君が死んで幸せになった世界
遅延式かめたろう
0日目 そこでは雨が降っていた
飛び降り自殺の目撃情報が多くあったため、調査してもらいたい。
という連絡が来てから、大体10分が過ぎた。
警察の
内容は女性の飛び下り自殺、それを目撃したという通報が1回ではなく5回ほど来たため調査をするとのことだった。
場所は7階建ビルと、どうやって入ったかが疑問に入るが既に死体があると見ていた。
基本的に自殺をする人というのは、精神に何らかの異常があることが多い。
そしてそれはその人の日常にまで浸食し、健康状態に害を及ぼす。
と聞くと深刻な話に聞こえるが、実際はこういう時に死にやすいかどうかの話でもあったりする。この話をした先輩には早めに罰が当たってもらったが。
「文船先輩、これって間違い電話とかじゃないですよね?」
「そうであると祈っておけ。答えは現場を見に行かねぇと分からない、シュレーディンガーの猫みたいにな」
「じゃあ祈っておきます。
隣に座る後輩の
しかしスマホを握る手は震えてないのは彼の強さだろうが、いい加減そのビビり体質もなんとかしてもらいたいものである。
だが、雨に嫌気がさすのは自分も同じことだった。
調査の結果、死体もそれらしい痕跡も残っておらずいたずら電話として処分された。
現場にいたのは1人の男性であり、それ以外は何もない廃墟のビルだった。
送られてきた情報ではオフィスビルだったが、情報のバトンリレーの途中のどこかで間違えてしまったらしい。
「大人になって初歩的なミスをするというのは、第三者目線から見ても恥ずかしいものなんだな。君はどうお思う」
「……」
「…………はぁ、傘を持ってこようか? パトカーの中に予備の傘を入れているんでね」
「……」
「返事は無し、か」
廃墟ビルの屋上には、『通報にあった女性』がいた証拠は何もなかった。
そこにいたのは今の気温には丁度良い服装の、男性がただ一人でドア近くの壁によっかかりながら座っていた。
雨の日に、傘をささないまま。
濡れた髪によって隠れた顔の隙間からは、まだ大人になりきれていない青年の顔が隠れていた。その表情は暗く、無表情という単語そのままだった。
決して今の気温が冬と比べて暖かくとも、まだ油断してはならない温度でもある。
寒く無いだろうか、と傘を取りに行こうとすると男性は顔を上げた。
雨に打たれていただけから、自ら濡れていくように。
「君の今後だが、まずは事情聴取をさせてもらう。今回ここに来た理由として、ここに通報が来たからというのだ」
「……」
「何か心当たりがあるなら、話したいときに話してくれ」
「…………なぁ」
「どうした?」
「もし、自分が死んだら世界が平和になりますと言われたら、どうする」
「それは考えたことが無いな」
「じゃあ、その自分というのが最愛の人だったら?」
「それは……悲しいな」
「…………そう………………だよな」
今にも泣きそうな、覇気の無い弱弱しい声しか出せなくなっていた。
最後の方は掠れていたが、雨のせいで泣いているが見分けがつかない。
こういう時に限って雨を恨んでしまうのが、きっと人間の悪い所なのだろう。
……なぁ、持っている傘をせめてと渡そうとすると、震えながらも自分を呼ぶ声がした。
今振り返ってみると、最初に彼に対して歩み寄っていればよかったかもしれない。
出会いもほんの少し良いものが可能性としてあったかもしれないが。
「助けてくれないか、俺
「…………確か知り合いに住み込みバイトを募集していた人がいる、その人に話をかけてみよう。事情聴取は、安心したころに回そう」
きっとこれが、自分の出来る最善なのだろうと今は心に何度も言うことにした。
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