この素晴らしいエリス様と祝福を! 並行四重奏〜ヘイコウカルテット〜


 「エピローグ 親友の危機ですよ、女神様」


「……おいこらルナさん、これ2回目ですよね?手、離してください。」


「……カズマさん、私達友達でしたよね?」


「いえビジネスパートナーです。」


 そう言って、また報酬金を俺に渡すのを渋るルナさんから何とか報酬金を受け取り、相変わらず被害者面が上手いルナさんを横目に、ptメンバーの元へと急いだ。


 に、しても、今回は一億エリスか……あのベルディアが3億エリスに対し、バニルの懸賞金は1億エリス………あいつ魔王軍として全く仕事してないんじゃないか?


「お〜いカズマ!遅いよ全く…。」


「そうですよ!毎回何してるのですか?」


「あぁ、まぁ気にすんな。」


 さて、最近は本当に働きすぎたな……どっか体を癒やしてくれる観光名所でもないものかね……。















 「第1章 お久しぶりですねアクア様……。」


 春…雪解けの季節であり、冬の間引き篭っていた冒険者達が活動を再開する季節。


 モンスター達が活発に動き回り、繁殖期に入る、そんな季節。


 さて、そんな季節になるとクエストも大量に増え、中には高レベル冒険者じゃなければクリア出来ない物もあるのだが……


「サトウさん、大変なんです!街の外でリザードランナー……が……」


 血相を変えて飛び込んできたルナさんは、クリスに膝枕してもらって横渡っている俺を見て、徐々にトーンを落としていく。


「どうしたんですかルナさん?またクエストですか?」


「え、えぇそうなんですが……お邪魔でしたか…?」


「いや全然?それよりも、クエストの内容を聞いても?」


「あ、はい、実は……」


 ルナさんの話によると、毎年この季節になると、リザードランナーと呼ばれるモンスターが繁殖期に入るらしい、このモンスターは普段は大人しい性格だが、姫様ランナーと呼ばれる大きなメスの個体が生まれると、このリザードランナー達は途端に厄介な生物へと変貌する。


 そうして姫様ランナーとつがいになる為の勝負が始めるのだが、このエリマキトカゲ見たいな見た目をしたモンスターは、他種族の足の速い生物を見つけては勝負を挑み、並んで走り抜き去っていく………。


 そして姫様ランナーの蹴りはとんでもなく強く、かなり強い冒険者でも死ぬ危険性があるようなないような……。


「そこで、今活躍しているサトウさんに任せようかと……」


「えぇ…そんな危険なクエスト嫌だなぁ……」


「こらカズマ、折角ルナさん直々にクエストを持ってきてくれたんだ、どうせなら受けてみないか?お前の好きなお金もたんまりはいるぞ?」


「そうですよ!それに、いざとなったら私の爆裂魔法があるから大丈夫です!」


 いやお金はバニルとの商談でかなり入る筈だし、でもそうだな、めぐみんの爆裂散歩もそこで終わらせばいいし、行ってみるだけみるか……


「はぁ、分かりましたよ、本当は休みたかったのですが今回は良いでしょう。」


 さて、どうせなら鍛冶のおっちゃんの所に行くか…もしかしたら出来てるかもしれないしな。






「ちーす!おっちゃん、出来た?俺の刀」


「らっしゃい……おぉ坊主!教えてもらったKATANAとか言った剣、一応は出来てはいるが……あまり期待はするなよ?」


 そう言って店主は、鞘に収められた一振りの剣を持ってきた。


「おぉ……一応それっぽいな…!にしても、説明しただけでここまで再現出来るのか!」


「おうよ!お前さんの言う、焼入れだのなんだのって技術の事は調べてみたがサッパリ分からなかったよ。まぁそれなりに面白い仕事だった、後はこの魔法の掛かった札に銘を書いて剣の柄に貼れば完成だ!」


 刀の銘かぁ……俺は磨かれた刀身を見ながら、良くゲームになんか出てくる刀の名前を思い出す。


 村正……政宗……虎徹……弥生……う〜ん悩むなぁ……。


 腕を組みながら、悩み出した俺の隣で、外で待っとけと言っていた筈のめぐみんが、突然言った。


「ちゅんちゅん丸」


「……今何て?」


「ちゅんちゅん丸と言いました。この剣の名前は、"ちゅんちゅん丸"です!」


 俺は刀の柄を見ると、そこにある札にちゅちゅん丸と書かれていた。


「………お前今日爆裂魔法無しな…。」


「なッ!?」













 未だにちらほらと雪が残る、街の外に広がる平原。


「よし、いい位置だ。それじゃあ始めるぞ!」


 そこに点在する木の上で、狙撃スキルでの長距離狙撃態勢に入った俺は、今から仕掛けると言う合図を出す。


「こっちも大丈夫だよ〜!」


 クリスが俺の登っている木の下で腕を組み、仁王立ちで見下ろすかの様に標的を見つめていた……。


「私も何時でも大丈夫だが……めぐみんはどうしたんだ…?」


 そう言って、ダクネスをめぐみんを心配そうにみるが……


「あぁ気にすんな、そいつは今日は爆裂魔法は禁止にしただけだ。」


 そう言い、標的の方を見返す俺、あいつには反省してもらわなくては……


「よし、それじゃあ始める!手はず通り行くぞ!まず俺が王様ランナーと姫様ランナーを狙撃!その二匹さえ居なくなればリザードランナーの群れは解散するそうだから、残された雑魚は放っておく、それが失敗したら、ダクネスが耐えてる内に俺がもう一度狙撃、それすら失敗したら((「エクスプロージョンッ!!!」


 あのやろぉぉぉぉっ!!


