この素晴らしいエリス様と祝福を! 女神様でも青春がしたい! 4


 「第5章 決戦!理不尽要塞に爆破落ちを!! 後編」


「いきます!セイクリッド・スペルブレイク!!!!」


 エリスが演唱を終え、魔法を放つ。


 エリスの周囲に複雑な魔法陣が浮かび上がったかと思うと、その手には白い光の玉が浮かんでいた。


 エリスはそれを前にかざすと、デストロイヤーに向かって撃ち出した。


 撃ち出された光の玉がデストロイヤーに触れると同時に、一瞬デストロイヤーの巨体に薄い膜の様な物が張られ抵抗したが、ガラスの様に砕け落ちる!


 俺は拡声器に向かって大声で!


「ウィズ!めぐみん!頼んだぞ!!」


 二人同時に朗々と力強く演唱を始める。


 俺達の待機する目の前を、デストロイヤーが轟音と共に通り抜けようとする中…かつては、凄腕のアークウィザードの名を欲しいままにした、今は経営難に苦しむ小さな魔道具店のリッチーと、頭のおかしい爆裂娘でありチョロインの名を欲しいままにしている、唯一つの魔法に全てを捧げた、紅魔族随一のアークウィザード。


 その二人の最強の攻撃魔法が、難攻不落の賞金首へと放たれる。




「「エクスプロージョンッッ!!」」




 ___全く同じタイミングで放たれた二人の魔法は、機動要塞の脚を一つ残らず粉砕した!


 とんでもない地響きを立て、平原のど真ん中に底部をぶつけ、そのまま慣性の法則に従って、街の方へと地を滑る。


 が、ダクネスの目と鼻の先で動きを止めた。


 ウィズが吹き飛ばした向こう側は、欠片も残さず吹き飛ばされてのか、殆ど欠片は降ってこない、だがこちら側はパラパラと大きめの破片がふりそそいだ。


 それはつまり……。


「ぐぬぬ……。む、無念です……。流石はリッチー、私では、ウィズの爆裂魔法に勝つにはまだレベルが足りないようです……」


 めぐみんが、うつ伏せに倒れたまま無念そうに呟いた。


 その小さな体を抱き起こしてやると、俺に支えられながら、めぐみんは魔力を使い果たした真っ暗で泣きそうな顔で。


「く、悔しいです……。つ、次は……。次こそは……!」


「よしよし、良くやった良くやった。相手は魔道を極めたリッチーだぞ?勝てないのが当たり前だ、次回、また頑張ればいいさ…。見ろ、目的自体は果たせたんだ。」


 帽子を深く被り下を向くめぐみん……。


 今はそっとしといてやるか……。


 めぐみんを木陰にずるずると引っ張ってそのまま横たわらせると、他の冒険者達が未だに降り注ぐ破片から頭を守る中、エリスとウィズが俺の下へとやってきた。


「乙かれエリス、それとウィズへの殺気を隠す努力をしろ……。」


「無理ですかね?まぁ今回は活躍してくれたので見逃しますけどね?」


「あ、ありがとう、ご、ございます……。」


 そんなやりとりをしていると、大地が震えるような震動が来る。


 冒険者達が不安げにその巨体を見上げる中、それは唐突に。


 『この機体は停止致しました、この機体は、機動を停止致しました。排熱、及び機動エネルギーの消費が出来なくなっています。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難して下さい。この機体は……』


 機動要塞の内部から流れ出したその機械的な音声は、何度も何度も繰り返される。


 デストロイヤーの中から何度も何度も避難命令が出される中、俺は近くに居た冒険者達を集めていた。


「カズマ君、僕の予想ではこのままだと、ボンッ!ってなるんじゃないかと思うんだが、どうかな?こういった場合だと……。」


 ミタラシの言葉に居並ぶ冒険者達の顔が引き攣る。


 この巨体な要塞の動力源すら知らない俺達に、これ以上どうする事も出来そうにない。


 しかしウチの頑固なクルセイダーが、街を捨てて逃げてくれるだろうか。


「……やるぞ。俺は」


 それは誰の呟きだったのだろう。


「……俺も。もうレベルが30を超えるのに、何故未だにこの駆け出しの街に居るのかを思い出した!!」


 ……そ、そんな奴がいたのか、だが気持ちは痛い位に分かる。


「むしろ今まで安く世話になってきた分、ここで恩返しできなきゃ終わってるだろ!!」


 ……俺は拡声器を手に、大声を張り上げた。


「機動要塞デストロイヤーに、乗り込む奴は手を挙げろー!!」


 迷うことなく一斉に男性冒険者が手を挙げる中、アーチャー達がフックつきロープのついた矢を、デストロイヤーに向けて打ち上げた。


 やがて最初にロープに取り付いた冒険者が、いち早くよじ登る。


 その後にも続々と、まるでこの日の為に鍛えてきたとでも言わんばかりに、彼らは異様な士気の高さで……!




