この素晴らしいエリス様と祝福を! 爆裂娘の故郷へ!! 2




「第三章 この痛々しい里への道中を!」




 ウィズの魔法を受け、思わず閉じた目を開く。


 そこに広がっていたのは、水と温泉の都アルカンレティア、遂二週間前に来たばかりの場所に着き、少し疑問に思う。


「あれ?ここってアルカンレティア……だよな?ウィズ間違えたのか?」


「あぁ、私の里は今魔王軍に襲われてますからね、直接現地に飛ぶのは危険……と判断してでしょう。」


 成る程、ならここから里まで歩かなければ行けないのか。


「この街から里までは徒歩で二日ほど、道中危険なモンスターが生息していますが、その辺はカズマとクリスの敵感知スキルが頼りですね。」


 アルカンレティアを後にした俺達は、整備された街道を歩きながら紅魔の里へと向かっていた。


 危険なモンスターがわんさか居る中での野営は正直怖い……、日の高い内に出来るだけ距離を稼いでおきたい。


「まぁ、二人で感知しとけばそうそう襲われる事はないだろう……それに、この前『逃走』ってスキル手に入れたし、最悪俺が引き連れる。」


「………別に私が引き付けても良いんだぞ?」


「ダクネスは趣味でしょ……。」


 俺達がそんな会話しながら、林に差し掛かった時だった、先頭を歩いていためぐみんが、突然その場に立ち止まる。


「あれ?あそこに誰か居ますね。」


 めぐみんの言葉に、俺達もそちらに向かうと……柱の入口で出っ張った岩の上に腰を掛けた緑髪の少女が、こちらに気付いた様に手を振ってきた。


 こんな所に一人で?


 ……あれ?あの子、右の足首に血の滲んだ包帯を巻き、それをチラチラと見ては痛そうに顔をしかめている。


 そして上目遣いでこちらを見てきた……あれ?こいつもしかして……。


「あれは……安楽少女、ですかね?」


 安楽少女、その植物型モンスターは、物理的な危害を加えてこない……が、通り掛かる旅人に対して強烈な庇護欲を抱かせる行動を取り、その身の近くへ旅人を誘う。


 その誘いに乗っかったが最後、そのまま死ぬまで囚われる……らしい。


「……おいカズマ。な、なんだかこちらを泣きそうな目で見ているぞ…あれは本当にモンスターなのか?」


 こいつ……まさか可愛いものに目がないからって、モンスター相手に動揺してるんじゃないだろうな…?


「おいこら待てクリス、何故あいつの方へ歩く。」


 ………カズマ、あれはモンスターじゃないよ、怪我をしている可哀想な女の子だよ!?女神として、あの子を放っておく事は出来ないよ!!


「…カズマ、先に行ってて下さい、私は少し用事が出来ました。」


「おぉ待て待て、めぐみんまでそっちに行くのか!?」


 あちらに行きそうなクリスの首根っこを掴んていると、めぐみんがダクネスと共に少女の近くへと駆け寄っていく。


 相手がモンスターだと聞いてまだ安易に触れようとはしないが……それでもソワソワしていた。


 「………まぁ、別に直接攻撃する訳じゃないみたいだぞ、その保護欲で旅人を足止めして、餓死させるんだとよ。」


 俺の言葉を聞き、安心したように安楽少女の傍へと近寄る、最後の言葉ちゃんと聞いてたか……?


