心の檻
天川裕司
心の檻
タイトル:(仮)心の檻
▼登場人物
●加差(かさ)ノボル:男性。30歳。元独身サラリーマン。今は収監されてる。
●木元沙織(きもと さおり):女性。29歳。ノボルの元婚約者。義男と浮気。
●香取義男(かとり よしお):男性。35歳。沙織の浮気相手。
●河野隆弘(かわの たかひろ):男性。30歳。ノボルの高校の親友。
●並河義文(なみかわ よしふみ):男性。30歳。ノボルの高校の時の同級生。ノボルを虐める。
●岡田由美香(おかだ ゆみか):女性。30歳。中学の時のノボルの同級生。
●看守:男性。50代。ノボルが収監されてる牢屋の見張り。一般的なイメージで。
▼場所設定
●檻の中:ノボルが収監されている。冒頭では「心の中の檻…」というイメージでお願いします。ラストではっきりした檻に。
●街中:必要ならで高校やノボルの自宅など一般的なイメージでお願いします。
NAは加差ノボルでよろしくお願い致します。
(イントロ+メインシナリオ+解説:ト書き・記号含む=2869字)
イントロ〜
皆さんこんにちは。
皆さんの人生は今どんな調子ですか?
上向き調子?それとも落胆調子?
人生にはチューニングポイントがあるものです。
それは時間の経過や人間的な成長。
そんなものを土台にして生まれるものかもしれません。
今回のエピソードは、そんな人生の浮沈に悩み、
その理由が自分の性格にあった事を突き止めた…
それで絶望してしまった或る男性にまつわる意味怖のお話。
メインシナリオ〜
ト書き〈心の中で収容所を描いてるようなイメージ〉
俺の名前は加差ノボル。
俺は人を殺して、収監された。
もうまともな人生には戻れない。
これまでのように平穏な生活、
そこら辺にいる奴が普通に送っていける温かみのある生活など、
もう俺にとっては無縁になった。
本当に人生を思えば、もう散々な思いに駆られてしまう。
俺はこれまで、自分のこの純粋な気持ちを踏みにじられて
不条理な悲しみと怒りを覚えさせられ、
それまでの生活の土台やぬくもりを奪った奴らを全て殺した。
全て承知でやった事。
それがいけない事だとは当然わかっている。
俺は自分の最愛の恋人を殺した。
理由はもちろん浮気。
だからその時の恋人の浮気相手・香取義男という男も殺害した。
俺が愛してやまなかった恋人の沙織は、
俺との結婚を約束しておきながら他の男と簡単に浮気して、
その男と一緒になって俺を嘲笑った。
沙織「なによアンタなんか!全く冴えない男!私がどこで誰と何をしてようがアンタに関係ないでしょ!こんなので結婚も何もないわよ!」
ノボル「俺がどれだけお前の事を想って、これまで愛して生きてきたか、それがお前には全然分かってないのか!お前、俺と結婚約束しておきながら、他の男と浮気してるだろう!」
沙織「なに?私のこと疑ってるわけ?冗談じゃないわよ!」
ノボル「香取義男って誰だよ!お前最近、この男と頻繁に会ってんじゃねぇのか!?」
きっかけは当時付き合っていた恋人の、
日常生活の中でのちょっとした変化だった。
恋愛や結婚というのも、結局、俺にとっては無縁のものだった。
仕事でも本当に散々な目に遭った。
結局、俺は体好(ていよ)くリストラされただけ。
それまであれだけ会社に尽力してきたのに。
会社の利益の為だけに奔走し、
苦手な人間関係でも全てその場が丸く収まるよう努力し、
それなりに自分の得意分野の仕事だったから
その腕を生かし、俺はそれなりに出世もしていた。
面接ではあれだけ俺の事を認めてくれていたのに。
俺が就活に精を出していたのは本当に氷河期の頃だった。
思えば学生時代も不毛な生活を送り続け、
悲惨な日々の連続だったのかもしれない。
親友と思っていた隆弘は、結局俺を裏切り、
俺を散々虐めてくれたそのグループの中に自分も入り、
そうして俺を攻撃する側に回っていたのだ。
隆弘「お前と付き合うのなんてもうこりごりなんだよ!」
ノボル「お前ら、グルだったのか…!?」
隆弘「へっへ〜んw良いザマだなぁ〜♪」
義文「お前の味方なんてもう誰もいねえんだよw」
思い出すだけでもヘドが出る。
未来に明るく羽ばたく為のその土台作りをする筈の学び舎も、
結局、俺にとっては不毛かつ悲惨な場所でしかなかった。