「「「乗り込めー!」」」













「ゴレームを囲め囲め!大勢でローブを使って引きずり倒せ!」


 それはもうどちらが侵略者か分からない光景だった。


 既に多くの小型ゴーレムや戦闘用のゴーレムが、駆け出しの多いはずのこの街の冒険者達に破壊されている。


「おらっ!この中にいるんだろ!開けろ!このドア、ハンマーで叩っ壊すぞ!」


「出てこい!街を背負った責任者出てこい!とっちめてやる!」


 その罵声にそちらを見ると、数名の冒険者が、この要塞を乗っとったと言われている、責任者が立て籠もっていたとされる建物のドアをこじ開けようとした。


 本当にどうみてもこちら側が侵略者です……。


「デカいのがそっち行ったぞーっ!」


 その声に振り向くと、そこには一体の戦闘用のゴーレムがいた。


 まるで一年前のロボットを思わせる、無骨で大きい、四角く角ばった人型のゴーレムだ。


 それがこちらに向かって来る中、他の冒険者達が俺達の手助けをしようと寄ってくる。


 だが、俺には対ゴーレム用の秘策があった。


「よーし見とけエリス、ウィズ、目に物見せてやる!」


 俺は手をわきわきさせて、ゴーレムに向かって手を上にして突き出した。


 相手はゴーレム…なら、部品を奪っちまえば動けまい。


 日本に居た時、何かのRPGゲームで機械系の敵に使った即死技だ。


「スティールッ!」


「ちょっ!カズマ、待っ……」


 俺が何をするのか察したのか、エリスが鋭い制止の声を上げるが……。


 俺の突き出した手の上には、見事、巨大ゴーレムの頭が載っていた。


 勿論頭を盗られたゴーレムは、途端に動かなくなる……計画通り……!


 スティールによってしっかりと俺の右手の上に載っかった、かなりの重さを誇るゴーレムの大きな頭は、そのまま重力に従って、俺の右手を下敷きにして、地面に落ちた。


「……っぎゃー!腕が!腕があぁぁぁぁあっ!」


 ドヤ顔だった俺の表情が泣き顔に変わり、慌てて付近の冒険者達が、右手を挟んでいるゴーレムこ頭をどけてくれる。


「全く…。だからやめた方が良かったのに……。『ヒール』」


 エリスが呆れながら俺に回復魔法を唱えてくれる、あぁ有難や……。


「開いたぞーっ!」


 砦の様な建物のドアを冒険者達がハンマーで叩き壊し、そのままぞろぞろと建物の中に突入して行く……。


 今の彼等には、怖いものは無いのだろうか。


 俺達も、そんな頼もしい冒険者達の後について行った。


「……おっ、カズマ。良い所に来たな。……見ろよこれを」


 そう言ってきたのは、部屋の中にいたテイラー。


 そのテイラーも何だか寂しげな顔だ。


 見れば、何かを指差している……それは、白骨化した人の骨。


 この機動要塞を乗っ取った研究者は、ゴーレムに囲まれたこの要塞内で、寂しげに部屋の中央の椅子に腰を掛けていた。


 俺はエリスを呼び、部屋に招く。


 そして無言で骨を指差すと、エリスは静かに首を振った。


「すでに成仏していますよね……。アンデット代どころか、それはもう未練の欠片もないくらいにスッキリと……。」


 ………。スッキリと?