「大丈夫?今傷を直してあげるからね!!!………あれっ?これって怪我じゃないんだ、そんな感じに見えるように擬態してるだけなのね。」


 クリスの言葉に俺も近寄って少女を見る。


 街によくいる普通の女の子みたいな服装で、靴は無く裸足姿で皆に囲まれて嬉しそうにニコニコしている。


 めぐみんがそっと手を差し出すと、安楽少女が不安そうに顔色を伺いながらも手を伸ばす。


 そして心底嬉しそうに表情を輝かせる………今ので三人は完全に落ちたようだ。


 ………仕方ない、そう思いながら俺が安楽少女の前に立ち、徐ろに日本刀もどきを引き抜こうとすると……。


「ねぇカズマ、何をしようとしてるの?」


 そっと俺の手の上を手を重ね、剣を鞘へと戻そうと押してくる。


「そうですよ、いくらカズマと言えど……しませんよね…?そんな事…?」


 安楽少女の手を握りながら、訴えかけるような目で俺を見上げてくるめぐみん。


 まるで拾ってきた子猫を保健所に連れて行かないでくれと、親に訴え掛ける子供のようだ。


「………いや、カズマがそう判断したのなら駆除すべきだ、こいつはどれだけ可愛くても、モンスターだ……、放置していたはいけないだろう。」


 そう言いながら大剣を抜き、安楽少女に対して身構えるダクネス……良かった、お前はまだ無事だったんだな。


 すると安楽少女が、子供の様に舌っ足らずな聞き取り難い小さな声で。


「………コロ……ス…ノ……?」


「うん。」


「「「あっ!!」」」


 そんな安楽少女の言葉に、無情にも刀を振り下ろす。


 ………に、しても最後のあの顔は何だったんだ…?あの少女から出たとは思えない憎しみを込めた怒りの顔……、やはり俺は正しかったんだ。


 後ろから三人の冷たい目線を受けながら、俺は自分の事を誇りに思うのだった……。







 


 夜の帳が下りる頃、街道沿いの地面の上に、寝やすい様に大きめの石を取り除いた後布を敷く。


 この辺りのモンスターは強い。


 灯りに寄って来られても困るので火は炊かず、暗闇の中身を寄せ合って眠る事にした。


 バニルから買ったアンデット避けの魔道具の蓋を開けると、広げた布を中央き全員の荷物を置き、それを背もたれの様にし、皆で身を寄せ合っていた。


 俺とクリスで千里眼スキルと敵感知スキルを駆使し、闇の中でもモンスターが察知出来るので、夜の見張りは二人で交代制にした。


「………カズマ、大丈夫ですか?」


 めぐみんが目を擦りながらこちらに問いかける。


「ん?起きたのかめぐみん……、まぁ気にすんな、俺は徹夜に強い特性を持ってるんだよ、俺が住んでた国では、徹夜なんてしょっちゅうだからな。」


 その俺の言葉にめぐみんが……。


「………そう言えば、カズマは何処に住んでたのですか?カズマの国の話が聴きたいですね、カズマが開発した商品の数々を見るに、便利な魔道具が沢山あるみたいですが……。」


 めぐみんが興味津々に聞いてくる。


 この暗い中での会話が、何だか修学旅行の夜みたいに思えて感傷的になっていた俺は、ゆっくりと語りだした。


「そうだなぁ……俺は、元いた国じゃランカーだったんだ。」


「……?らんかー…?」


「あぁ、言ってみれば、ランキング上位者って意味だな。仲間には『インしたいつもいるカズマさん』だの『肝が座ってるカズマさん』だの……まぁ色んな通り名があって、頼りにされてたな。戦友と共に砦に攻め込んだり、大物のボスを狩ったり、徹夜なんて当たり前、ロクに食事も取らず毎日二時間程寝て、またすぐモンスターを狩りに行ったもんだ。」