思えばこの時から、俺の悲惨な人生が始まっていたのかもしれない。
誰にでもあるような失恋エピソードでも、
俺にとっては相当辛い事だったのだ。
人生で初恋の人に捨てられた事。
あの事もできればもう思い出したくない。
由美香「ごめんなさい」
ノボル「も、もう、俺とは会ってくれないの…?」
由美香「他に好きな人が出来ちゃったから」
ノボル「なんで急にそんなこと言うんだよ!」
由美香「もう電話もメールもしてこないで欲しいの!じゃあさよなら!」
それから恋愛というのも
俺にとっては非常に大きなハードルだった。
きっと俺の性格がねじ曲がってしまったのは
俺の家庭事情にその大きな理由があったのかもしれない。
父は俺と母さんだけを残してこの世を去ってしまった。
ノボル「父さん!父さんぁあん!」
父はある日の仕事帰り。
赤信号を無視して突っ込んできたトラックにはねられそのまま他界した。
それまで俺たち家族は本当に幸せだった。
結局、俺は家の中で一人ぼっちになる事が多かったのだ。
母はノイローゼになり、入退院を繰り返す生活。
本当に順風満帆だった俺達の家庭。
ある日、突然父が居なくなった事は俺たち家族にとって、
生活の土台を抜かれたような、底抜けの寂しさと
将来を真っ暗闇にしてしまう程の衝撃だった。
…と、ここまで俺が話してきた事は
全て自分の中の妄想語りによるもの。
心の中の収容所に自分で自分を放り込み、
心の中で実際してきた犯罪行為を自分に科して、
曲がりなりにも自分の理想の日々を送ったその挙句、
俺はノイローゼのように、
その心の中の檻に自分を収監していたのだ。
俺は膨大な程の罪の意識に苛まれていた。
心の中で親友を殺し、恋人とその浮気相手を殺害し、
自分を不条理に攻撃してきた者達を悉く葬ってきた。
ト書き〈冒頭の現実に戻る〉
人生、諦めちゃダメだ。
自分のしたかった夢や理想は叶えないと。
自暴自棄になっちゃいけない。
改めてそう思い、また新しく人生を歩もうと
顔を上げてみた時、見慣れた男の顔が近づいてきた。
解説〜
いかがでしたか?
ストーリーが初めからおかしな事に気づき、
ラストの場面で更に訳わからなくなって
「一体何の事を言ってるんだろう?」
となった人は多かったのではないでしょうか?
簡単に解説しますね。
このストーリー、後半から冒頭までを逆に見ていけば
すぐに意味は通るかと思います。
つまり語り手の主人公・ノボルが話すエピソード、
それと同時に現実が並行していたお話でした。
最後にノボルは…
「と、ここまで俺が話してきた事は全て自分の中の妄想語りによるもの」
と言いますが、これは妄想でも何でもありません。
全て現実の事。
つまり現実を受け入れられなかったノボルは
それまで自分が実際してきた事を全て架空の行動だと思い込み、
「まだ自分は人生をやり直せる」
そう思う為に心を改め、新しく作り上げた
その妄想の中に自分を放り込んでいたのです。
だから現実に自分が収監されているその檻を心の檻と位置付け、
現実逃避する余り、今自分を取り巻いているその環境すら
見えなくなっていたのでしょう。
その全ての事が解る大きなヒントが
ラストでノボルの目の前にやってきた「見慣れた顔」。
この顔の持ち主はもちろん看守の事で、
最後までノボルを取り巻いていた
その現実が見えてくる事でしょう。
ノボルが殺害したのは少なくとも2人。
婚約していた沙織とその浮気相手の香取義男。
でもストーリーが全てノボルの独り語りですから、
実際はもっと殺害していたのかもしれません。
結局、冒頭にある…
「俺は人を殺して、収監された。もうまともな人生には戻れない」
これが現実。
そしてノボルが殺害した人数がもっと多い事のヒントが、
「それまでの生活の土台やぬくもりを奪った奴らを全て殺した」
というノボルのセリフから少し伺えますね。
ストーリー全体を振り返ってみると、
ノボルの人生そのものをさかのぼっている事にも気づくかと思います。
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=7RKG1clDx5k&t=64s
心の檻 天川裕司 @tenkawayuji
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