「え?いや未練位あるだろ。これどう見ても一人寂しく死んでいった、みたいな……」


 その俺の言葉に、エリスが何かを見つけた様だ。


 それは机の上に乱雑に積まれた書類に埋もれた一冊の手記。


 エリスがそれを手に取ると、皆、空気を察して押し黙った……。


 冒険者達が見守る中、鳴り響くのは機械的な警告の音声。


 そんな中、エリスが手記を読み上げるーー


【※ここは原作通り※】


 これで最後まで読み上げたのだろう。困った顔で、エリスが言った。


「……こ、これで終わり…、です…。」


「「「舐めんな!!」」」


 エリスとウィズ以外が見事にハモった。













「これがコロナタイトか。ってか、これどうやって取るんだよ…。」


 そこは機動要塞の中央部。


 大人数で行ってもしょうがないと、皆に任された、俺とエリスとウィズの3人で入った部屋の中だった。


 部屋の中央には、鉄格子に囲まれた小さな石、コロナタイトの姿がある。


 ___その希少な鉱石は、燃える様な赤い光を放ち続けていた。


 だがどうしたものか。


 鉄格子に囲まれたそれは、どう考えても取り出せない。


 ___なるほど、攻め込まれた時間の最後の砦か……。


「てことでミツロギ、お願い」


「ミツルギだと言ってるだろう……フンッ!!」


 そんな感じで鉄格子を切ってもらった。


「んで次ウィズ、ランダムテレポートで飛ばそうぜ。」


「えぇ!?で、でも…。何処に飛ぶか分かりませんよ?…。」


「安心しろって、この街随一の幸運の持ち主と、幸運の女神様が居るんだ、大事にはならないさ、、多分……。」


 エリスは無言でウィズを見つめる…。


「ど、どうなっても知りませんからね!?『テレポート!!』」


 俺達が部屋から出ると、他の冒険者達がゴーレムを軒並み倒し、機動要塞の警報を止んだ事から、引き上げに掛かっていた。


 皆が次々とロープを伝って降りる中、そこに残されたのは俺達のみとなっている。


 見れば、あの研究者の骨も地上に降ろされ、木箱に収められていた。


 俺達も地上へと降りると、ダクネスやめぐみんの下へと向かった。


 浮かれる皆とは裏腹に、ダクネスのみが未だ険しい顔で機動要塞を睨んでいる。


「おいダクネス。無事デストロイヤーの心臓部を止めてきたぞ。もう終わった。はぁ〜…。流石に疲れたよ、屋敷に帰って、今日位はちょっと豪華な飯食おうぜ」


 そんな俺の言葉に、ダクネスが小さく呟いた……。


「まだ、終わっていない。私の強敵を嗅ぎつける嗅覚が、まだ香ばしい危険の香りを嗅ぎとっている。……あれはまだ、終わっていないぞ!」


 ダクネスの言葉に反応するかの様に、機動要塞そのものが、振動と共に震えだした。

おいおい、心臓部は取り除いたはずだろうが!


「どうなってんの?なぁ、アレ、どうなってんだ!」


「落ち着いてカズマ君!これはあれだ!最後の自爆技だ!」


 俺達だけでなく、冒険者達も異変に気づいたらしく、彼らは、慌ててデストロイヤーから距離を取る。


「ま、魔力を!誰か魔力を分けて下さい!爆裂魔法をあの亀裂に撃ち込んで、爆発を相殺します!!!」


 ウィズが唐突に近くの冒険者にそんな事を言い出した。


 俺は慌ててウィズを捕まえて小声で呟く。


「お、おいウィズ!そんな言葉したらお前がリッチーだってバレるぞ!」


「で、でも!魔力を吸える私しか、アレを止める事は……!」


「なら俺が今ここで覚える!俺が誰かから一旦魔力を預かって、それをウィズに受け渡せばいい、手間は掛かるが、それしか無いだろ。」


 冒険者の中で、特に魔力の大きそうな奴と言えば……! 


「な、なぁエリs…。」


「やだ。」


 ………。


「てかそもそも私の魔力をウィズに上げると、ウィズ成仏しちゃうよ?」


「ひ、ひぃぃぃぃいっ!」


 なんか食あたりみたいだな…。エリスの言葉が本当なら、残されたのは___


「真打ち登場」


 めぐみんが、杖にしがみついてよろよろとこちらに寄ってくる。


 エリスが俺の前に座り、何時でも魔力を吸える体制に。


 その隣では、めぐみんがデストロイヤーに杖を向け、何時でも魔法を放てる様に構えていた。


「カズマさん、ドレインは皮膚の薄い部分からの方が、より多く吸収出来ますし、より多く送れますよ!」


 ウィズが真面目な顔で教えてくれた。なるほど、皮膚の薄い部分か……。


 俺は真面目は顔をして二人に伝えた。


「てことで前に手突っ込んでいい?」


「「死にたいならどうぞ。」」


 畜生胸がない癖にいっちょまえに気にしやがって…!!


 妥協案として、俺はめぐみんとエリスの首根っこを摑んでいた。


 そこからエリスを通じてめぐみんへと魔力を与えている。


「ヤバいです、これはヤバいですよ!エリスの魔力はヤバいです!これは、過去最大級の爆裂魔法が放てそうです!」


「そ、そうですか、それは良かったですね…。」


 何かめぐみんの体が赤く光ってきているが…まぁ大丈夫だろう……。


「もうちょい!ちょういょいいけます!あっ、ヤバいかも……」


「おいヤバいって何だよ!爆発なんてしないだろうな!?」


 物騒な事を口走り始めためぐみんが、左目の眼帯をむしり取ると、杖を構えて魔法を唱える。


 既に聞き慣れた爆裂魔法の演唱が、冒険者達が遠巻きに見守る中に響き渡った。


「他はともかく、爆裂魔法の事に関しては!私は、誰にも負けたくないのです!いきます!我が究極の破壊魔法!」


 めぐみんの杖先がら熱を吹き出し、今にも弾け飛びそうはデストロイヤーに向けられる。


___紅い瞳を輝かせ、負けず嫌いのアークウィザードが、張り裂けんばかりの声で、魔法を唱えた。


「『エクスプロージョン」ーーッッッ!』」

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