 その言葉に、俺の隣で驚嘆の溜息が漏れた。


「な、成る程、カズマのあの機転の良さはそこで培った力だったのですね…!」


 ………まぁ嘘ではない、まぁ男が女の子にカッコつけたくなるのは皆分かってくれる筈だ……。


 すると、俺の真後ろに位置するクリスが……。


「……ねぇ、思いっきりツッコんでもいい?」


「やめてくれ。」








 また眠り始めたクリスを尻目に、めぐみんと共に見張りについていた。


「………カズマは、元いた国に帰りたいですか…?」


 そんな事を、恐る恐るといった感じで尋ねてきた。


「と、言うか帰りたくても帰れないんだよ。それに今はお前達と一緒に居た方が楽しいしな、当分帰る気は無いよ。」


 魔王を倒して日本に帰る。


 ここに来た時はそればかり考えていたが、なんか最近はかなり無茶だと思えても来てる。


 ………それに、親に見せる顔がないしな…。


 ____俺の言葉にめぐみんは、安心した様に息を吐いた。


「……そうですか、私も今の暮らしは気に入ってるのでこのままが良いです。皆で馬鹿な事言いながら、ピンチを乗り越えて行く、今の生活に満足しています。」


 ……まぁ、最近はピンチになりすぎな気がするが、そう言おうとした、その時だった。




 「………ずっと、このまま皆で一緒に居られるといいですね。」




 隣に寄り添うめぐみんがほぅお息を吐きながら、闇の中で俺の右手をギュッと握ってくる。


 めぐみんのひんやりした手の感触、それを感じながら俺は___酷く緊張していた。


 それゃそうだ、今ではptメンバー全員女の子ではあるが、日本では女の子との関わりなんて幼稚園以来、ましてやこいつらとはこんな甘酸っぱい展開すら無かった……と思う。


 ………しかし、俺は一つの記憶を思い出した。


 小学生の頃、『大きくなったら結婚しようね』……そう言ってくれた幼馴染みの女の子。


 中学三年の夏、不良の先輩のバイクの後ろ二あの子が乗ってるのを見て、なんとも言えない気分になった俺はあまり学校に行かなくなった。


 そんな憂鬱な記憶を思いだしていると、気がついた。


「………すかー、……、」


 そんな俺が落ち込んでいるのをよそに、めぐみんが静かな寝息を立てていた。


 …………やはり女は苦手だ。









「参ったなぁ……」


 俺は街道の真ん中で立ち止まり呟いた。


 あの後無事朝を迎え、軽い朝食を終えた今、目の前のただっ広い平原を呆然と眺めながら考える。


 こんな遮蔽物が何もない所を歩いていたら、潜伏スキルが使えない。


 頼りはめぐみんなのだが、こんな見通しの良い所で魔法を使ってそれを聞きつけた他のモンスターに来られてはどうしようもない。


 だが、里への道はここしかない訳で……。


 しょうがない、こんな時こそ千里眼だ。


「おい、俺が一人で先行するから、お前等は何時でも逃げれるようにしといてくれ。」


 万が一モンスターに見つかったとしても、俺が『逃走』を使って引き連れて囮になって逃げれば良い、三人から離した所で何処かに陰を見つけて潜伏すれば良い。


 ただっ広い平原地方に延べる道。


 そこを軽装で三人から少し離れて歩く、辺りを神経質にキョロキョロ見渡し、モンスターの陰がないか確かめる。


 今の所順調だ、ちゃんと空を舞うモンスターが居ないか確認しながら、更に足を進める。


 ………平原のど真ん中に、ぽつんと人影が見えた。


 三人に静止の合図を出すと、俺は千里眼を使いそのモンスターをより詳細に見る。


 『オーク』。


 豚の頭を持つ二足歩行型のモンスターで、繁殖能力が高く年中発情している生き物、人型の生物なら殆どの種と交配可能てみ、こいつらに捕まった場合悲惨な目に遭わされると聞く。