「へ!!私に爆裂魔法を禁止するなど、息をするなと言ってるのと一緒!!」


「このロリっ子がッ!!ダクネス!こいつを頼む!クリスは王様ランナーを任した!!」


 そう言って俺は木の下を見下ろし、俺は弓を引き絞ると、姫様のトサカの下、眉間の部分に狙いを定め……!


「クキェーッッッ!!」


「狙撃ッッ!!!」


 怪鳥の様な声を上げながら、俺に飛び蹴りを放つ姫様ランナーの眉間に、俺はカウンターの形で矢を放った!


 この距離なら例え、狙撃スキルが無くても外しようがない。


 放った矢は狙い通りに眉間を撃ち抜き、そして姫様ランナーの蹴り足は、力を失い俺には届かなかった。


「クリスは大丈夫かッ!!」


 そう言ってクリスの方を見ると、綺麗な円型に空中を飛び、見事に首を切っていた。


「カズマッ!!」


 そう焦った様にこちらを見ながら言うダクネスの言葉を聞いたと同時に、衝撃が襲ってきた、勢いのついた姫様ランナーの体が、そのまま木の幹に激突したのだ。


 その凄まじい衝撃に、矢を放ち無防備な体勢で格好つけていた俺は、バランスを失い木から落ちる。


 俺はそのまま頭から地面に落ち、ゴキンと鈍い音が耳につく。


「カ、カズマ!?大丈夫ですかっ!?クリス!カズマが変な体勢で落ちました!!」


 切羽詰まっためぐみんの声を聞きながら、地に伏せたままの俺の意識はーー







「…………………」


「…………………」


 俺は呆然と突っ立った状態で、女神アクアと見つめ合っていた……。


 そこは以前俺が冬将軍に殺された時に来た、神殿見たいな部屋の中。


 するとポリポリと食べていたポテチの袋をこちらに向けると……


「いる?」


「………有り難う御座います…。」


 そうしてポテチを食べながら、今後どうして行こうかと考えた……。


「に、しても、貴方油断しすぎなんじゃない?仲間ばかり見て、自分を見れてないようじゃいけないわよ?」


 はいごもっともです……姫様ランナーを討ち取り、クリスの事を心配した所を木から落ちて死亡……いくら何でもこれは自分でもどうかと思う内容だった……。


「ま、今回ばかりは貴方だけが悪い訳じゃないし、何とも言えないんだけどね〜。」


【カズマ!カズマ聞こえる!?】


「あら?エリス、久しぶりね?」


【ア、アクア先輩!!お、お久しぶりです……。】


「あんたねぇ…女神のあんたが人間を守らないでどうすんのよ?いい?人間、特にこの元ニートは体も強くなければ意思も弱い、そんな人間を貴方が守らないでどうすんのよ…」


【……はい……すいません……】


「まぁ、今回も見逃してあげるけど、次は本当にないからね?分かった?」


 そう少し失礼な事を言う女神アクアを尻目に、蘇生の門を通る……。













 目を覚ますと、真っ青な顔をしためぐみんが顔を埋めるかの如く土下座し、クリスは少しホッとした顔でこちらを覗き込む、そしてダクネスはリザードランナーにボコボコにされた後を見て顔が火照ていたのを気にしないことにした。


 それよりも……。


「おいこらめぐみん、人の言う事を聞かないとこういう事になるんだ、分かったか?」


「……本当に御免なさい……」


「にしてもめぐみん、めぐみんが爆裂魔法が好きなのは知っているが、流石に今回は危険過ぎた、一体何か事情でもあったのか?」


 何言ってんだダクネス、こいつが爆裂魔法を撃つ理由なら説明してただろうが、息をするのと同等の感覚だってよ……。


「………だって、この前我儘聞いてくれるって言ったから…デートに行きたいって言ったら、ガキのお前にはまだ早い、とか言ってお菓子渡してきたんですもん……。」


「えぇ……なんだそんな事かよ……」


「そんな事とは何ですか!!私にとってはとても大事な事だったんですよ!?」


「はいはいすまんかったな……また来週にでも行くか……。」


 そう言うと少し嬉しそうな顔をしためぐみん。


「にしてもカズマったら、ありえない方向に首が曲がってたんだよ?結構重症っぽいから暫くは休む事をおすすめするよ。」


 俺の首がありえない事……か、俺首に関しての死因2回目じゃね?いやはや少し身震いしてしまった……。


「まぁ、今日の所は早く屋敷に戻って休んでるといい、報告は私達がやっておこう。」


 そう優しい口調でダクネスがそんな事を言ってくれた、死んだ事でショックを受けていないかと心配してくれてるのだろう、ダクネスの心遣いを素直に受け、皆で帰路へとついた……。

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