくれており

俺はただそれを受け取り、食べるだけ。


でも3度目にその肉が送られてきて食べた時、

俺の中に1つの確信が出来たようで、あとの2回、

合わせて5回送られてくるその肉を、

「必ず全部食べ尽くしてやろう!」

と思うようになっていた。


ト書き〈転生?〉


そして…


宅配便の兄ちゃん「すいませ〜ん、お届け物です〜」


5回目に送られてきたその肉を食べた後、俺の身に変化が起きた。


(その日の睡眠中)


夜に眠っている時、

俺の夢の中に和子が現れるようになったのだ。

しかもそれはただの夢じゃなく、匂いもあれば、

手で触れる感覚もあり、

現実で生活しているのと何ら変わりない

本当にリアルな夢。


カケル「ハハ♪和子!本当に会いたかったよ!また君とこうして会えるなんて本当に夢のようだ。今度こそ、これから絶対にずっと一緒に居ような!もうお前を絶対放さないし、俺もお前から離れない!だから今度こそ、あの時できなかった結婚を今ここで…」


和子「うん!フフ♪私も又カケルちゃんとこうして会う事が出来て本当に幸せよ!もう会えないかと思ってたから本当に…。ここで結婚するのも、現実で結婚するのも同じ事なんだよね。…ねぇカケルちゃん、今度はもう絶対私から離れないで。ここにずっと一緒に居て…」


その夢の中で和子がそう言った時、

俺の背後で懐かしい感覚のようなものが漂った。

ふと振り返って見ると、そこには現子が立っていた。


カケル「う…現子さん…」


現子「フフ、よかったですわね♪また和子さんとこうして会う事が出来て。ところでカケルさん。いま和子さんから言われたその言葉、真摯な気持ちで受け止めますか?ここでずっと和子さんと一緒に暮らす事を誓い合えますか?その覚悟がもしおありなら、そのようにして差し上げます」


現子は俺にそう言ってきた。

その時、前に現子があのバーで俺に言ってた事を思い出していた。


「彼女と絶対一緒になりたいとずっと思い続ける事は出来るか?」


1つの覚悟のように思えたが、俺はその時に…


カケル「…はい、もちろんです。僕は和子とずっと一緒に居ます。もう絶対に離れません。あ、そうだ、現子さん。あなたが僕と和子の結婚式の仲人・立会人になってくれませんか?」


と現子に伝え、自分はそこまで覚悟している…

と言う事を赤裸々に訴えていた。


ここで俺と現実とのルートはシャットアウトされたようだ。

でも俺はそれで幸せだった。


ト書き〈自宅でカケルが1人眠っているのを眺めながら〉


現子「私はカケルの夢と理想から生まれた生霊。その心の奥底で消えかけていた和子への想いをもう1度再起させ、彼にその夢を与えた」


現子「私があの時カケルに勧めたカクテル『Reincarnation Acceptance』は、和子の生きた証…つまりその霊を精神と体に受け止める為の準備をさせるもの。そして私は火葬される直前に既に和子の肉体を刻み取って確保して、それを食べられるよう加工肉にし缶詰にして、カケルの自宅に送りつけていた。カケルも途中で気づいてたかしら、その事に…?」


現子「その和子の体でもある肉を食べる事で、カケルの細胞の1つ1つに和子の霊が生きる事になり、その力を利用して、和子はカケルの夢の中で1人の人間として転生する事が出来ていた。だからカケルが夢の中で見た和子は彼女そのもの。彼女の生前の記憶を残しているその和子は、夢の中でもその人生の続きを送る事が出来る」


現子「カケル、あなたは愛に生きる自分の夢を信じた事で、その夢のような第2の人生を手にする事が出来たのよ。ただ、夢の中での結婚を誓い合った事でカケルが目覚める事はもうないけれど。これも彼が和子と2人だけの未来を選んだ証拠。この世の僅かな余生を終えれば、あとは夢の中でずっと2人一緒に居られる。その時を待って、あとは夢の中で永遠にお幸せにね…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=hgulfvpESnM&t=69s

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夢食転生(むしょくてんせい) 天川裕司 @tenkawayuji

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