 最悪一人だし、なんとか勝てるだろう。


 そう踏んで近づく、かなり人影に近付いた所で、あちらも俺に気付いたのか、こちらに向かって歩いて来た。


 自然とチュンチュン丸を握る手に力が籠もる。


「………ズ………マ……!カズ………………!!!」


 俺の遥か遠くから聞こえる声。


 読心術で読んでみると、『逃げろ』と言っていた。


 ……?何を言ってるんだろう、相手はたかがオークだ、いくら俺のステータスが低くても、怠慢なら負ける気など更々ない。


 「『クリエイト・アース』」


 左手にこっそりと目潰し用の土を生成し、不意打ちの準備をする。


俺とオークは、お互いの顔がハッキリと分かるまで近付く……それは、俺が予想していたオークよりも人に近い姿だった。


 鼻と耳は豚だが、顔の構造はかなり人に近いものがある。


「こんにちは!ねぇ男前なお兄さん、あたしと良い事しないかい?」


 ………メスだった。


 なんてこったこれは予想外、まぁそれゃオークにもメスは居るよな。


 せっかく誘ってくれたこのオークには申し訳ないが、これを女性と見れるほど俺のストライクゾーンは広くない。


「お断りします」


「あらそう?残念ね……あたしは合意の上での方が良かったんだけど」


 そう言ってニタリと歯を剥き出しにして笑い掛けてきた、普段美少女達を見てきたせいか、より酷く見える……。


 困り果てた俺は、三人の方へと目を向ける。


 二人は相も変わらず逃げろ、ダクネスはワクワクしながらこちらに参戦しようかなやんでいる……あいつは手遅れだ。


「あそこに居るメスには興味ないわ、あんたはそうねぇ……三日。三日ほどウチの集落に来て頂戴?男の夢ハーレムを叶えてあげるわよ!!」


 そう言いながら、文字通り天国に逝かされそうで、俺は本能的な恐怖を覚え魔法を唱えた。


「『ウインド・ブレス』ッ!!」


「ッ!?」


 隠し持っていた一握りの土を、風の魔法でオークに飛ばす。


 不意打ちの目潰しで目をやられ、オークが呻きながら身を屈めた隙に、ドレインタッチで生命力をギリギリまで吸う。


 その後、チュンチュン丸で留めを刺し、また歩き始める。


 オークを倒してしばらく歩いていると、後方から気配を感じ振り返る……すると、慌てて追いかけて来るクリス達。


「……どうした?こんな近くまで来たら、作戦の意味がないだろう?」


 そんな俺の言葉に……。


「何言ってるのカズマッ!?カズマはオークを倒しちゃったんだよ!?この平原はオークの縄張り、つまりカズマがこの平原を抜けるまで狙われると言う事だよ!!」


 クリスが強い口調でそんな事を………いやいや、。


「俺が狙われるなら願ったり叶ったりじゃないか、注意を引いて囮になるためだぞ?つーか、俺お前等がオークに捕まって酷い目に遭わされる所なんて見たくないんだが……。」


 ……まぁダクネスは喜びそうだけど…。


 そう考えていた俺に、めぐみんが言った。


「………カズマ、良く聞いて下さい。現在この世にオークのオスはいません。」


「……え…?」


 めぐみんの言葉に俺は聞き返し、ダクネスは崩れ落ちる。


「オークのオスはとっくの昔に全滅しました、産まれてもすぐメス達に弄ばれ干からび死にます、現在のオークと言えば、縄張りに入った他種族のオスを捕らえ集落に連れ去り、それはもう凄い目に合わせる……そして、その……カズマは……」


 めぐみんが説明しながら、最後になると言い難そうに声を落としてく。


 俺は物凄い数の敵感知を感じ、後ろを振り返る。


 猫耳や犬耳のオークが居る事から、色んな種と交配して来たのだろう、そんな獣耳のオーク達を見ながら、俺は『ただし美少女に限る』という言葉を思い出していた。


 俺は先程倒したオークに似たオークが言った。


「あんた、アタシのねぇさんを倒すとはやるわね!!惚れちゃったじゃない、どうしてくれるの?あたし、絶対あんたの子を産むわ!!!」


 そんな身の毛とよだつ子作り宣言と同時に、大量のオークが荒い息で飛び掛かってきた!!


「ちょっ!?待っ………!!あぁぁぁぁあッ!!!!」


 勘弁してくれっ!あかん、殺らなきゃ犯やれるっ!!


 俺は迷う事なくチュンチュン丸を前に突き出すが、優秀な遺伝子の良い所取りしたそのオークは、容易く俺のチュンチュン丸から身を躱し………!!


「よぉーし!すぐ済むから。すぐ済むからじっとして目を瞑りな……!!」


 あっさりとチュンチュン丸を弾き、俺を地面に押し倒した。


 バカでした。


 オークの事を舐めきってました!!


「助けてぇ!!めぐみん、いつものヤツを!こいつら纏めてお願いします!!」


「こんな近くで爆裂魔法を使うと、私達も巻き込まれてしまいます!!ダクネス、何時までも落ち込んでないでカズマをなんとか……!クリスも!!そんな諦めた顔で絶望してないで……っ!!」


 俺はオークに伸し掛かられながら、必死に叫んだ!


「話をしよう!話をしようっ!!」


「エロトークなら喜んで!さぁ、アナタの恥ずかしい性癖からアブノーマルな性癖まで、全部受け止めてあげる!!」


 俺の手をべろりと舐めながらこちらを見つめる、もう許してくれっ!!!


「や、止めてぇええええッ!!!!助けてぇえええええッ!!!!」


 俺がまるで少女の様に悲鳴を上げたその時……!!


「『ボトムレス・スワンプ』ッ!!!」


 聞いた事のない声が響き渡ると同時に、悲鳴が上がった。


 押し倒されたまま首だけで声の方を向くと、そこには大きな泥沼の中出藻掻くオーク達の姿がある。


 そして、その後ろには……!!


「ゆんゆん!!ゆんゆんじゃないですか!助かりました!」


 俺はめぐみんが言ったその名を聞いて思い出した、確かめぐみんがちょくちょく遊びに行ってた子だ。


 俺の上に乗っていたオークから、息を呑む様な音が聞こえてきた。


 ゆんゆんさんに警戒しながら俺の上から立ち上がるオーク、俺はそれから逃げる様に泣きながらめぐみんの下へと這いずった。


「わ……っ!ちょ、ちょっとカズマ、大丈夫ですから…あまりしがみつかれるとローブが洟塗れになるのですが……。」


 困ったように、そして恥ずかしながら俺を引き剥がそうとするめぐみんを尻目に、俺を狙っていたオークかみ、チラリと沼でもがく仲間を見る。


 どうやら仲間を助けたいらしいが、ゆんゆんさんを前にして動けない様だ。


「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして上級魔法を操る者……!やがては紅魔族の長となる者……ッ!!!紅魔の里の近くに集落を作るオーク達、ご近所のよしみで今回の所は見逃してあげるわ、さぁ、仲間を連れて立ち去りなさい!!」


 その言葉を聞いたオーク達が、上着を割いてそれをロープ代わりに溺れていた仲間へと放った。


「さぁ、めぐみんさんとそのptメンバーさん、今の内です、行きましょう!!」


 俺はその日、三人目の女神と出会った。


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